第3話 1年後の日常 前編
3つに分けます。
異世界から帰って来て1年が過ぎ、いよいよ父さんが刺された日が近づいてい来る。
前回は結局犯人が捕まらず、事件は迷宮入りとなってしまった。
今回はあの悲劇を繰り返さない為、俺は父さんの周囲を徹底的に調べた。
前回、警察から聞いた話では、父さんは脇腹を何度も刺され、強い恨みによる犯行の可能性が高いと言われたからだ。
「手掛かりは無し...か」
一年を掛けたが、父さんに恨みを持つ人間は見つからなかった。
俺なりに調べたが、やはり高校生がする事には限界がある。
「探偵でも雇えたら...」
だが、そんな金は無い。
貯金を全部叩いたところで、十数万の予算じゃ充分な成果は期待出来そうにない。
残された手は、事件の起きた日に父さんに会社を休んで貰うか、違う時間にして貰うか位だ。
「...それもだけど」
父さんの事が一番なのは絶対だが、俺自身の周りに起きている状況を把握しないといけない。
それが俺をずっと悩ましているのだ。
「俺に妹なんか居たっけ?」
前回の俺に妹は居なかったのに、2ヶ月前、妹の紗央莉が生まれた。
母さんから妊娠したと聞いた時は驚いた。
俺と年が16歳も違う。
母さんは今年38歳だから、信じられなかった。
だが、妹の存在はずっと一人っ子だった俺にとって、最高の癒しとなっている。
「あの笑顔といったら...」
最初の頃、俺を見る度泣いていた紗央莉。
だけど今はすっかり懐いてくれた、今日は両親揃って三人で新生児検診に行ってる。
早く帰って来ないかな?
それにしても、あんなに父さんと母さんは仲良かっただろうか?
記憶にある前回の両親は、俺が中学に上がった頃は寝室を別にしていた。
しかし今回は今も両親は寝室を共にしている。
ベッドまてキングサイズの物を使い、一緒に寝ているのだ。
父さんだって、もうすぐ43歳なのに、よくやる。
「でも一番の違和感は...」
虍牛美晴と夏鈴姉妹だ。
あの二人も前回は居なかった存在だが、この時系列では小学一年からの俺の幼馴染みだという。
家にあったアルバムの写真や、携帯に残されていたラインの通話記録から、三人が親しい付き合いをしていたのは分かった。
だが俺の中には二人の記憶が無い。
写真に残されていたキャンプや花火大会、誕生会の記憶も...
「ごめん...」
二人には申し訳ないが、どうしようもない。
なんでこんな事が起きてしまったんだ?
クリスティンは違う世界に俺を戻したのか?
周りの男子共からは滅茶苦茶羨ましがられ、前回友人だった奴等から距離を置かれていて、俺は美晴と夏鈴以外ひとりぼっち。
最初の頃は、なんとか友達を作ろうとしたが、何故か二人が間に入って来てしまうのだ。
しかも、あの二人は必要以上には近づいて来ない。
寧ろ避けられている様に感じる時もある。
俺の家には変わらず頻繁に来ているが、俺と話そうともしないし、時折怯えた目で見られている気がする。
「...当然か」
いきなり中身が俺になったんだ、二人は違和感に気づいてしまったのだろう。
...人間が急に入れ替わってしまったら...誰だって...悲しいよな...
『どうしたんだ?
俺達は仲間じゃなかったのか!?』
『はあ?バカ言わないで』
『お前みたいなゴミクズが仲間だと?』
ミッシェルの振り上げたロッドが俺の頭を叩く。
激しい痛みに昏倒する俺にフランシェスカが近くに置かれてあった槍に付ける毒薬を...
クソ!また悪夢が!
紗央莉が生まれてから最近は見る事が殆ど無かったから油断していた!
「ウゲェェ...」
押さえた口から胃液が噴き出す。
頭が痛い、これは毒薬が全身に回った時の記憶だ。
あの時は気を失うまで仲間からも暴行されたんだっけ...
「しっかりして!」
「マサシ!」
美晴と夏鈴が俺の部屋に飛び込んで来る。
身体を掻き毟る俺に美晴が優しく手を翳すと、不思議だ...悪夢が脳裏から...
「...ごめんね、遅くなって」
「私が...ちゃんと見てなかったから」
「...いいんだよ」
一体どうして二人は?
そんな疑問は口にする事なく、俺は静かに目を閉じた。