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エピローグその3 クリスティン~異世界人に神格を奪われた私のもう遅い

『女神の私がここまで追い詰められるなんて...』

 心中の屈辱を顔に出せない、私は一人の男に微笑む。

 八つ裂きにしてやりたい過去の憎しみ、そしてすがり付くしかない現在。

 二つの感情にどうにかなりそうだ。


「マサシ、久し振りですね」


「いい加減にしろよ、クリスティン」


 憎々しげに男が私を呼び捨てる。

 コイツは最初に召喚した時から、私と対等の口を聞いていた。


 一体何様のつもり?

 私はこの世界の女神なのだ、塵芥な人間如きが無礼な態度を取るなんて...


「前回が最後だと言っただろ、神様ってのは約束も守れないのか?」


「...う」


 奴の目に怯んでしまう。

 しかし引くわけには行かない。


「魔王が...また」


「それなら新しい勇者を召喚したらいいだろ、俺にこだわるな」


「...出来るならそうしてる」


「はあ?」


「それが出来るならしてるわよ!」


 私だってそうしたい、でも無理なの!


「なぜだ?」


「その力が無いからに決まってるじゃない!」


「力が無い?お前は神様なんだろ?」


「そうよアンタ達に力を殆ど取られた残りカスのね!」


 コイツを二回も召喚したせいで、禁忌に触れた私は他の神々から糾弾されてしまった。

 私を取り囲み、口々に罵ったのだ。

 人間であるマサシが神の如く奉られては、神界の秩序が崩れてしまう...


「アンタの仲間達全員の願いを叶えさせろ...嫌なら神界から追放すると神々から言われた...」


「追放されたらどうなる?」


「...人間になる。

 罰を受け続け何度もやり直しを、私への信仰が再び戻るまで」


 こんな救われない話があるだろうか?

 人間の為に尽くして来た私が、なんで無力な奴等と同格に堕とされなければならないの?


 人間になってしまったら、どうやって私への信仰を集めれば良いの?

 神の力は殆ど失われてしまうのに...


「仕方ない...のかな」


「ふざけるな!!」


 何が仕方ないだ!

 私は世界を救う為、常に最善を尽くして来た。

 涙が出そうになる。

 我慢出来ない私は奴に怒鳴っていた。


「...でも俺はクリスティンに感謝してる」


「マサシ?」


 なぜ神妙な顔を?ここは嘲る所じゃないの?


「クリスティンはちゃんと約束を果たしてくれた。

 俺は父さんを、母さんを救う事が出来た」


「そ...そうよ」


 その通りだ。

 マサシを過去に戻す事で、彼の人生は素晴らしい物になったのだから。


ミッシェル(美晴)フランシェスカ(夏鈴)は俺を支えてくれて」


「まあ...確かに」


 次の人生でマサシを支えたいと言ったから、二人の願いを叶えてやった。

 だがマリア(紗央莉)を忘れているぞ。


「だから二回目の召喚も受けた、捨て駒にされるのは分かっていたがな」


「そ...そうだったかしら」


 痛い所を突く、でも他に方法が無かった。

 新しい勇者達が連続で使い物にならないとは想像出来なかった。


「だがな、捨て駒を作り過ぎだ。

 この世界(異世界)の人間を何だと思っている?」


「...それは必要な犠牲よ」


 そんな事情まで考えられる余裕は無かった。

 私の役目はあくまで魔王から人間を救う事だけ。

 世界を救えば感謝される、それが私の(信仰)に繋がるのよ。


「そんな考えだから信仰を失ったんだろ」


「それだけで?」


 たったそれだけの事じゃないか。

 神は大局を見て判断してるんだよ?

 個人個人の事情なんか見られる筈無い。


「夏鈴が言ってたよ、クリスティンは人の痛みが理解出来ない神だと」


「夏鈴...ああ、フランシェスカの事か」


 忌々しい女ね、コイツが棄教してから私を信仰する人間が次々と減って行ったんだ。


「...マサシは私を見て何も感じない?」


「何をって...」


 両腕を広げ、マサシに向き直る。

 私を見る眼差し、やがてマサシは静かにうつ向いた。


「その...随分と...」


「汚くなったでしょ?

 人間からの信仰を失った神は輝きを失い、くすんで行くの」


「へえ...」


「ざまあみろって思ってるんでしょ?

 笑いなさいよ、惨めな神の成れの果てを」


 ...悔しい。

 長い時間を掛け、他の神々からも一目置かれるまで、神格を高めて来たのに。


「俺をなぜ、今さら召喚した理由は?」


「...さっきも言ったでしょ、私が召喚した訳じゃない」


「それじゃ誰が?」


「この世界の人間がマサシを呼んだの、私はその為に使われただけ」


「はあ?」


 マサシには理解出来ないだろう、しかし事実なのだ。


「魔王の復活に、世界の人々はマサシの復活を願った...二度も救ってくれた救世主をね」


「...バカな」


「貴方は今や神と同格の扱いなの、世界の脅威に頼られる程のね...誰も私に祈りを捧げない。

 だからマサシの復活を私に頼んで来たの、逆らう事なんか出来ないわ」


「クリスティン...」


「マサシはこの世界を救う神なの、危機を救う勇者として」


 馬鹿馬鹿しい話。

 マサシは単なる異世界の人間に過ぎない、神では無いのに。


「そっか...」


 マサシは頭を掻きながら私を見た。


「まあ200年は楽しかったしな」


「はあ?」


 一体何の話をしてるんだ?

 マサシ向こうの世界で過ごした時間なんか知らない。


「あれから三回転生したんだよ、前回の召喚が終わってからな」


「ふーん」


 それが何だと言うんだ?


「みんなと結ばれてハーレム自慢かしら?

 アンタも大概クズね」


「そんな事するか。

 一人と添い遂げてるよ、もっとも生まれ変わる度に俺だけ記憶が消えてしまうから、今思い出したんだけどな」


「どうだか」


 口では何とでも言える、一皮剥けば本性が出るだろうに。


「まあ無理に信じろとは言わない、俺だって半信半疑だ」


「そんな事なんか聞きたくない」


 だから興味が無いんだ、マサシが誰とどんな人生を歩んで来たかなんて。


「なら今回は一緒にやるか?」


「何を?」


「俺と魔王討伐だよ」


「へ?」


 マサシは何を言い出すのだ?


「だから、クリスティンは俺と行くんだ。

 勇者を支える人間としてな」


「馬鹿!」


 私が人間として魔王討伐?

 自分から進んで行く訳無いだろ!


「どうせこのままじゃ消えるか、追放されるだけだろ?

 なら賭けてみろよ」


「賭ける?」


「俺を支える元女神として」


「...マサシ、貴方は」


 確かにマサシは提案は一理ある。

 この先、私への信仰が増えるとは思えない。

 それなら一旦神を離れ、マサシを支えれば...


「分かった」


「決まりだな」


 こうして私は勇者マサシと転移する事になった。

 勇者マサシの人気は凄まじく、魔王討伐隊の士気は過去の比では無かった。


「今回はクリスティンと戦う」


「はあ...」


「マサシ様が仰るのであれば」


 対する私には冷淡な態度だった。

 戦いが始まり、人間になった私も参戦する事となった。


 勇者であるマサシには敵わないが、私の能力は人間よりは突出していた。

 一応は神だから当然、それに耐久力もある、下位魔族の攻撃は通じなかった。


「どうしてみんな私に冷たくするの?」


 半年が過ぎた。

 戦闘が終わり、ようやくキャンプに戻る。

 私は与えられた個室にマサシを呼ぶ。

 みんな酷いのだ、今日も私が魔族に囲まれたのに、誰も駆け付けて来ないのだから。


「当たり前だろ...」


 呆れた様子のマサシ。


「なぜ?私は役にも立とうと...」

「役に立とうと思うなら、勝手に動くなよ、ちゃんと打ち合わせ通りにやれよ」


 マサシはそう言うが魔族に隙が有れば、そこを突くのがなぜ悪い?


「討伐隊としてちゃんと作戦があるんだ、お前が勝手に動くと味方の陣形が崩れるだろうが」


「なんで?

 さっさと片付ければ良い話でしょ?」


 そんな陣形なんか無視すれば良い。

 敵を崩せば、総攻撃を加えられる。

 無駄な時間を掛けても仕方ない。


「そんな訳に行かないだろ、お前が突っ込むから味方にも損害が出てるんだ。

 被害は最小にしないと」


「はあ?

 被害なんか戦闘には付き物だ、死んだら来世に救いを与えたら良いだけの話よ」


 今までそうして来たんだ。


「もういい、お前は俺の隣に居ろ」


「分かったわよ」


 話をしても無駄だ、でもマサシの隣に居れば私の活躍するチャンスが増える。

 きっと私の勇姿に人間は信仰心を取り戻す筈。


 ...しかし考えが甘かった。


 マサシの隣は危険極まり無かった、魔族の強さも全く違う。

 特に主力の攻撃力は私でさえ、マトモに食らったら死にかね無い程であった。


「クリスティン、これが魔王軍との戦いなんだ」


「まあ...大変ね、でも私達が押してるわよ」


 悔しいがマサシの凄さは認めるしかない。

 伊達に三回も勇者をしてる訳じゃないって事か。


「俺だけの力じゃない。

 この世界で一緒に戦ってくれている、みんなのお陰だ」


「そうかな、マサシの力が有ればこそじゃないの?」


 マサシはなんで自分の力を誇ろうしない?


「頼る所は頼る、信頼が大事なんだよ」


「ふーん」


 それで一回目の時に呪われて、酷い目にあってりゃ世話無いわ。


「...お前な」


「心を読まないで」


 女神にリサーチのスキルを使う?


「今は人間だろ」


「仮によ、終わったら神に返り咲くんだから」


「やれやれ...」


 マサシに悪い気はするが、ここは譲る事が出来ない。

 他の神みたいに信仰を集めるチャンスは早々無いのだ。

 豊穣の神や、恋愛の神みたいにね。


 そして一年が過ぎ、いよいよ魔王軍の主力と戦う時が来た。

 予想通り、戦いは苛烈な物になった。

 私も死力を尽くすが、なかなか先に進まない。


「クリスティン様、余り無理はなさらぬ様に」


「ありがとう」


 隊員の言葉が嬉しい。

 なぜだろう?


「貴方、怪我してるじゃない」


「こんなのはかすり傷です、貴重な力を使っては、神に復活する時支障が...」


「良いから見せなさい」


「クリスティン様...」


 治癒魔法を隊員達に掛ける、

 別に感謝されたいからじゃない、戦力が減るのを避けたいからだ...きっと。


 更に半年が過ぎ、早い物で魔王討伐に参戦し二年が経った。

 いよいよ最終局面、魔王と直接対決となった。


「ガアアァ!!」


 マサシが魔王に聖剣を繰り出す。

 やはりマサシは強い、魔王はジリジリと押され始めていた。


「マサシ危ない!」


「え?」


 魔王の後方に隠れていた魔族が攻撃魔法をマサシに、私は叫びながら飛び出した。


「クリスティン!!」


「...あ」


 しまった!更に後方から伏兵が!!

 死を覚悟した私は目を閉じた。


「...う」


「マ...サシ...なぜ?」


 目を開くとマサシは私の前に立っていた。

 腹からは酷い出血が...


「オォォ!」


 私を突飛ばし、マサシが魔王の前に突っ込む。

 次々とマサシを貫く魔王の攻撃、しかし彼は一刀で切り裂き突進していく。


「終わりだ!」


 マサシが聖剣を振りかぶる。

 断末魔の叫びを残し、魔王の身体は霧散していった。


「やったの?」


「あ...ああ」


 マサシの身体が崩れ落ちる。

 酷い傷、早く治癒魔法を...


「止めろ...力は温存しろ」


「何をバカな事を!」


 私の腕を掴むマサシ。

 その強い力に魔法が行使出来ない。


「...俺は死んだら元の世界に戻るだけ...クリスティン...お前は神に」


「そんな事どうでも良い!」


 なぜ?

 このまま死んだらマサシは元の世界に戻っても、今までの記憶は全部消えてしまうじゃない、美晴や夏鈴、紗央莉達と過ごした記憶が...私の事も...全部...


「これで良い...俺は救世主なんかになりたくない。

 ...この世界に安寧を...クリスティン...頼む」


「マサシ...」


「マサシ様!」


「ああマサシ様!!」


 討伐隊員達が次々マサシの元に駆け付ける。

 もうマサシの意識は無い。


「クリスティン様...」


「...分かってる、みんなお願い」


「「「はい」」」


 みんな私に頭を下げた。

 願いは一つ、マサシを無事に元の世界へ送り届ける事...


「ア...あぁぁ」


 力が全て吸い取られて行く。

 もう私は実態が無くなって...


『...クリスティン様』


『貴女は?』

 誰だ、頭に聞こえるこの声は...


『美晴...ミッシェルです...』


『え?』


「まさか伝説の聖女様が?」


「これは一体!?」


 口々に討伐隊員が叫ぶ。

 みんなの頭にも聞こえているの?


『貴女の献身を世界の人達に伝えました。

 もう大丈夫です』


『何が大丈夫なの?』


『再び神になれますよ、信仰は復活しました』


「そんなの要らない!」


 マサシが居ないなら意味が無い!

 私だけ残されてしまうなんて!!


『...クリスティン』


「...マサシ?」


 ああマサシの声が...


『頑張れ今度こそ、立派な女神として...』


「...分かったわ」


 ...そうよね、私は神様なんだから。


『まあ手遅れになる前によくやったわ』


 ...この声、間違いない。


『フランシェスカ...』


『夏鈴よ、マサシは返して貰うわ、貴女はこの世界を救うんでしょ』


『うん...』


 それは分かってる...でも最後にマサシへ私は...


『はい終わり、もう遅いわ』


『ちょっと?』

 頭から何も聞こえなくなり、マサシの身体は消えて行った。


「「「「....オォォ」」」」


「クリスティン様....」


 光輝く私の身体、漲る力、これは女神の物...


「みんなありがとう...」


 私の身体は静かに天へ昇る。

 時が来たんだ...


 こうして私は再び女神として復活を遂げた。

 神として、今までの失敗を取り戻す為、全力で救いを与え続けた。


 神格なんか関係ない、私は下位の序列で今日も祈り続ける。


 世界の人に安寧を。

 そしてマサシに言えなかった想いを乗せて...


『マサシ...またいつか...きっと...』

おしまい!

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[良い点] 一気読みさせて頂きました。大変面白かったです。 最後は大団円でほっこりしました。 しかし、大軍勢を揃えた正攻法2回目魔王より、実は呪いで勇者側に深い傷を与えた1回目魔王は優秀でしたね。 3…
[良い点] マサシがつよつよ過ぎてポンコツ女神もあえなく陥落 [一言] 今度は間違えるなよクリスティン!(フラグ)
[良い点] 最期まではた迷惑な女神でしたねw だいたい全部こいつが悪いw そんな駄女神の心まで救ってみせたマサシは、正しく勇者でしたね〜。 楽しませていただきました。ありがとうございました!
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