最終話 戻って来た男 前編
ダメ女神降臨!
「なんだ?」
大学からの帰り道、足元が光ったと思ったら俺の身体は宙を舞っていた。
この浮遊感は覚えがある、三回目だしな。
「前回の召喚で行って帰って、また今回もか」
「マサシ」
気がついたら広い空間に俺は立っていた。
目の前に佇む女、もう驚きは無い。
この女に会うのも三回目だな。
「なんの用だ、クリスティン」
「...貴方という人は本当に」
呼び捨てはイヤなのか?
そんなに睨んだら、せっかくの美人が台無しだぞ。
「細かい事はどうでも良い、また召喚か?」
「ええ、察しが良くて助かるわ」
クリスティンは苦笑いを浮かべる。
コイツは一体何を考えてるやら...
「魔王は倒しただろ?
褒美も頂いたし、用は無いぞ」
前回クリスティンはちゃんと俺を15歳に戻してくれた。
お陰で両親を失わずに済んだ、それで十分だった。
「貴方は無くても、私が有るの」
「そうかよ。で、用ってのは?」
碌でも無い気がする、でも一応は聞いてやろう。
「魔王が現れたの」
「は?」
「だから魔王が復活したのよ」
「そんな訳ないだろ!」
クリスティンは何を言ってるんだ?
前回俺は間違いなく魔王を殺した、完全に消滅するのを見届けたんだ。
「確かに前回マサシは魔王を倒したわ」
「だったら...」
「次の魔王が現れたの」
「なんだと?」
頭が追い付かない、そんな次々魔王ってのは復活するのか?
「勘違いしないで、前回マサシが魔王を倒してから200年が経ってるから」
「200年?」
「そうよ。大体周期的にみて、魔王が復活するのに妥当な時間ね」
「そうかよ」
よく分からないが、そういうものなのか。
「だからマサシには世界を救って欲しいの」
「断る」
「即答ね」
「当たり前だ」
なんでまた行かなきゃならないんだ?
前回で懲りているのに。
「どうしても嫌?」
「ああ、他を当たれ」
なぜ俺に拘るんだ?
適当に別の奴を見繕えば良いだけの話だろ。
「もうやったわよ」
「へえ...」
試したんだ、それなら俺の出番は無い筈だ。
「討伐隊が...」
「討伐隊?」
討伐隊を結成したのか、嫌な記憶だ。
「全く機能しなかった...誰一人マトモに戦わなくって...召喚した勇者はあっさり殺されたの」
「はあ?」
なんだって、そんな機能しない連中を討伐隊にしてるんだ?
「その勇者は?」
「安心して、記憶を消して元の世界に戻したから」
「そうか」
異世界で死んでも、元に戻れるのは俺の時と同じか。
失敗したら何の報酬も貰えないけど。
「なら次の勇者を探せば良いだろ?」
「無理よ」
「なぜ?」
「聖女も...賢者すら居ないのだから」
「聖女が居ない?」
聖女が居ないとなれば、勇者といえどマトモに戦え無いだろう。
勇者といえど。召喚された当初は弱いのだから。
旅で鍛えながら、数々のスキルと経験を付けて行くのだ。
まあ俺の場合、最後は一人で魔王を倒せるまでに成長したが。
「聖女くらい神託すりゃ良いだろうに」
「出来ないの」
「なぜだ、お前は女神だろ...一応」
一般的な称号である賢者と違い、神からの神託で決まるのが聖女だ、ミッシェルもそうして決まったと聞いたぞ。
「...聖女は世界に一人しか神託出来ないから」
「ならその聖女を討伐隊に加えりゃ良い」
そうすりゃ万事解決、討伐隊だって聖女が加わりゃ戦ってくれる筈だ。
「聖女は向こうの世界に居ない」
「向こう世界?」
なんで世界に居ないんだ?
まさか?...いやそんな?
頭に一人の女が浮かぶ、それは俺が良く知る人で...
「マサシ...」
「...なんでここに?」
クリスティンの隣から現れた一人の女。
さっきまで大学に居たよな?
「おいクリスティン、なんで美晴がここに居る?
美晴は俺の世界の住人だろ!」
「...違うの」
「違う?」
美晴、何が違うんだ?
「この子は美晴ではありません」
「何をバカな?
美晴は生まれた時からずっと俺の世界に居たんだぞ?」
「...この者はミッシェル、貴方を救う為に虍午美晴として転生したのです」
「...な」
声が出ない。
ミッシェルの正体が美晴だと?
「...嘘だろ?」
そんな話があるもんか!
「...本当なの、今まで黙っててごめんなさい」
「そうかよ...」
否定したいが、出来ない。
7年前に帰って以来の違和感が全部納得出来てしまうのだから。
「あ...」
美晴の身体が光に包まれる。
眩い光が収まると、そこに美晴の姿はなく、居たのは...
「ミッシェル...」
「...マサシ」
涙を流すミッシェルが俺を見ていた。
不思議な感覚、忌まわしい記憶は浮かんで来ない。
それどころか、懐かしい気持ちになる。
「どうやら呪いは消えたみたいですね」
「クリスティン様...」
クリスティンに視線を向けるミッシェル。
その瞳は隠しきれない悲しみが滲んでいた。
「クリスティン様、私が戻れば良いだけの話でしょう。
新しい勇者に、マサシはどうか止めて貰えませんでしょうか?」
「なりません」
「どうしてです?
私が加われば討伐隊も強くなります。
きっと新しい勇者も...」
「間に合わないのです、魔王は強くなり過ぎました。
今から新しい勇者を召喚しても経験を積ます時間がありません
マサシならば、前回の力を元に戻す事が出来ます。
それでも五分五分でしょうが」
「...そんな」
「それに討伐隊が」
「討伐隊がどうした?」
また討伐隊か、全く機能しなかったとはどうしてだ?
新しく選抜しなおしたら良いだけだろうに。
「...討伐隊員も前回、転生した人間達なのです」
「なんだと?」
「彼等の願いだった...マサシと再び戦いたい。
次は裏切らないと...
だから何回選抜し直しても、同じ人間が...」
「馬鹿野郎!」
「あなたは神の私に、なんと暴言を」
「そんな願いを聞き入れる奴があるか!」
って事は、討伐隊の奴等は200年も転生出来なかったって事じゃないか!
「仕方なかったのです、願いを叶えるのが私の務め」
「お前は...」
「止めてマサシ!」
「ミッシェル...」
必死で俺を止めるミッシェル。
「お願い...フランシェスカもマリアもクリスティン様を見限った...これ以上は...」
「フランシェスカ?あとマリアって誰だ?」
「フランシェスカは...夏鈴よ」
「ああ...」
これも納得か。
つまりミッシェルとフランシェスカはずっと俺を支えていたんだ。
「あとマリアは...」
「もういいよ」
これ以上聞きなくない。
周りの人間が居ないと、俺はマトモに生きられないのか...畜生。
「分かったよ...クリスティンやってやるよ」
「分かってくれましたか」
糞女神が...今は止めよう。
「これが最後だ、最後にしてくれ」
「分かりました、では早速」
「...マサシ...本当に良いの?」
「ああ、これも運命だ」
覚悟を決め、早く片付けよう。
死ぬかもしれないが、やるだけなのだから。
「フランシェスカから伝言よ」
「止めなさい、あのような棄教徒の言う事など」
「黙れ!」
「ヒッ!」
本当に五月蝿いダメ神だ。
「ミッシェル必ず帰って来て、紗央莉と待ってます、と」
「分かった」
アイツらしい言葉だ。
余計な事は言わない夏鈴...いやフランシェスカだな。
「行くかミッシェル」
「ええ」
「早く行きなさい、全く」
こうして二度目の魔王討伐に俺は向かった。




