第4話 変わって行く未来~壊れていく明日 前編
異世界から戻って二年が過ぎた。
父さんを助けるのが目的だったが、前回事件の起きた一年前、その日は何事もなく終わった。
特に変わった事もなく日々は流れ、平和な時間だけが続いている。
父さんは元気で、母さんも幸せそう、紗央莉は俺にいつも笑顔をくれる。
もしかして、クリスティンが何かしたのか?
だとしたら...
「政志、どうしたの?」
昼ご飯を手にした母さんが俺を見る。
せっかくの土曜日、のんびり過ごさないと勿体ない。
「なんでもない」
「そう?難しい顔してたわよ」
「大丈夫、大学をどこにするか考えてたんだ」
適当に答えてみた。
前回は父さん達が死んで、俺は大学どころじゃ無かった。
近しい親戚はいないはずだったのに、両親が亡くなると、遺産目当てのハイエナが急にやって来て、大変な目にあった。
弁護士を紹介して貰って...
「政志も高三か、勉強頑張ってね」
「ありがとう」
母さんの言葉に、自分が新しい時間を過ごしていると感じる。
「あれ?」
着けていたテレビのワイドショーに母さんが食いつく。
「どうしたの?」
「ここって母さんの地元なの...」
「...へえ」
珍しい。
あまり母さんは自分の過去を話したりしない。
母さんの両親はずっと前に事故で亡くなり、まだ中校生だった母さんは遠い親戚をたらい回しされ、凄く苦労をしたそうだ。
「物騒ね...」
ワイドショーの内容は40歳住所不定、職業不詳の男が何者かに刃物で滅多刺しされ、意識不明という話だった。
「酷く恨まれていたみたいね...」
男は男女間のトラブルを幾つも起こしており、恨みを持つ者の犯行...
凄惨な事件に気持ち悪くなる。
前回父さんに起きた事件と一部重ねてしまう。
「止めよう」
「そうね」
母さんはテレビを消す。
なんだな気分が沈んでしまった。
「...にいに」
「大丈夫だよ紗央莉、兄さんは元気だから」
「うん...」
なんて可愛い、紗央莉の笑顔は最高だ!
すっかり気分が良くなった俺は昼食を済ませ部屋に向かった。
「母さん買い物に行って来るわね」
「分かった気をつけて!」
部屋の中から母さんに返事をする。
父さんは朝から土曜出勤、1人留守番か。
「...平和だ」
部屋のベッドに身体を投げ出す。
この一年、ずっと呪いは起きていない。
ひょっとしたら呪いが解けたのかな?
「だとしたら、これから俺は何をしたら?」
明確な目標が無い。
前回の悪夢を起こさない為に異世界で戦った、俺の目的はそれだけだった。
「...俺はみんなに向き合ってたんだろうか?」
勇者になって魔王討伐したのは、本当に異世界を救う為だったのだろうか?
単に自分の願いを叶える為、利用しただけじゃ?
「...なんだよ、俺って」
もしミッシェル達が呪われて無かったとして魔王倒したら、俺はどうしていたのか?
ミッシェルやフランシェスカの気持ちに応えていたんだろうか?
「いいや...違う」
それは考えて無かった。
別れが辛くなるからは卑怯だ、俺は二人を裏切っていたに過ぎない、最初から帰るつもりだったから。
「良い人に見られたかっただけだ」
だからみんな離れて行った。
前回の友人達もみんな...彼女にもフラれ。
俺に魅力が無かった証拠だ、
「だから美晴と夏鈴も...」
そう言う事だ。
帰って来るまでの俺には、美晴と夏鈴がずっと居たじゃないか。
でも、今はどうだ?
完全に避けられているじゃないか。
結局俺は家族以外は誰1人として、愛され無い人間なんだ。
「...呪いなんか関係無かった」
つまりそう言う事。
俺はそんな人間、善人ぶっていただけ。
「...だから...つまり...」
頭が重い。
酷い眠気が俺を襲う、これは呪いじゃ無い。
何もかもが嫌になった。




