エピローグその2 お兄ちゃんと共に~紗央莉&虍午シスターズ
兄ちゃんが二回目の魔王討伐を果たし、私は再び赤ちゃんからやり直す事となった。
私にとって二回目の転生。
今回は遠慮しないよ、兄ちゃんと私に血縁関係が無いのは分かってるんだ。
美晴姉ちゃんや、夏鈴姉ちゃんという強力なライバルが居るけど、絶対に負けない。
私は兄ちゃんと同じ家に暮らしているし、プライベートの時間はずっと一緒。
アドバンテージは私に有る!
...そう確信して6年が過ぎたんだけど。
「それじゃ帰るわね」
「政志、また明日の朝」
「ああ、またな」
家に帰る美晴姉ちゃんと夏鈴姉ちゃんを玄関で見送る。
今日は土曜日。
大学が休みだから、美晴姉ちゃんと夏鈴姉ちゃんは朝からずっと私の家で兄ちゃんと過ごしていた。
お父さんとお母さんは二日間の旅行に行って明日の夜まで帰らない。
本当なら兄ちゃんと二人っきりの時間を楽しめると思っていたのに。
「美愛ちゃん達は帰らないの?」
なんで私の隣に虍午姉妹の妹、美愛ちゃんと冬美ちゃんが居るんだ?
この二人は前世居なかったが、今世は兄ちゃんの側で居たいと彼女が願って誕生した。
「紗央莉姉ちゃん、どうしてそんな事聞くの?」
「どうしてって...」
そんなの決まってるじゃない、これから兄ちゃんと甘い時間を過ごすんだから。
「ばぶう」
美愛ちゃんの背中でコテンと首を傾げる冬美ちゃん。
まだこの子は一歳になったばかりなんだよ?
「それは...ほら冬美ちゃんだってお母さんが恋しいよね?」
「あぶぶぶ」
こら!
兄ちゃんが気づかないからって、心で話すんじゃない!
「美愛ちゃんと冬美ちゃんはもっと紗央莉と遊びたいのかな?」
「うん!」
「だあ!」
こいつらと来たら...全く。
「私、紗央莉姉ちゃんだーい好き!」
「あぶぶ!」
「...ぐ」
なんてあざといんだ。
五歳と一歳、一見すると穢れなき幼児だが、本当の二人は異世界から転生して来た人間。
それも私が前世で討伐隊だった時の仲間、美愛の前世名はフランソワで、冬美はシルビア。
私達三人はいつも一緒で、マサシ様を愛していた。
....呪われるまでは。
「しっかり面倒みてね、お姉さん」
「...美晴姉ちゃん」
今笑ったな?
けど悲しい記憶に引き込まれる直前だったから、助かったよ。
にしても、確かに私は6歳だから、美愛ちゃん達からすればお姉さんなんだけどね。
「頼むわよ、6歳のお姉ちゃん」
「ちょっと夏鈴姉ちゃん!」
総年齢を言うなんて酷いじゃないか!
実年齢はまだ6歳だよ!!
「紗央莉ごめん。
美愛、それじゃお姉ちゃん達は帰るからね、政志に迷惑を掛けちゃダメよ」
「はーい!」
「冬美もね」
「あい!」
年の離れた妹達を残し、美晴姉ちゃん達が帰って行った...
「さて、風呂にでも入るか」
「え?」
「あぶう?」
なんで兄ちゃんの言葉に食いつくんだ?
確かに夕飯は食べたし、後はお風呂に入って寝るだけ...いや待て。
「にいに、私もお風呂」
「ん?美愛ちゃんも一緒に入るか?」
「ばぶぶ」
「冬美ちゃんも?」
「美愛はダメ!!」
なにを、そんな事させるものか!
「どうした紗央莉?」
「あ...だって、美愛はもう女の子で、私と一つしか違わないし」
「まあ確かに、美愛ちゃんも5歳か...なら紗央莉と入ってくれるかな?」
「ちっ!」
おい美愛!今舌打ちしたな?
「ばぶぶ」
「なら冬美ちゃん、行くか」
「ぶふひふ」
冬美は兄ちゃんに抱っこされ、肩越しから私達にVサインをしながら風呂場へ消えて行った。
「全くマリアは」
「なによフランソワ」
兄ちゃんが上がった後、私達二人で風呂に入る。
湯船に浸かりながら、互いの愚痴を言い合う。
「マリアは独占欲強すぎよ、こっちはたまにしかマサシ様に甘えられないんだから」
「だってさ」
フランソワの気持ちは分かるけど、嫌な物は嫌だ。
「でもシルビアには、ありがとう」
真剣な顔でフランソワが頭を下げる。
その真意を知っていた。
「...うん...シルビアは私達の中で一番苦労したから」
「そうよ、クソ神のお陰でね」
フランソワの表情に怒りが滲む。
一回目の魔王討伐後、私は絶望に堪えながら、50年の人生を過ごした。
フランソワとシルビアの二人は絶望に心と身体を病み、僅か数年の内に命を落としてしまった。
その後、クソ神によって救いを尋ねられ、フランソワとシルビアは再び討伐隊にと願った。
だがシルビアは更に『勇者を支えたい』そう付け加えてしまった...
「マサシ様以外の勇者を支えるなんて、私達が願う筈無いのにクリスティンは分からないの?」
「頭が足りないんでしょ、考えたら分かる事なのに」
討伐隊員として転生したフランソワとシルビア。
クリスティンはシルビアに新たな勇者を支える様に命じた。
シルビアには新たな地獄だった。
新たにクリスティンが召喚した勇者はマサシじゃなく、好色な別人。
魔王軍とマトモに戦わず、シルビアに肉体関係を迫った。
シルビアは拒もうとしたが、クリスティンと結んでしまった約束に逆らえず、純潔をリョージに奪われてしまったのだ。
「シルビア...廃人みたいになって見てられなかったわ」
「でしょうね」
リョージの被害者は他に数人居たが、一番身体を穢されたのはシルビアだった。
変態的嗜好を持つリョージの行為に逆らえないのだから、彼女が精神を病んでしまったのは当然だった。
「最後は盾にされて...」
「ああ...」
魔王軍の急襲に後方で孤立したリョージの一団。
窮地の奴は裸で縛っていたシルビアを魔王軍の前に蹴り跳ばした。
『役に立てねえなら、肉壁になれ!』
『フゥォンナ!!』
猿轡を噛まされたまま魔王軍の前に転がされたシルビアは...
「...結局リョージも魔族に殺された」
「当たり前よ、魔王軍が殺してなかったら私が殺してたわ」
フランソワは怒りを滲ませる。
その後、フランソワ自身も次の戦いで命を落としたのよね。
「私が許せないのは...その後よ」
「...フランソワ」
知ってるよ、クリスティンの馬鹿がシルビアに放った暴言...
『シルビア、もう一度勇者を支えるのです』
...ふざけるな!
「あんなの救いじゃないわ!
クリスティンがシルビアにしたのは呪いよ、魔王と変わらないじゃない」
湯面にフランソワの涙が流れ落ちる。
私も信じられなかった、曲がりなりにもクリスティンは人間を救う神なのに、利用する事しか考えてなかった。
精神を病んだまま、再度転生したシルビア。
結局何も出来ないまま、新しいクソ勇者マンフに身体を穢され、今度は自ら命を断った。
クリスティンも次はシルビアの転生を諦め、彼女の魂は捨て置かれたのだった。
フランソワは再び討伐隊に入り、今度は兄ちゃんと共に魔王軍を相手に戦った。
途中でフランソワは命を落としたけど、兄ちゃんに今迄の経緯を話し、最後は感謝の言葉を掛けて貰って、幸せに逝ったそうだ。
「まさかマリアがフランシェスカ様と作戦を立てていたなんて」
「びっくりしたでしょ?」
「ええ本当に」
「もっと褒めても良いんだよ」
「調子にのるな」
「イテ!」
フランソワが私の鼻先を指先で弾く。
その笑顔につられ、私も笑う。
「それが癒しの笑顔ね」
「うん、取り戻したんだ」
私のスキル[癒しの笑顔]も再び手に入れた。
これは本当に使えるスキル。
「効くのは呪いだけじゃないのね」
「そうよ、心の傷も癒せるの」
今まで転生を果たした仲間は皆心に傷を負っていた。
私はみんなの傷を癒して来たのだ。
「シルビアもね」
「...うん」
フランソワから話を聞き、更にクリスティンの悪行は暴かれた。
そして転生を果たしたシルビアだったが、その時彼女の心は死んでいた。
生まれてから泣きもせず、かといって笑いもしない。
シルビアの心は虚無で塗りつぶされていた。
私は毎日虍午家に行き、シルビアに[癒しの笑顔]を向け続けた。
兄ちゃんにもシルビアのお世話を出来るだけお願いした。
そうして数ヶ月を掛け、彼女は感情を取り戻す事が出来た。
「ありがとうマリア、私達を助けてくれて」
「いいえ、フランソワ達の奮闘があってこそだよ」
魔王を倒せた。
今度はクリスティンも懲らしめる事も出来て、みんな救われた。
この今はみんなで掴んだ幸せ!
「しかし...」
「どうしたの?」
楽しそうに笑うフランソワ。
何を言いたいの?
「まさかハリム様とカリスク様が」
「本当に...」
6年前に転生した騎士団長ハリム様と魔術師団長カリスク様。
兄ちゃんと歩む人生を望んだのは分かるが、二人共あんな美少女になっていたのはビックリだ。
元々あの二人は筋骨粒々の美丈夫だったんだよ?
凛々しくって、雄々しい彼等と現在の彼女達では全く違い過ぎて未だに想像が出来ない。
「性別が変わっちゃうと性格まで変わるものなの?」
「それな!」
二人はすっかり女の子言葉。
再会した当初と今は全然違う、そして二人共兄ちゃんが大好きなのだ。
「マサシ様をめぐってライバルが多いね」
「そうだね」
その他にも兄ちゃんが大好きな人間はたくさん居る。
なにしろ兄ちゃんは世界を二度も救った救世主たから。
その威名はクリスティンをも凌ぐ。
いや、クリスティンの名は地に堕ちたから、比ぶべくも無いよ。
「フランソワはどうするの?」
「私は今回パス、次に賭けるわ」
「...そう」
まあそうなるわね、共に暮らす姉二人が強烈だから。
「マリアは?」
「最後まで諦めないよ」
チャンスはある。
これから兄ちゃん好みの女の子に成長するからね。
「...上がろうか」
「...そうね」
すっかり逆上せてしまった。
フラフラで脱衣場の床にヘタリこむ、汗が止まらない。
「美愛ちゃん」
「はいお兄様!」
脱衣場の外から兄ちゃんの声。
美愛は立ち上がり、元気な声で答えた。
「冬美ちゃんのオムツはどこ?」
「あ、リビングに私の鞄が...」
どうやら冬美ちゃんはオシッコしたのか。
まだまだ一歳、赤ちゃん...いや待て。
「ねえ美愛、冬美って普段のトイレは?」
「自分で行ってる、オムツは寝る時だけ」
やはりか、私も美愛もそうだったのに。
「冬美!」
「なんて事を!」
「わ!!服を着ろよ」
バスタオルだけを身体に巻き付け、リビングに走る。
兄ちゃんがビックリしてるが、構うもんか!!
「こら冬美」
「なんてハレンチな」
「あばば」
オムツクッションの上で剥き出しの冬美が笑う。
なんて事を...
「しゃおりネエたんズルい」
「私は良いのよ、妹だから」
「ぶう!」
あ、また!
ならば、こうだ!!
満面の笑みで冬美の頬にスリスリ。
この多幸感は耐え難いらしい。
「あ...あきゃ」
「...ゲ」
「紗央莉...」
「...またお風呂に行って来ます」
私の胸には茶色ブツ、冬美...脱糞したな。
「ちょ、紗央莉...プッフハハハ」
兄ちゃんが笑う。
「フフ...」
美愛も...
「キャ!キャ!」
そして冬美も。
「あははは!」
とうとう私まで、笑いが!
部屋中に響く私達の笑い声。
それは暫く止む事が無かった。
次ラスト!
クリスティン登場




