第4話 変わって行く未来~壊れていく明日 中編
「...どうしてなの?」
現実が受け入れられない。
おばさんから連絡を受け、フランシェスカと急いでやって来た病院。
どうして病室のベッドでマサシが眠っているんだろう?
なんでマサシは目を覚まさないの?
「おばさん...これは?」
珍しく震えた声のフランシェスカがおばさんに聞いた。
疲れきった顔のおばさんは呆然としながら私達を見た。
「...分からないの...昨日買い物から帰って来たらマサシが寝ていて...晩ごはんを呼びに行っても起きなくって...」
おばさんの話から要領は掴めない。
ただ分かっている事は、マサシが丸1日寝たままだと言う現実だけ。
「お医者様は何と?」
落ち着きを取り戻したフランシェスカ。
本当に彼女は凄い、私は泣き叫びそうなのに...
「それが...身体には何も異常は認められないって」
「なるほど」
フランシェスカは目を閉じる。
何を考えているのか分からない。
きっと優秀な彼女の事、頭の中で膨大な情報を整理しているのだろう。
魔王討伐の時も、フランシェスカの立てた作戦で私達は討伐を果たしたんだ。
...最後の一年を除いてだが。
『ミッシェル、ゴミクズに相応しい最後の場所を用意したわ』
しまった!
これは最後の決戦に魔王とマサシを戦わせた時の記憶じゃないか!
『さすがねフランシェスカ。
良かったわね、しっかり死んで来なさい』
『...そうだな、やっと終わるんだ』
やめて!
必死で抗うも悪夢の記憶が。
絶望するマサシの顔が脳裡から離れない...
「どうしたの?...美晴ちゃん」
「いいえ...何...でも」
ベッドの柵に片手を置き、なんとか耐える。
ここで発狂する訳にいかない。
マリアが持つ[癒しの笑顔]のスキルがあれば乗りきれるが...
ここにマリアの姿は見えない、おそらく家で留守番しているのだろう。
フランシェスカが困った顔で私を見つめる、呪いか伝播するのを恐れているのだ。
「来てくれていたのか...」
「...おじさん、紗央莉ちゃんも」
病室の扉が開き、マサシのお父さんが顔をだす。
隣にはおじさんの手を握るマリアがいた。
「ママ...らいじょうぶ?」
「うん大丈夫よ」
マリアがおばさんを心配する。
こっちはそれどころじゃない...
「....おねーたん」
マリアがそっと笑みを浮かべる。
苦しみが...胸を締め付ける痛みが消えて行った。
「あなた...紗央莉も、どうして?」
「紗央莉がママを心配してな、政志にも会いたいって」
「そう...ごめんね」
おばさんがマリアの頭をそっと撫でる、本当の親子みたい...まあ本当の親子なんだけど。
「ママ、おねーたんと、ここに居てもいい?」
「え?」
「おねがい」
マリアがコテンと頭を下げた。
「紗央莉ちゃんもお兄さんが心配なのね、私からもお願いします。
後でお宅までお連れしますから」
フランシェスカは澱みなくおばさんに頭を下げた。
何か考えがあるの?
「お願いします、おばさんも少し休まれては?」
私も頼もう、フランシェスカの考えを知りたい。
「分かった、美晴ちゃん紗央莉をお願い」
「はい分かりました」
どうやら納得してくれた。
おじさんとおばさんが病室を出て行き、残された私達三人。
フランシェスカは静かな目でマサシを見つめ続ける。
リサーチのスキルを使い、マサシの様子を確かめているのだ。
「マサシ...貴方は...」
フランシェスカの目に涙が滲む、表情も辛そう。
「フランシェスカどう?」
「...分かりました」
「本当?」
状態が分かれば解決方法がある筈、クリスティン様なら...
「...マサシの意識は過去の記憶に囚われてます」
「過去の記憶?」
「きおく?」
それは一体?
「...まさか...呪いの...」
「呪いじゃない。
マサシは幸せな記憶と、絶望の記憶を交互に見てるわ」
「交互に?」
呪いによる絶望の記憶だけじゃないの?
「ミッシェルしゃま
にいに、わたしは.」
「そうよね」
マリアはずっとマサシに寄り添い、呪いが起きる前にスキルを発動していた。
だから、マサシは大丈夫だと...
「私達が消えるだけじゃ、マサシは救われない」
フランシェスカは断言するけど、マサシのお父さんを救ったし、マリアは呪いが発動するのを防いできたんだ。
私達だって、マサシと距離を置いているんだよ?
「...これ以上どうしたら」
もう策がみつからない、後は私とフランシェスカが消えたら良いだけの話じゃないの?
「...マサシと向き合うしかない」
「誰が?」
「私達がマサシと過ごす未来を」
「バカ言わないで!」
どうして?
私達が諸悪の根元なのは明らかじゃないか!
なぜフランシェスカは、そんな馬鹿な事を!!
「...マサシは今、全ての自信を失っている。
今までの裏切られ続けた日々...異世界でも、戻ってからも、私達はマサシを避けて...」
「違う!」
呪いのせいだ!
私はマサシを傷つけるつもりなんか...
「ぶえぇーん」
マリアの泣きじゃくる声。
彼女はずっとマサシの苦しみを間近で見て来たんだ、自分想いに蓋をして...
「私はどうしたら良い?」
マサシを助ける方法、もう一度フランシェスカに聞いてみた。
「まだ分からないの?」
「フランシェスカお願い、そんな顔をしないで...」
「ごめんなさい、ミッシェル自身で考えて」
「分かった...先に帰るね」
これ以上は聞いても無駄みたいだ。
フランシェスカを残し、私はマリアと病室を後にした。




