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エピローグその1マサシ様と共に~ハリムとカリスク

エピローグ、3つに分けます。

まずはハリムとカリスク!

 朝の目覚ましが鳴る前にスイッチを切る。

 時刻は午前5時、昨日の夜は興奮して殆ど寝る事ができなかった。

 きっとアイツもそうだろう、午前二時過ぎまでトークアプリで盛り上がってしまった。


「さてと」


 ベッドから出て、カーテンを開ける。

 射し込む眩しい朝日は、今日という日を祝福するかの様だ。


「マサシ様...ついにこの日が来ました...」


 祝福される人間は、私じゃ無い。

 私などあの方の前ではゴミ、いやそれにも値しない様な人間なのだから。


 勇者マサシ。

 あの方は私の世界を二度も救って下さった。

 それもただ救ったのでは無い。

 一回目の召喚で魔王の呪いを受けてしまった私達は...マサシ様に対し...


「...申し訳ございません、なんて事を私達は...」


 忌まわしい記憶。

 討伐隊はマサシ様を地面に押さえつける。

 そのまま私達はマサシ様の服を剥ぎ取り、髪をナイフで剃り落とした...


『なんて汚ならしい...』


『...シラミだらけじゃねえか』

 マサシ様が本気で抵抗すれば、私達等簡単に蹴り飛ばせた筈だ。

 それなのに、あの方はしなかった。

 絶望しながらも、ただ堪えておられた。


 私とカリスクの罪はそれだけじゃない。

 最大にして、最悪の愚行を犯してしまった。


 私は聖女ミッシェル様を、カリスクは賢者フランシェスカ様と肉体関係を結んでしまった...


 これに関して、呪われていた等言い訳にならない。

 なぜなら私達は聖女様と賢者様、お二人に対し憧れとお慕いの気持ちを抱いていたのだから...


 マサシ様が魔王を倒され、私達討伐隊は呪いが解け、今までの愚行から覚めた。


 ...そう、あの時私とカリスクはミッシェル様とフランシェスカ様の四人でセックスを楽しんでいたのだ。

 マサシ様の死を願いながら...


『...何を私達は』


『なぜ?私達はどうしてミッシェル様と?

 お二人はなぜマサシ様と居られないのです?...』


『ギャアアアア!』


『マサシ!!あぁ私はなんて事を!』

 呆然とする私とカリスクを突飛ばし、ミッシェル様とフランシェスカ様は脱ぎ散らかしていた服を着ると、テントを飛び出した。


 未だにあの光景は思い出すだけで地獄だ。

 更に魔王の呪いも残っており、私達は発狂したまま王国に連れ戻された。


 後の記憶は余り鮮明に覚えていない。

 ただ、虚像の討伐隊を世界に喧伝され、栄誉を賜った。

 そして、世界の人々はクリスティンに信仰を捧げた、危機を救った奴に対する人間側からの感謝。

 それがクリスティン...神である奴にとって神格を上げる手段だった。


「それは地獄だったがな...」


 私は騎士団長として、勇者と共に魔王軍を退けた栄誉。

 カリスクは魔術師団の隊長として同様の栄誉。

 全くのデタラメ、語られる虚像の姿は私の心を壊すに充分だった。


『...カリスク、行くか』


『うむ』

 変装した私達は深夜家を抜け出した、もう限界だった。

 人は私達を英雄と褒め称え、称賛の声を掛ける。

 勇者マサシ様に非道の限りを尽くした悪逆な人間に...


『ここで良いか』


『ああ』

 家を離れ三日後、たどり着いたのは火山の火口。

 息苦しい噴煙が上がる立ち入り禁止区域で私達は腰を下ろした。


『行くぞ』


『こい!』

 下半身を剥き出しのカリスクに私は剣を抜いた。

 閃光一閃、カリスクの性器は切り離された。


『グ!』


 次いで自分の性器も切り取る。

 身体を貫く激しい痛み、しかしマサシ様の受けた心の痛みと比べたら問題にならない。


『『マサシ様!!』』


 下半身から血を滴らせ、私はカリスクと火口に飛び込んだ。


 それが一回目の人生に於ける最後であった。


『...貴方達は、なんと愚かなことを』


 気づけば私とカリスクは広い空間に立っていた。

 目の前に佇むは女神クリスティン。

 呆れる視線に当時の私達は怯んでしまった。


『まあ良いでしょう、貴方達に救いを』


『救い?』


『マサシの願いですよ』


『マサシ様からの...』

 クリスティンの言葉に熱いものが込み上げる。

 マサシ様は救い様の無い私達に...


『では再び魔王討伐隊に私達を』


『お願い致します』

 迷いは無かった。

 次こそはマサシ様を決して裏切ったりしない。

 それこそ私達が願うたった一つの物だった。


『分かりました、次に魔王が復活した暁には貴方達を討伐隊に』


『ありがとうございます!』

 こうして私とカリスクは眠りに着いた。

 次に目覚めたのは200年後だった。

復活した魔王を倒す為結成された討伐隊に、転生した私達は選抜された。


『...おかしいなカリスク』


『ああ...お前もかハリム』


 違和感、それは召喚された勇者がマサシでは無かったのだ。

 討伐隊の中にも同じ気持ちを抱えていた者も居た。

 話をすると、彼等もまた私達と同じ前回マサシと共に戦った仲間であった。


『ちゃんと護れよ!

 テメエら役に立たねえな!!』

 戦いは散々だった。

 新しく召喚された勇者は威張り散らすだけで、戦力として全く話にならなかった。


『なんだあれは?』


『あまりにも弱すぎないか?』

 討伐隊の女を(はべ)らせ、怒鳴り散らすだけの勇者。

 討伐隊の士気が上がる筈も無く、結局新しい勇者リョージは一年後、あっさり命を落とした。


 次に召喚された勇者マンフも、全く戦力にならなかった。

 半年も経たずして同じ結果に終わった。


『なぜ本気で戦わないのです?』


『『はあ?』』


 再び命を落とした私達にクリスティンが言った。

 もう女神に対する信仰心は揺るぎ始めていた。


『勇者がマサシ様でないからです』


『そうです、更に言えば聖女様も賢者様も居られないのですよ、これでどうやって勝てと?』


『...お前達は』


 憎々しげに私達を見るクリスティン。


『ではマサシ達を召喚しましょう、それなら文句は無いですね』


『もちろんです!』


『次はありません、次死ねばもう貴方達は復活させません』


『畏まりました』

 クリスティンの態度は気にならなかった。

 次なんか要らない、マサシ様と共に戦う事こそが私達の悲願であった。


 全く面影が無くなるまで姿を変えらたのは、クリスティンに逆らった事への意趣返しだった。


『マサシだ、みんな宜しく』


『...マサシ様』

 再び会えたマサシ様、更にミッシェル様の姿も。

 フランシェスカ様が居なかったのが残念ではあったが、マサシ様が居るだけで充分だった。


 私とカリスクの正体にマサシ様とミッシェル様は気づかない様だったが、それは気にならず、寧ろ都合が良かった。


 なぜなら私とカリスクはマサシ様からミッシェル様とフランシェスカ様を奪ってしまった。

 正体を知られたらと怖かったのだ。


 戦いが始まった。

 やはりマサシ様は素晴らしい、戦いは苛烈を極め、仲間達は次々倒れて行く。


 だが、死は全く怖く無かった。

 次は要らない、この為に私達は生きている充足感があった。


 マサシ様と言葉は殆ど交わす事は無かった。

 私達の正体に気づいているのではないかと思う時もあったが、こちらから話す事では無い。

 ただ私達は死にもの狂いで戦い続けた。


『危ないマサシ様!』

 背後からマサシ様を狙う毒矢にカリスクが立ち塞がる。

 いつもならば、風魔法で蹴散らせていたが、カリスクの魔力が尽きていた。


『このままでは!』

 私も体力の限界だった。

 剣を振るう事も出来ない私は、カリスクと共にマサシ様の壁となった。


 全身に矢が突き刺さる感覚。

 魔王軍の用いる毒矢は掠っただけで死ぬ程の劇薬。

 それが全身に刺さったのだ、最早ミッシェル様の治癒魔法でも助からない。


(ハリム)


(え?)

 突然頭の中に聞こえるマサシ様の声。

 一体何が起きたというのか?


(カリスクもありがとう)


(これは一体?)


(脳内に語りかけているのだ)


(おぉ...)

 つまり私達の正体がハリムとカリスクである事を、討伐隊の中に忌むべき人間が紛れ込んでいるのも、マサシ様は最初から気づいておられたのだ。

 それなのに命を賭け、マサシ様は私達の世界を救おうと...


 胸に熱いものが込み上げる。

 最後になんとか言葉を、必死で気力を振り絞った。


『...マサシ様...私は...ミッシェル様と...』


『200年前は...申し訳...ございませんで...した』

 全身に毒が回り、視界が霞む。

 その先にはミッシェル様の姿が、私とカリスクはなんとか言葉を紡ぎ出した。


(次は自分の為に生きろ)


(は?)


(...それは?)


 マサシ様は脳内へ語り掛けるが、もう次は無いとクリスティンは言っていた。


(良いから、クリスティンなら心配するな、自分の希望だけ言えば叶うから)


((ありがとうございます))

 私達はマサシ様の手を握りしめ、幸せな最期を遂げた。


「まさか本当に叶うとはな」

 

 この世界に転生して16年。

 本当にクリスティンは私の...いや私だけじゃない、カリスクも、全討伐隊員の願いを叶えてくれたのだ。

 私とカリスクは最後の方で、クリスティンはどす黒い顔色をしていた。


『もう助けて...』

 定まらない視線を漂わせ、クリスティンは呟いていた。


『ヒッ!わ...分かりましたそれだけは!!』

 クリスティンは次の瞬間そう叫び、無事私達の願いは叶ったのだ。


「よし」


 鏡に映った自身の姿におかしい所は無いか、チェックは欠かせない。

 何度も言うが、今日は私にとって記念すべき1日となるのだ。


「行ってきます」


「いってらっしゃい」


「気をつけてね」


「うむ」


 母上と妹に見送られ家を出る。

 向かうはマサシ様の通う高校。

 今日は転校一日目、しくじりは許されない。


「ようハリム」


「待たせたな、カリスク」


 駅でカリスクと合流する。

 やはり目が腫れぼったい、私と一緒だな。


「緊張するもんだな」


「私もだ」


 そんな会話をしながら、ようやく目的の高校に着く。

 転生以来、過去の記憶は全て残されていた。

 マサシ様の現在も、全てフランシェスカ様のスキル[リサーチ]で全部私達は教えて貰っていた。


 フランシェスカ様のスキルは一度クリスティンによって取り消されたが、マサシ様がスキルを消される対価で、再び取り戻されたそうだ。


「ここです」


「はい」


「ありがとうございます!」


 担任となる女性教師が教室の前で立ち止まる。

 いよいよだ、この中にマサシ様とミッシェル様、そしてフランシェスカ様が...


「髪が跳ねてるわよ」


「え?」


「貴女も」


「へ?」


 突如担任の教師が私達の髪を撫でる、一体どうして?


「ようやくマサシ様に会うのですよ、身だしなみは大切です」


「...まさか貴女も?」


「ええ、マサシ様の仲間でした。

 今回、教師としてこの世界に」


「そうか」


 なんと、ここにもマサシ様を追って来た者が居たとは。


「私だけではありません、マサシ様のクラス半数は転生を果たした討伐隊の仲間なのです」


「なんと!」


「それは本当?」


 驚きと共に、どこか納得してしまう。

 私達と同じ心境で転生を果たした仲間がここに集まって...


「さあ行きますよ」


「...うむ」


「宜しく頼む」


 きっと担任は事前に私達の事をフランシェスカ様から教えられていたのだろう。

 だが、私達の正体までは知らないと見える。

 まあ当然だろうな、それだけ私達の現在は向こうの世界に居た時と変わっているのだから。


「はい、おはよう。

 今日は転校生を二人紹介しますね」


 担任の後に続いて教室に入り、教壇前にカリスクと共に並ぶ。

 探すは勿論、マサシ様だ。


「おぉ...」


「...遂に」


 マサシ様は直ぐ見つかった。

 気配を探る間でもない、昔と変わらぬお姿で私達を見ているではないか!


「ほら自己紹介を」


「あ...うむ」


 緊張する、これは堪らぬ。


「先に言おうか?」


「何を言うのか!」


 カリスクめ、これは譲れぬぞ!

 昨夜賭けをして私が勝ったではないか!


「ごめんね、あと言葉に気をつけて」


「あ...」


 しまった...これは失態である。


「は...針谷公(ハリヤ キミ)です、宜しく」


「「「おお~!」」」


 なにやら教室の男共が騒がしい、やはり女言葉はまだ抵抗がある。


草加凛(クサカリン)です、これから宜しくね」


 くそ、カリスクめ上手くやりやがって。

 しかし見事だ、悔しいが奴は紛れもない美少女だからな。

 益々男共の歓声が沸き立ったではないか。


「まさか...貴女達は」


 おっと、担任はようやく私達の正体に気づいたか。


「今は内密に頼む」


「は...はい」


 まさか男から女になったとは想像もしなかっただろう。

 クリスティンのふざけた制裁に感謝だ。


「それじゃ、布津野政志君の後ろの席に」


「うむ...いや、ありがとう先生」


「分かりました」


 私達はマサシ様の後ろに空いていた席に座った。

 眼前にはマサシ様が、なんと素晴らしい特等席だ!


「宜しくマサ...布津野様」


「お願いします、マサ...政志君」


 気取られぬ様、マサシ様に挨拶をする。

 マサシ様は全てのスキルを無くしておられる。

 だから私達の正体には気づかないだろう。


「こちらこそ宜しく。

 針谷さん、草加さん」


「あ...あぁ!!」


「マ...マサシ様!!」


「は?」


 いかん、たった一言マサシ様の言葉で変な声が出てしまう!


「それくらいにしなさい」


「う...」


「すみません」


 マサシ様の両隣に座るミッシェル様(虍午美晴)フランシェスカ様(虍午夏鈴様)に頭を下げる。

 だが分かって欲しい、私達は異性としてマサシ様をお慕いしているのだ。


「...これから末長く、お願い致します」


「私も...」


「はい?」


「こら!」


「もう!」


 首を傾げるマサシ様。

 その姿に咎めるミッシェル様達の言葉は全く耳に届かない。


『『マサシ様...今世は無理でも、来世は私達と』』

 そう誓う私達だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは予想外。どうしてこうなった?
[良い点] ここで出るか亮二とマンフ。 [一言] 更新ありがとうございます。 二人そろってエピのみ、しかも瞬殺。 ある意味、これまでで一番のざまぁかも(笑)。 ラストを楽しみにしております。 作…
[一言] うーんw
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