王国内でも目立ちたくない④
今僕の聞き間違いでなければ、クレイ・グレモリーと名乗った気がする。
流石に僕でも知っている有名人だ。
世界でただ一人の五色魔導師であり、世界最強。
まさか目の前の人物がそうとでもいうのか?
「聞こえなかったか?私の名はクレイ・グレモリー。君の名前も教えて欲しいものだ、もちろん本名をね。」
僕が固まっていると目の前の男性は再度自身の名を名乗った。
次は聞き間違いじゃない、確かにクレイと言った。
しかも僕のガインという名が偽名だとバレているようだ。
不味いことになったぞ。
一番バレると厄介そうな人に目を付けられている。
そうこうしている内にクレイさんの魔力は溜まったようで、静観していた。
どうするべきか、ここでマリスと正直に言うべきか、それともガインの名を貫き通すか。
「ああ、ガインという名が偽名だとはもう分かっている。それにこの戦争の引き金となった理由もね。」
「……ちなみにそれは教えてもらえるんですか?」
「君が本名を名乗れば、ね。」
うーむ、これは取引だ。
僕もなぜ急に帝国が王国を滅ぼすなんて言い出したのかは気になるが、本名をバラすのは大きなリスクに思える。
目立ちたくない一心で生きてきたのに、ここでバラせば今まで隠してきた事が無意味になってしまう。
「ま、名乗らないと言うのなら別に構いはしないが……。」
なんだ、名乗らなくてもいいのか。
それならこのまま戦うか?
いや、相手は有象無象とは違う。
世界最強だ。
手加減なんてフザけた事もさせてもらえないだろう。
どうするべきか僕が悩んでいると、クレイさんは目の前に魔法陣を展開した。
「ここでウダウダ言い合っていても仕方ない。まずは小手調べだ。堂々たる雷神の一撃。」
クレイさんの魔法陣から超極太の雷撃が放たれた。
冗談じゃない、何が小手調べだ!
当たれば消し炭になる威力だぞ。
「雷の防護膜×10!」
僕は自身の周りに雷の結界を10層張る。
ただこれは悪手だったらしい。
瞬時に突破してきた極太の雷撃は僕へと迫った。
「氷の牢獄×5!!」
すぐさま僕は氷の壁で身を守った。
5層の結界はそう簡単に破られはしなかったようで、1層の氷の壁だけを残して雷撃は霧散した。
「ほお、やるではないか。では次はこれだ。鋼の岩腕×2。」
今度は厳つい岩の腕が2本僕を押し潰さんと迫ってきた。
遊んでいるにしては、ちょっと殺意が高くないか?
「二柱の業火×2!!」
岩の腕を弾き飛ばすように、地面から二本の炎柱が勢いよく伸びた。
火力が高いせいか岩の腕は半分溶け、バラバラに砕け散った。
「なるほど、汎用性も高いと……ならばこれはどう受け止める?火炎岩弾×20。」
まだ来るのか?もういいよ。
それになんだその数は。
火炎弾が雨のように降り注ぐのを見て驚愕した。
この人は加減というものを知らないのだと。
複属性魔法を20発も同時に放つなんてどうかしている。
「殺す気ですかっ!?氷の牢獄×5!」
また氷の結界で自身を守るが、火炎弾の威力が高すぎるのか1枚、2枚と徐々に破られていく。
「同じ魔法では防げんぞ、違う手段を使いたまえ。」
謎に説教してくるが、今はそんな事を気にしている余裕はない。
結界がもたないと判断した僕は風魔法を纏い後方へと跳んだ。
「君の実力は高いと知っているが、実戦というのはこういう事だ。風舞う十三本の火柱!!」
後方へと跳び距離を取った僕の足元から火柱が吹き上がった。
避けようと身体を捻ったが、バランスを崩し着地時に転んでしまう。
地面が熱く感じ、全身を水の鎧で覆う。
「ぐっ水の覆い!」
勢いよく噴出した火柱に吹き飛ばされた僕は少し火傷を負ったが、常に全身を覆う結界を張っていたお陰でその程度で済んだ。
普通なら消し炭だ、本当に加減というものを知らないのかあの人は。
「よく防ぎきれたな!!ならばこれはどうだ!?赤き雷は水面を穿つ!!」
赤い魔法陣から放たれるのは青と黄色の混じった雷撃だ。
三色の複属性魔法を撃ってくるなんて聞いていないぞ!
「白き破壊の雑音!!」
あんなどでかい魔力を纏った魔法をかき消すにはこちらもそれなりの魔法でなければならない。
正体がバレるかもと、苦渋の決断だったが僕のオリジナル魔法で迎え討つ。
辺りを轟音と土埃が包み、一時の静寂が訪れた。
ゆっくりと空中から降りてくると、徐々に煙が晴れクレイさんの姿が露わになった。
僕の魔法とクレイさんの魔法は相殺したのかお互いに怪我はなかった。
「この私と対等に渡り合えるとは……やはり虹色魔導師というのは本当の話か……。」
「……なんの事か分かりませんね。」
「いや、気にしなくていい。こちらの話だ。それにしてもあれだけの魔法の応酬だったというのに疲れが出ていないな?」
「それはお互い様では?」
「確かに……はっはっは、いや楽しませて貰った。君と戦ってみたかっただけだ、別に害するつもりはない。」
害するつもりはないとかいいながらも魔法の殺意は凄かったんですけど。
ちょっとでも気を抜けば死体すら残らなかったぞ多分。
「君はこれから何処かへ向かうつもりだったんだろう?悪い事は言わないから一度元の場所に戻りたまえ。」
「そう言う訳にいかないんですよ。依頼を受けていますからね。」
「依頼?それは誰からかだ?教えて貰えないか?」
「いえ、流石に言えませんね。僕の周りに被害が及ぶ可能性がありますから。」
「ということは、君は自身の意思で帝国と戦っている訳ではないのだな?」
「はい、まあ僕も帝国民ですからね。」
「なるほどなるほど……理解した。君の足を止めて悪かったな。ただこれより先に進まれると他の帝国兵がいるんだ、君のような戦力を向かわせる訳にはいかん。それでも行くと言うのであれば私と続きをする事になるが?」
よし、帰ろう。
この人と続きをやるなんて御免だ。
どちらかが死ぬまで戦わされそうだし。
「……帰ります。」
「それがいいだろう。ではなマリス・レオンハート君。」
ローブをはためかせくるっと後ろを向いたクレイさんは元の場所へと戻って行った。
それにしても大変だったな。
まさか王国内で最強と戦う事になるなんて思いもしなかった。
……待てよ、僕の名前言わなかったか?
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