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プロローグ 勇者マサシ

またまたテンプレ発動!

「やったか...」


 振り下ろした聖剣、渾身の一撃を喰らった魔王の身体が霧散していく。

 死闘する事三日、やっと終わった、これで世界が...人間は救われたんだ。


「...どうして勝手に行っちゃうの」


「まさか、お前1人で勝ったの...?」


 疲れで動けない俺の元に駆け寄って来る人が。

 聖女ミッシェルと賢者フランシェスカの2人だ。


「どうして来たんだ?」


「「え?」」


「だって、後方のキャンプで待機してただろ?」



 俺の言葉に2人はキョトンしている。


「...ちょっと、変な事言わないで」


 変な事を言った覚えは無い。

 魔王に決闘を挑む事となった三日前、テントを出る俺にミッシェル達が言ったんだ。


『早く行って、穢らわしい』


『相討ちよ、分かってるわね相討ち。

 間違っても、お前だけ生き残ったりしないで』

 そんな言葉をな。


「そんな...どうして?」


「なんだ?」


 なんだかミッシェルの様子が変だ。


「わ...私、急にマサシの事が心配になって」


「私もなの、魔王の気配が弱くなって...それでマサシが」


 フランシェスカまで様子がおかしくなってきた。

 1年振りに名前を呼ばれたな、このところ、『お前』か『ゴミクズ』だった。


「本当に倒したの?」


「なんとかな」


 魔王の気配が消えたから、俺が相討ちしたか確認する為に駆けつけたんだろう。


「残念だったな、俺は生きてるぜ」


「な...何の事よ?」


「何を言ってるの...マサシ」


「何知らばっくれてるんだ?

 お前達が言ったんだろ、相討ちしろって」


「そんな事言ってな...!」


「...まさか!?」


 2人はうずくまり、身体を震わせる。

 一体何の真似だ?


「あ、そっか!」


 なるほど、俺が無事なのは不味いって事か。

 魔王が消えたのに、異世界の勇者だけ残るってのは世界からすれば不都合だ。


「安心しろ、俺は消えるから」


 魔王を倒したら、願いを叶えてあげる。

 この世界に召喚された時、女神クリスティンと結んだ約束。

 俺は元の世界に戻りたいと願ったんだ。


「...そんなの聞いてないわ」


「言ってなかったからな」


 最初は別れが辛くて言えなかった。


 でも戦いが苛烈になるに従い、俺に対する態度が酷くなって来た。


 1年前から2人共戦場に立たなくなり、ここ最近は隊員達まで引き留めてだろ?

 だから話す気になれなかった。


「お...来たな?」


 眩い光が俺を包む、ようやくのお迎えだ。


「...私達はどうなるの?」


 ミッシェルがポツリと呟いた。

 どうなるって、決まってるじゃないか。


「幸せに暮らせば?」


「...それはどういう意味?」


「そのままだよ、お前達の恋人と暮らせよ」


 知ってるんだ、気づかないと思ったか?


「そんな!」


「居ないわよ!」


 ミッシェルとフランシェスカが叫ぶ。

 本当に何も知らないと思っているのかな、だとしたら滑稽だ。


「ミッシェル、お前の恋人は騎士団長のハリムだ、一年前から抱かれてただろ?」


「...え?」


「フランシェスカは魔術師カリスクだ、時期はミッシェルと同じ一年前」


「...嘘...」


 俺の言葉に2人は愕然としている。

 こっそり仲間に見つからぬ様、セックスしていたんだろうが、俺には無駄だ。


 勇者が持つ固有スキル、[リサーチ(探索)]があるのだ。

 このスキルは仲間に危険が無いか、いつでも把握する事が出来る。

 本来こんな事の為に使うスキルじゃないけど。


「アァァァ!」


「嘘よ!!間違いよ!こんな事...私達は...なんで!!」


 今度は髪を振り乱し叫び出した。

 俺だって最初は信じられなかった、信用していたんだ、本当の仲間だって。


「俺が消えれば万事解決だ」


 結論は同じ事。

 救世主として感謝されて消えるか、邪魔者として罵られて消えるかの違いだ。


「待って!」


「行かないで!!」


「アバヨ...みんな幸せにな」


 視界が霞む。

 実体を失った俺を掴もうとする2人の叫び声を聞きながら、自分の存在が消えるのを感じた。


「ご苦労様でした、勇者マサシよ」


 気がつくと俺の前に、三年振りとなる1人の女が立っていた。


「久しぶりだな、クリスティン」


「神を呼び捨てにするのは貴方くらいですよ」


 少し困った顔の女神クリスティン。

 三年前、俺を異世界から召喚した張本人。


「別にいいだろ、役目は果たしたんだから」


「そうですね」


 クリスティンに頼まれ、俺は魔王軍と戦った。

 貴方は1人じゃない、信頼出来る仲間も居ますと言われた。

 その仲間から、とんでもない目に遇わされた訳だけど。


「あんなの見せつけられながら、最後まで頑張ったんだ、褒めてくれよな」


「...マサシ」


「全く、あの2人には散々だった。

 始めの頃は、あれだけずっと一緒って言ってくれてたのに」


 情けない愚痴が口から次々出てしまう。


 本当は苦しかった。

 ずっと励ましてくれていた人から、一年間も罵られたんだから。


「...その事ですが」


「なんだよ」


 伏し目がちに女神クリスティンは呟く。

 俺が惨めだと思っているのか?


「実は...2人に」


「どうした?」


 クリスティン、どうしたんだ?


「ミッシェルとフランシェスカは呪われていたのです」


「呪われていた?」


「そうです、魔王による呪い...貴方への愛が他者に向き、反対の感情が貴方へ」


「なんだと!!」


 それじゃミッシェル達は、俺を嫌ってた訳じゃなかったのか?


「魔王の狙いは、貴方の心を折る事と分かっていました。

 でも私にはどうする事も出来なかったのです」


 苦悶に満ちた表情のクリスティン。


 魔王の呪いは女神でさえ、どうにも出来ないのなら、人間であるミッシェル達は尚更だ。

 魔王が死なない限り、女神は人間に直接干渉が出来ないと聞いたし。


「そっか...まあ仕方ないよな」


「ですが...」


 結果的に世界が救われた、俺の悔しさなんか、たかが知れているさ。


 ...いや、あの2人はどうなる?

 魔王が消えたなら、掛かっていた呪いは?


「...あの2人はどうなった?」


「......」


「おい答えろよ!」


 クリスティンの顔色が変わった。


「...今頃...絶望しているでしょう」


「どうしてだ?」


「全ての過ちが頭の中で...おそらく」


「おい呪われていたんだろ、何とかならないのか?記憶を消すとか」


「魔王の呪いによってもたらされた悪夢は決して消えません、私の力をもってしても」


「ふざけるな!2人も世界を救ったんだぞ!

 なんで、そんな目に遇わなくちゃならないんだ!!」


「これが...運命(さだめ)...」


「そんなバカな話があるかよ!」


 なにが運命だ、反吐が出る。


「...時間です」


「そうか...そうだったな」


 こんな腐った世界とは早くオサラバだ、クソ!


「戻すのは...分かってるな」


「ええ、貴方が15歳の時からでしたね」


 戻るのは召喚された時では無い、それより7年前、俺が高校一年の時。

 前回起きてしまった悲劇を全部やり直すんだ。

 両親が亡くなる一年前だ、絶対に助けてやる。


「あと、異世界の記憶も消してくれ、そうじゃないと堪えられない...」


「...それは難しいです、さっき言いましたが、魔王の呪いは残ってます」


「呪われたのはミッシェルとフランシェスカだろ?

 俺は呪われて無いぞ」


「魔王の呪いとはそういう物なのです。

 呪われた本人だけでなく、巻き込まれた者も皆...」


「そうかよ...」


 全て忘れたかったのに。

 戦いの事や仲間の事、ミッシェルとフランシェスカの事も。


 残念だが、無理な物は無理か。

 だが元の世界に戻れたら、もうあの2人に会う事は無い。

 あとは俺が我慢すればいいだけの話...


「最後に一つだけ頼む」


「何でしょう」


 これだけは言っておきたい。

 俺が異世界で願う最後の頼みだ。


「ミッシェルとフランシェスカ達に救いを...死なせたりしないでくれ頼む」


「マサシ...」


「こんな運命は余りにも....堪えられない」


 なんとか救われて欲しい、そして幸せになって欲しい。


「ですが...」


 女神クリスティンの表情に苦悶が浮かぶ。

 干渉が難しいのは分かっている、たが頼むしかない。


「どんな形でもいい、みんな救ってやってくれ!」


「分かりました、約束しましょう」


「ありがとうクリスティン...」


 その言葉に安堵しつつ、俺は目を閉じる。


 こうして三年に渡る異世界生活が終わった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ミッシェルとフランシェスカは呪われていたのです」 帰る段になってから、これ言う必要あったの?
[気になる点] >「どんな形でもいい、救ってやってくれ!」 どんな形でも……、どんな形でも……。 なるほど、ですね!
[気になる点] 全国の まさし に謝罪せよ(笑)。 [一言] 聖女も賢者も呪詛で、変になっててか。 でも1年の勇者の悪夢が有るのと、元々、異世界から帰還予定だったから、どうにもしようがか、勇者は。 …
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