閑話 私は兄ちゃんの....
紗央莉壊れた
私が布津野家の長女、紗央莉として転生を果たし六年が過ぎた。
前世でマサシ様...兄ちゃんにやってしまった数々の悪行を償う為、生まれ変わった人生、最初は妹の立場に混乱したが、今は感謝していた。
同じく転生していたミッシェル様とフランシェスカ様、お二人と兄ちゃんを支える日々。
呪いは私のスキル[癒しの笑顔]があれば、余程の事が無い限り発現しない。
兄ちゃんの異変は直ぐ分かる、だって私は妹なんだから。
...たとえ結ばれない運命であるとしても。
「おはよう兄ちゃん」
「おはよう紗央莉、いよいよ今日から小学生だな」
いつもと違う朝。
私は真新しい制服を身に着け、元気な声で兄ちゃんと朝の挨拶をする。
笑顔が眩しい兄ちゃん、早いもので今日は私の小学校入学式。
「早いものね、もう紗央莉が小学生なんて」
「ありがとう美晴姉ちゃん!」
リビングで兄ちゃんの隣で一緒に朝食を食べていたミッシェル様が微笑んだ。
「紗央莉も大きくなるわけよね、私だって21歳だから」
「...夏鈴姉ちゃん」
兄ちゃんから少し離れたテーブルに座る夏鈴姉ちゃん。
彼女は変わった、もうフランシェスカの名を捨ててしまったのだ。
「何かしら紗央莉ちゃん...」
「ううん...何でもないよ」
心でフランシェスカ様の名を呟くだけでも夏鈴姉ちゃんは不快感を示す。
ミッシェル様は素知らぬ顔、良いんだろうか?
話し合いをしたらしいが、詳しい事は教えてくれなかった。
「そろそろ時間だ」
「そうね、紗央莉行くわよ」
「うん!」
朝御飯を食べ終わると、正装していたお父さんとお母さんが立ち上がる。
いよいよ入学式に出発だ!
「気をつけて」
「転ばないでね」
「はーい!」
ミッシェル様と夏鈴姉ちゃんが笑う。
背中のランドセルが大き過ぎて、少し動きにくい。
でもこのランドセルは私の宝物、だって兄ちゃんがアルバイトで貯金したお金でプレゼントしてくれたから。
「似合ってるな」
「兄ちゃん...ありがとう」
兄ちゃんの言葉に胸が一杯になる。
幸せな気持ちに叫びたくなるのを懸命に堪えた。
やっぱり兄ちゃんが好き!
実の兄妹、決して許されざる感情。
いくら前世の記憶があろうと、それはダメ。
兄ちゃんも今年で大学四回生、来年は卒業。
どこに就職するんだろう?
まだ兄ちゃんに聞いて無い。
聞くのが怖いのだ、もし遠くの会社だったら、何かあった時に駆け付けられないし...
『呪いならもう心配要らないわ、マサシ様はどこでも大丈夫』
いつだったか、夏鈴姉ちゃんは言った。
何でも私の笑顔を写した携帯の写真を見るだけで、呪いによる悪夢は殆ど消えるそうだ。
「プラセボ効果か...」
よく分からないが、夏鈴姉ちゃんはそう言っていた。
自分で何度も検証したから、間違いないそうだ。
「どうしたの紗央莉?」
「え?」
私の手を握るお母さんが困った顔で私を見た。
「なんだか悲しそうよ」
「そう?」
そんな顔してたかな?
「幼稚園のみんなとお別れしたのが寂しかったのかい?」
「そんな事は...」
なんて事をお父さんは、私の中身は50歳と+6年も生きてるおばさんだよ?
本当は一番の年長者なんだから...いや寂しかったな...卒園式で大泣きしたわ。
「大丈夫!」
くよくよしても仕方ない、私は満面の笑顔を浮かべた。
入学式は滞りなく終わり、私達は家路に着いた。
帰宅すると、夏鈴姉ちゃんが沢山のご馳走を作って待っていてくれた。
ミッシェル様と兄ちゃんの姿は無い、二人は一緒に大学へ行ったのだろう。
夏鈴姉ちゃんは大学に進まなかった、現在は自宅でトレーダーをしながら生計を立てている。
なんでも凄い年収らしい、詳しくは知らないけど。
「ありがとう夏鈴ちゃん」
「凄いご馳走だね」
「いいえ、口に合えば良いですが」
「合うに決まってるじゃない」
全く母さんの言う通りだ、夏鈴姉ちゃんの作る料理は絶品。
しかも味付けは私達家族の好みに調整されているんだから。
更に夏鈴姉ちゃんの特技は料理だけでは無い、家事も完璧、スーパー主婦みたい。
「美味しい!」
「凄いね、本当に美味しいよ」
「良かったです」
お父さん達は料理に舌鼓を打つ。
実際美味しいよね...兄ちゃんも美味しいっていつも言ってるし...
「本当に夏鈴ちゃんは良い奥さんになれるよ」
「...え?」
「お父さん...」
お父さん...なんて事を言うの?
夏鈴姉ちゃんだって、そんな事言われたら困ってしまう筈。
だって、彼女も兄ちゃんと結ばれるなんて未来は...
「嬉しい...」
「夏鈴姉ちゃん...」
真っ赤な顔で笑う姿に思わず彼女の名前を心で呟いてしまう。
そんな事ある?何故なの?
「紗央莉、神に頼り過ぎてはダメ」
「あ...あ?」
そんなバカな?
まさかフランシェスカ様はクリスティン様への信仰を棄てた?
そんな事をしたら来世以降の転生が...
「どうしたの紗央莉、今日は変よ?」
「ううん...」
声が出ない、まさかフランシェスカ様本気でマサシ様と?
食事が終わり、ショックの私は直ぐ寝る事にした。
「...ふう」
どうやら目が覚めてしまった。
時計は夜の11時、随分変な時間に起きてしまったな。
「ん?」
リビングの電気が点いている。
どうやらお父さんとお母さんは晩酌を楽しんでいるようだ。
「紗央莉、ショック受けてたな」
「そうね、あの子は政志が大好きだから」
両親の会話に胸が苦しくなる、心配を掛けしまったかな。
「夏鈴ちゃんは本当に政志が好きだから」
「ええ、美晴ちゃんもよ」
「だな、政志は幸せ者だ」
「本当、どうするのかしら?」
『...兄ちゃん』
兄ちゃんはどうするんだろう?
二人の気持ちは知っている筈だ。
「...寝よう」
どうせ私には関係無い話。
だって私と兄ちゃんは実の兄妹だし...
「紗央莉が政志と血の繋がりが無いと知ったら大変よね」
『は?』
今何て言ったの?
声が出そうになるのを懸命に堪える。
「仕方ないよ、母さんは政志を産む前に、俺の為に身体を無理させてしまったから」
「ごめんなさい。政志を産んだ後、生理が無くなった事は責めてないわよ。
だから卵子を提供して貰って、貴方の子供を...」
リビングの陰に隠れて二人の話を聞く。
随分酔っているのか、詳しい話をしている。
「...私は兄ちゃんと血の繋がりは無かった」
話を聞き終え、自分の部屋に戻る。
ショックだった。
兄ちゃんは父さんと血の繋がりは無く、私は母さんと血の繋がりが無かったのだ!
「...結婚出来るかもしれない」
可能性は限りなくゼロに等しい、でも倫理的な問題は無くなった...
「兄ちゃん...好き」
私もクリスティンへの信仰を棄てた。




