帝城でも目立ちたくない④
目の前の女はマリア・ローバーと名乗ったが僕の記憶にそんな名前の人はいない。
という事は初対面だな。
なのにどうして目の前で片膝を付いているのか、理解できない。
周りを見れば、全員固まってしまっている。
これはこの後の動きが重要になってくるぞ。
何のつもりでそんな畏まった礼を僕相手にしているのか、誰か分かる人はいないのか?
丁度周りを見た時にシャーリーさんと目が合った。
呆れたような態度だ。
「はぁ、よくもまあそれだけ綺麗に手の平を返せますねマリア。」
「シャーリーさん、えっと、この方は一体……。」
いつまでも片膝を付かれていては気まずい。
その為とりあえず一旦は立ってもらった。
「マリス、マリアはね、虹色魔導師は自身よりも遥か高みの存在だと認識しているんだ。というのもクレイさんが師匠ってのも理由だと思う。」
ルーザーが教えてくれたが、まったく面倒くさい方だな。
マリアさんは五色魔導師であるクレイさんを格上だと認識し、更にその上の虹色魔導師を神聖視しているそうだ。
勝手に神聖視される僕の気持ちも考えて欲しい。
「あ、僕はシャイア・ローバーだよ。マリス君と同い歳なんだ。」
姉が異常であれば弟はまともらしい。
これで弟までおかしければ、僕は気が狂う所だった。
「マリス殿、折行ってお願いがあるのですが……。」
もう次に続く言葉は分かるよ。
あれだろ、虹色の魔力を見せてくれとでも言うんだろ?
「虹色の魔力を……」
ほら来た。
まあ今更この人に隠す必要もないし、見せてあげるか。
「私にぶつけて頂きたい。」
ん?
なんだ、ぶつけるって。
見せるんじゃないのか?
「姉さん、傍から見ればただのドMにしか見えないよ。」
「やかましいシャイア!!虹色の魔力を浴びる機会など今後ないのだぞ!!」
なんだよ虹色の魔力を浴びるって。
魔力をぶつけるのはもちろん簡単だ。
自身の魔力をぶつけ合いお互いに力量を測ったりすることができるし、僕もやったことがないわけではない。
ただ、七色の魔力をぶつければ多分この人は吹き飛ぶぞ。
四色の魔力で防ごうにも残りの三色に対しては無防備だ。
危険だと思うけどな。
「危険でも構わない!!頼む!!一生のお願いだ!!」
「……いいですけど、誰か後ろで結界を張っていてもらえますか?多分かなり吹き飛ぶと思います。」
「ふふふ、虹色の魔力を浴びた者などこの世に私だけになるぞ……楽しみだ……。」
笑い方がもう不気味だ。
もっとマトモな人だと思っていたけど、想像してたより変態らしい。
周囲は少し距離を取ってもらい、マリアさんの後ろにはシャーリーさんとクルーエル姉妹が緩衝材としての結界を張る。
「じゃあいきますよ、構えていて下さい。」
「いつでも構わん!!」
やる気に満ち溢れたマリアさんに狙いを定めて、僕は魔力を全て解放する。
マリアさんも対抗するべく四色の魔力を解放させた。
七色の魔力と四色の魔力がぶつかり合うとほんの少しだけ拮抗した。
だがそれもほんの少しだ。
魔力の質や量が比較にならない程に差があれば僕の魔力を止めることなど出来ない。
七色の魔力は衝撃波となりマリアさんをふっ飛ばした。
結界に強く叩きつけられた彼女はウッと小さく呻くと恍惚の表情を見せた。
いよいよ変態極まってきたな。
「フフフ……これが……虹色の魔力の痛み……。」
マリアさんは痛みをしっかり味わいながら気分が高まっているようだった。
こんな人が帝国最強の一角だと思うと、十二神もろくな奴がいないな、というのが正直な感想だ。
「すみませんマリスさん、僕の姉はこういう人なんです……。」
「……変わってるね。」
変わってるというレベルを超えてはいるが、そこは突っ込まないでおこう。
マリアさんはひとしきり満足したのかキリッとした顔に戻ったかと思うと立ち上がり、僕の前まで歩いてくると90度腰を曲げた。
「マリス殿、本当にありがとう。七色の魔力をその身で味わった事は未来永劫語り継げる思い出になるだろう。」
「……まあ、喜んでもらえたなら良かったです。」
「それとついでと言ってはなんだが、手合わせもしてみたい。」
ついでか?
それメインの目的じゃない?
流石に手合わせするのは避けたい。
人目につかない場所ならいいけど、そんな所ないだろうし。
「人目につかない所ならすぐに用意ができる。どうだろうか?マリス殿の力を見せつける意味でも私と手合わせというのは……。」
僕の考えを読んでいたのか、マリアさんは場所の用意は簡単だと言う。
しかしここは帝城だ。
そんな所に人目につかない場所なんてあるのだろうか?
「ああ、それならあそこの事だね。いいよマリア。皆でマリスの勇姿を見るのも面白いし。」
「ルーザー、あそこの場所ってなんだ?」
「十二神にしか使う事の出来ない訓練場があるんだ。遮音結界に視界を遮る結界を重ねてあるから外からは見えない。」
そんな場所があるのか。
そうだった、目の前の女性は変態だから忘れていたけど十二神だった。
手合わせと聞いたせいか聖女までもがキラキラした視線を送ってきている。
誰にも見られないのであれば、少しくらいはいいかなと思ったのが過ちであった。
この時の僕を殴ってやりたい。
全員でその訓練場まで移動すると結構な広さのあるグラウンドであった。
帝城の敷地内にあり周りは石壁で囲まれている。
そこにプラスして結界を展開し更に見えなくするという仕組みだ。
もちろん結界の強度は最高峰らしい。
十二神達がここで訓練する為強度が高くなければ満足に訓練も出来ないからだ。
だがおかしいな。
手合わせはマリアさんとするとしか聞いていないはずだが、シャーリーさんはフル装備でストレッチを始めている。
明らかに見るだけとは思えない準備だ。
それと何処から聞きつけたのか、クレイさんも観覧席で見ていた。
僕以外は気付いていないのか騒ぎにはなっていない。
「相手の情報が何もないというのも公平じゃないだろうし、ローバー姉弟の事を説明しておくよ。」
ルーザーから聞いた話によると、序列6位であるマリアさんが攻撃を担い、7位のシャイア君が防御を担う役割分担での戦いを常とするらしい。
面白いのは彼ら2人合わせると七色の魔力になる事だ。
擬似虹色魔導師として名を馳せているらしく、2人の阿吽の呼吸は脅威らしい。
「では審判は私が努めよう。それならお互い公平だろう?」
「クレイ殿!?」
いつの間にか観覧席から訓練場へと降りてきていたクレイさんがそう発すると誰も文句は言わなかった。
みんな驚いていたが、気配に敏感な僕以外は本当に気付いていなかったらしい。
気付かないフリをしているだけじゃなかったみたいだ。
クレイさんが審判を努める事に反論はない、この場にいる誰よりも審判に適任だったからだ。
フェイルなんてクレイさんに憧れているせいか興奮して何を喋っているか分からないくらいであった。
「では、お互い向き合って。いいかい?これはあくまで模擬戦だ。戦闘が激化する場合は私が力ずくで止める。いいね?」
「「はい。」」
2対1だが実質1対1みたいなものだ。
2人で1人のローバー姉弟か、初めての相手だし油断はしないでおこう。
「マリス・レオンハート対ローバー姉弟。戦闘開始!!」
クレイさんの掛け声によりお互い魔法陣を展開した。
最近1話の文章量が増えていますが、基本10話ごとに区切ってサブタイトルをつけているので調整だと思って下さい( ̄ヘ ̄;)
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