転生悪役令嬢は、愛する人と幸せになった
エピローグです。短いです。
わたしのおじいさまとおばあさまは、とても仲が良い。ああいうのをおしどり夫婦っていうそうだ。帝国の皇太后だった大おばさまは、「二人は小さい時から仲良しだったのよ」とおっしゃっていた。そういう大おばさまも、先代の皇帝陛下と仲睦まじく、十二人も子供がいる。一番上の公主さまは騎馬民族の長に嫁いでいったそうだ。
おばあさまは笑うと小じわができる、綺麗で上品で優しい人だ。美しく年を重ねると、ああいう風になるのだろう。怒ると怖いけど。おじいさまはそんなおばあさまを、心の底から愛していた。なによりもおばあさまを優先し、慈しんでいた。おじいさまとおばあさまの絆には、実の子であるお父さまも、おじさまもおばさまも、孫であるわたしたちも入り込めなかった。もちろん、おじいさまもおばあさまもわたしたちをとてもかわいがってくれているけどね。
そんなおばあさまが、三ヶ月前に亡くなった。半身を失ったおじいさまは、まるで魂が抜けてしまったかのようだった。
「おじいさま、わたしです」
おじいさまは魂が抜けてしまったようだけど、おばあさまの話をするときは少しだけ元気を取り戻す。いとおしげな、柔らかなほほえみ。わたしもいつか、おじいさまとおばあさまのような恋がしたいと思っている。
わたしは最近、おじいさまの部屋を訪ねておばあさまの話を聞いている。おばあさまの若いころの話を聞かせてくれるのは、もうおじいさまだけだからだ。おばあさまの親も、お兄様も、わたしが生まれる前に亡くなっている。わたしはおじいさまとおばあさまの末息子の、そのまた末娘だからね。幼いころはご存命だった、皇太后・大おばさまは、もう何年も前に亡くなられた。
「おじいさま、いらっしゃらないのですか?」
いつもはすぐに返事があるのに、今日に限ってなにも反応がしない。いぶかしく思って扉を開けると、おじいさまは寝台の上にいた。近ごろ体調を崩していたおじいさまは、ずっと寝たきりだったけれども。
「おじいさま」
胸に耳を当てても、何が音が聞こえてこない。腕の脈拍をはかっても、何も感じられない。体は、すっかり冷たくなっていた。
「おじいさま……」
視界がにじんだ。
本当は、わかっていた。誰も口には出さなかったけど、おじいさまがもう長くはないことはみんな察していた。元々ご高齢で体が弱っていたうえに、最愛の妻の死という衝撃を受け、おじいさまの体は限界だったのだ。
それでも、三ヶ月頑張ってくれた。おばあさまの死の一週間後に、お医者様にはいつ亡くなってもおかしくはないと言われていたのに。
寝台に横たわるおじいさまの顔は、もう息をしていないとはとても思えないほどに穏やかだった。
「……おじいさま。天国で、おばあさまにお会いできましたか?」
空はどこまでも青かった。葉擦れの音は、まるでおじいさまの声のように優しかった。