愛と魔法のご馳走作り
代官の接待が大成功に終わってからというもの、親方はますますブルーナを大事にしました。
「おめえは、本気で大したもんだぜ、ブルーナ。あの代官様の顔見たかい?天国って感じだった。たしかにうちの現場は、おめえが料理人になってから変わったぜ。みんな元気で、明るくよう…うまく言えねえけど」
ブルーナは大きな身体を折り曲げながら、真っ赤な顔でお礼を言いました。心に小さな炎のようなものが灯るのを感じながら。
それから1ヶ月くらい経ったころ、またもや森に激震が走りました。
今度は代官どころではなく、王宮から立派な馬車が三台もやって来ました。
親方はじめ、作業員たちも、口をあんぐり開けてピカピカの馬車を囲みました。
「はあ、やっと着いたか。お城から丸2日とは。王妃様も年寄りに酷なご命令を…」
御者が扉を開けると、ここにいる全員が見たこともない豪華な衣装を着た、立派な初老の男性が降りて来ました。
みんな、自然と跪いてしまうほどの威厳でした。
「ああ、苦しゅうない。わしは王様の使いで参った執事、ガレと申す。そなたたちの料理人を、王宮で働かせたいとのことじゃ。代わりが見つかるまで、別の料理人も連れてきたぞ」
えっ?!
全員が凍りついた顔で執事を見ました。
「な、な、な、なんで、また、王様が、こんな森の奥の、木こりの作業所の、料理人までご、ご存知なんで?」
親方はまったく理解できないという顔で、執事に聞きました。
「知らぬ。とにかく連れてこいとの仰せじゃ。この国でいちばん偉い方の、ご命令。まさか聞かぬとは申さぬじゃろうな?」
この人が王様だと言われても信じてしまうくらい、威厳たっぷりの執事の目が鋭く光ると、親方は頭を地面にこすりつけました。
「と、と、とんでもねえことで。お、おいっ、早くブルーナを呼んでこい!」
しばらくすると、訳がわからなすぎて不安ではち切れそうな顔をしたブルーナが、ほんの少しの荷物と共に現れました。
執事のガレは、ブルーナの巨躯を眺めて、優しく手招きしました。
「料理人、ブルーナだね」
荷物を胸に抱えたブルーナは、こくりと頷き、目を伏せました。
「怖がらんでいい。わしはガレという。王様と王妃様のご要望で、そなたを王宮の料理人として雇うことになった。さあ、皆に別れをしなさい。すぐにここを出なければ、日が暮れる」
ブルーナはゆっくりと振り向いて、親方やみんなを見つめて、深々と頭を下げました。
「あの、スープはできてます。パンは焼くばっかりになってます。さようなら」
雷に撃たれたような顔の作業場のみんなは、時間が止まったように身動きひとつしませんでした。
「お前は後ろの馬車に乗りなさい。手間を取らせたな、みんな。では」
ブルーナはあっという間に、行ってしまいました。もう会うこともなく、あの料理も食べられないことだけが、みんなにわかりました。