第4話 変わって行く未来~壊れていく明日 後編
フランシェスカ壊れた。
「...ミッシェル...その程度なのか」
ミッシェルの言葉に失望を覚える。
いや、ミッシェルだけでは無い、魔王討伐に参加した仲間達にも。
「どうしてマリアみたいに...」
なぜマリアの様に来世をマサシへの贖罪にと願わなかったのか?
彼女以外、誰一人としてこの世界に転生を果たしていないではないか。
「...みんな逃げたんだ」
クリスティン様...いやクリスティンは来世に救いをやるとマリアに言ったらしい。
マリアは家族の為、呪いに耐えながら30年も過ごした。
絶望から早く命を断った他の討伐隊員より、辛い地獄だったに違いない。
「マリアだけか...」
罪を自覚しているなら、なぜ償おうとしない?
これではマサシが余りに不憫ではないか!
「クリスティン...貴女という神は」
我慢出来ない。
救いを与えるとは、耳触りの良い言葉だ。
自ら死を選んだ人間に、安らぎをやると神から言われたら誰でも飛び付くに決まっているではないか!!
確かに私やミッシェルはマサシを愛していた。
だから来世こそ、彼を救うクリスティンの提案に迷いは無かった。
「...マサシはまた裏切られたのか...」
この世界の一部人間や、討伐隊員だけでは無い、女神もだ。
マサシの時間を巻き戻すという望みは確かに叶えた。
それだけを聞けば充分な褒美だが、マサシは呪われたまま。
勇者として得たスキルを全部取り消してしまうなんて、これで神と言えるの?魔王と変わらないじゃないか!
「...マサシ」
眠るマサシの右手を握りしめる。
勇者として戦っていた頃と違う、まだ柔らかい彼の手。
過酷な魔王討伐の旅に出た頃の、初めてマサシと会った時...
『異世界より召喚されましたマサシです、宜しく』
『こちらこそ、聖女のミッシェルです』
『...賢者のフランシェスカだ』
マサシと初めて交わした会話、覚えてくれていたんだ。
『しっかりしろ!みんな俺の後に!!』
血まみれのマサシが叫ぶ。
旅に出て一年後、魔王軍から奇襲を受け部隊は寸断され、窮地に陥り死を覚した私達。
マサシは駆け付けてくれたんだ...左目と右腕を失いながら...
『マサシ様、頼みましたぞ!』
『国王様、討伐隊員の皆が居れば必ずや』
『陛下、マサシ様が居ればこそです』
『...みんな』
討伐隊のみんなから感謝され、照れ臭そうにマサシは鼻を掻く。
魔王軍の軍勢を押し返し、いよいよ討伐隊は魔王領に攻め込む事となり、出発前に王国が主催した壮行会の記憶...
「...楽しい記憶なんだ...マサシ」
もちろん私も覚えている。
マサシ目線で見える私達はみんな笑顔。
彼は私達を絶望から救ってくれた...
『グアアア!』
『ゴミクズが...イヤらしい視線で私を見るからだ』
これは?
どうしてマサシはうずくまってるの?
『ウググガ』
マサシは呻き声を上げる。
彼の記憶、目に突き刺す様な痛みが...
『ダメよフランシェスカ、目が見えなきゃ役に立てないじゃない』
この声はミッシェル?
あ...マサシの視界が...
『勘違いしないで、お前が戦わなきゃ仲間が危険になるからよ』
『分かってるさ...ミッシェル』
『ふざけるな!ゴミクズのお前がミッシェルの名を言う資格など無い!!』
『ギャアアァ!』
...これ私だ...
マサシの目に映る私...憎しみを浮かべ、手に薬瓶が...
「寝ているマサシの顔に掛けたんだ。
新しく作った毒薬の効果を確かめる為に...」
呪いが....逃げるな!!
「グボォ...」
マサシの手を離し、記憶から逃げ出す。
ベッドの脇に置かれていたゴミ箱に顔を突っ込み、激しく嘔吐を繰り返す。
「...ごめんなさい」
もう胃液しか出ない。
涙と鼻水で顔は滅茶苦茶だ...
「...あれは呪いなんだ...フランシェスカはそんな事はしない」
「マサシ...?」
今の声はマサシ?しかも何を言ったの?
「起きてるの?」
そっとマサシの髪を撫でる。
酷い寝汗だ。
「俺が弱いから...魔王に隙を与えたばかりに...みんな呪いを...クソ...」
「あぁマサシ...マサシ様は何故?」
どうして自分を責めるの?
悪いのは呪いを受けた私とミッシェル...いいえ私の方がマサシ様に対して行った事が酷かった。
ミッシェルはマサシに相討ちを命じたが、そう考える様にみんなの思考を導いたのは私だ...
「滅されるべきは私か」
そう、マサシをテントから追い出すように言い出したのは私。
「...マサシ様の香りが好きだった」
マサシ様の体臭が堪らなく好き。
呪いで糞尿の臭いに染めたくなった。
「...マサシ様に毒薬は」
マサシ様が怪我をする度、私は毒薬や劇薬を彼の身体に掛けた。
「...私は癒しの魔法は使えないから」
ミッシェルがマサシの身体を治癒するのが許せなかった。
だから...
「なんだ、私の方がマサシを好きだったんだ」
このまま死のうと思っていたが、止めた。
だってミッシェルより私の方がマサシ様を好きって分かったんだから。
「ならミッシェルに連絡しよ」
早速ミッシェルにラインを送ろう。
糞女神の持たせたスキルだが、マサシが目覚める為に有効活用させて貰う。
「信仰も止める!」
誰が糞女神を崇めるもんか!!
信仰を止めたら私は元の世界で転生出来なくなるが、マサシはこっちの世界の人間。
次マサシ様に会えないなら、私の魂が来世どうなろうと構わない。
「もうフランシェスカは止めた!」
私は虍午夏鈴、布津野政志が大好きな幼馴染み!!
この日、私は家に帰らなかった。




