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最終話 戻って来た男 中編

 クリスティン様により、再び元の世界へ召還された私。

 同じく召喚されたマサシと私は国王達と簡単な謁見をすませ、討伐隊の仲間が集まる部屋へと案内された。


「マサシだ。みんな宜しく」


「...マサシ様」


「あれが伝説の...」


 マサシが討伐隊に挨拶をする。

 討伐隊員の中には息をするのを忘れた様に固まって人もいる。

 きっと彼等は転生を果たした前回の仲間達だろう。


「早速だが、今後の作戦について話をしておきたい」


「は!」


 討伐隊の隊長らしき男性がマサシに頭を下げる。

 それ以上マサシは仲間達と言葉を交わす事なく、別室に消えて行った。


「...ミッシェル様」


「みんな...なの?」


「はい...よくぞお戻りに」


 部屋に残された私に固まっていた数人が集まる。

 みんなの顔に見覚えはない、彼等は転生した外見だから当然か。


「...久しぶりです」


「そうですね」


 言葉少なく私達は部屋の片隅で見つめ合う。

 私の姿は200年前と一緒だから、直ぐに分かったのだろう。


「フランシェスカ様は?」


「...彼女は今回召喚されませんでした」


「そうですか...」


 明らかに落胆する前回の仲間達、いや討伐隊全員に失望が広がる。

 フランシェスカはクリスティン様への信仰心を失ってしまった。


 クリスティン様はこの世界を統べる神の一柱、魔王や世界の驚異を救う存在。

 そんなクリスティン様への信仰を失うという事は、この世界との縁を未来永劫切るという意思表明だ。


 何度もフランシェスカと話し合ったが、彼女の意思は固かった。

 しかしフランシェスカは私にクリスティン様への信仰を止めるように言わなかった。


 きっと私が教会のシスターだったから、いかなる神も裏切れない事を知っていたからだろう。

 今回の召喚で改めてクリスティン様と決別したフランシェスカ。

 彼女のスキル[リサーチ]は抹消された。


「しかし勇者マサシ様と聖女ミッシェル様、お二人が揃われたのです。

 魔王軍に目にもの見せてやりますぞ!」


「そうだ!伝説の再来だ!!」


 仲間達の一部から雄叫びが上げる。

 私達が前回魔王を討伐した功績は世界中の伝記となっていた。


 勇者マサシと聖女ミッシェル、賢者フランシェスカ。

 この三人を中心とした魔王討伐隊は力を合わせ、魔王を倒し世界を救った英雄として...


「ミッシェル様は今まで何を?」


「色々...ありました」


 前回の仲間達にも、詳しく話す事は出来ない。

 前回マサシが消え、失意の内にフランシェスカと二本の聖剣で互いの胸を刺して死んだ事は秘密とされている。


 伝記上はマサシが元の世界に戻り、私とフランシェスカは勇者の威徳を偲びながら、世俗から離れ静かに生涯を全うした事になっていた。


「...そうですか」


 真実は隠蔽されていたが、前回の仲間達はきっと気づいているだろう。

 しかし話す事は出来ない。

 マサシの世界に転生し、22年もの時間安穏と過ごしていたなんて、口が裂けても言えない。

 討伐隊の、いや世界の士気に関わる。


「待たせたな」


 マサシが討伐隊の元に帰って来た。

 静かな目をしたマサシ、何を考えているのだろう?

 ずっと彼は私の方を見ようともしない。


「当たり前か」


 呪いは殆ど無くなっても、私や前回の仲間達を許せる筈が無い。

 過去のトラウマは記憶に刻まれているのだから。


「明日ここを発つ」


「明日?」


 随分と性急な話だ、まだ作戦も伝えられてないのに。


「さすがは伝説の勇者マサシ様です、まさかこの様な事態を既に予想して?」


 隊長が興奮した様子でマサシに話掛けた。


「前回の作戦をなぞっているだけさ」


「いやいや、フランシェスカ様の残された作戦と今回は随分違いますが」


「まあ...そうかもな」


 一体何の話をしたのか分からない。

 しかし私達はマサシの立案した作戦の元、再び魔王討伐へと出発した。


 ...旅は前回以上に過酷だった。

 クリスティン様が言われた通り、魔王軍の勢いは前回と比べ物にならない。


 マサシの奮戦で私達は前線を押し止める事だけで精一杯、魔王領に攻め込む事は不可能と思われた。


 前回の仲間達も含め、討伐隊は数を減らして行く。

 みんな満足な笑みを浮かべ...


『これで...ようやく...私は』


『良かった...今回...呪われま...せんでしたぞ』


 仲間の最後をマサシは無言で看取った。

 その中に転生したハリムとカリスクの二人も居た。

 彼等は誰よりも勇敢に戦い、最後はマサシを庇って死んだ。


『...マサシ様...私は...ミッシェル様と...』


『200年前は...申し訳...ございませんで...した』


 二人の言葉を聞いた時、マサシは小さく頷いて何かを呟いた様に見えた。

 その言葉は小さく、私には聞き取れ無かったが、二人は満足そうに笑い息絶えたのだった。


 その後も戦いは続き、気づけば前回から転生した討伐隊員は全て死んでしまっていた。

 他の隊員も損害が激しく、新しく補充されるが追い付かない。


「奇襲を掛ける」


 マサシは魔王軍に奇襲を仕掛けた始めた。

 こんな戦い方も前回しなかったが、効果的に戦果は上がった。


 この作戦も全てマサシによる立案。

 私達は満身創痍になりながら、確実に敵の戦力を削って行った。


 5年が経った。

 完全に魔王軍の勢いは止まり、ようやく私達は魔王領への進攻を果たした。


 いよいよ敵主力との決戦が間近となって来た。


「ミッシェル、ヒールを頼めるか」


「え?」


「嫌か?」


「そんな訳ない...」


「それじゃ後で来てくれ」


 ある日、マサシが私に声を掛けた。

 今までずっとマサシの治療は別の神官が行っていたので、突然の事に驚きながら私は彼の待機する部屋へと急いだ。


「ミッシェルです」


「入ってくれ」


「はい」


 マサシの部屋に足を踏み入れる。

 綺麗に整理された部屋、椅子に腰掛けマサシは私を待っていた。


「懐かしいだろ?」


「そうね」


 思わず溢れる言葉。

 本当に懐かしい、室内は前回の魔王討伐の時と同じ。

 私はフランシェスカと一緒にマサシの部屋を訪れ、沢山の話しをした。

 主にマサシの住む世界の話で、それは夢の時間だった...呪われる前までは...


「呪いは完全に消えたな」


「...そうね」


 前回の魔王討伐を思い出すだけで大変だったのに、懐かしむ日々が来るなんて想像すら出来なかったのに。


「フランシェスカ...夏鈴の言う通りか」


「フランシェスカが?」


「呪いは時間と共に薄れて行く」


「そんなの、いつ言ったの?」


 そんな話聞いた事無い。

 だいいち、呪いの話をフランシェスカがマサシに話していたなんて。


「5年前だ」


「5年前?...そんな!?」


 おかしいじゃないか、マサシとこっちに戻って来たのが5年前なのに。


「リサーチだよ」


「リサーチ?」


 そんな、フランシェスカのリサーチスキルはクリスティン様が抹消した筈。


 これは間違いない。

 クリスティン様は信仰を失った人間に神のギフトを与え続ける筈がない!


「夏鈴の[リサーチ]じゃやない、俺のだ」


「マサシの?」


 確かにマサシはリサーチのスキルを持っている。

 だがフランシェスカは今回、討伐隊に参加してない。

 一度解除されると、もう一度仲間にしない限り、交信や把握は出来ない筈。


「俺は今も仲間だと思っている。

 みんなが呪われた時だって...ずっと解除せずにな」


「そんな...」


 つまりマサシは前回、酷い扱いを受けていた時も、私達を仲間だと?


「消せなかった」


「...マサシ...あなたは優し過ぎるよ」


 なんて人間なの?

 こんな人が居るなんて...


『それが政志よ』


「あ?え!?」


 頭の中から聞こえる懐かしい声、なんで彼女が?


「ミッシェルにも聞こえる様にした、後は二人で話してくれ。

 俺は聞かない様にする」


 マサシは小さく頷き、ベッドに横たわる。

 やがて寝息をつき始めた。


『政志...寝たみたいね』


「うん...」


『改めて、久しぶりねミッシェル』


「そうねフランシェ...いいえ夏鈴」


 脳内から聞こえるのは、5年振りとなる親友で、妹の声だった。

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