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転生悪役令嬢は、親友にしばしの別れを告げる


私が目覚めて数日後、(ホウ)大臣以外の蓬一族に関する御沙汰が下された。貴妃の位にあった(ホウ) 笙鈴(ショウリン)は廃妃、跡継ぎだった大臣の養子(ホウ) 宇航(ユーハン)は官位を全て剥奪され、辺境に流罪になったらしい。


更に一週間経った今日、笙鈴と宇航様は陛下が用意してくださった馬車(マーチョ)に乗って、人知れず帝都を旅立つ。


「そんな顔をしないでよ。今生の別れじゃあるまいし」


「泣きながら言っても、説得力ゼロだから」


笙鈴と宇航様が、再び帝都の地を踏むことはないだろう。もし戻ってくるようなことがあれば、待っているのは死のみ。命を取らない代わりに、追い出される。追放とは、そういうものだ。


私は一年の半分を帝都で、半分を領地で過ごしているけれど、笙鈴と宇航様の行き先は、陛下の直轄領。再会できる可能性は、ほとんどない。


「あたし、貴族の権力争いとか大っ嫌いだったの。後宮なんて美しいのは見た目だけで、どうやったら相手を引きずり下ろせるか考えているような人ばっかりだった。やり返そうとは思わなかったけど、自衛のためには相手を攻撃するしかなかった」


「笙鈴……」


笙鈴は優しいわけではないけど、さっぱりした気性の子だ。後宮での駆け引きがどれほど苦痛だったかは、想像に難くない。


「だから、人の目がない場所に逃げてしまいたかった。……流罪先は、貴族なんて誰も寄り付かないド田舎。正直、安心してるの」


風評を気にせずにいられる田舎で、大好きな人と暮らしたい。貴族の娘として生まれた笙鈴の、悲痛な願い。


「陛下はまだお若いから、入っている妃は四家の娘だけ。ご寵愛なさってるのは皇后さまただお一人だけど、(まつりごと)のためには他の妃を娶らなければならないこともあるでしょう。-後宮が拡大すれば、陛下の寵愛を一身に受ける皇后さまへの妬みを増す。琳霞も気をつけてあげて」


「もちろんよ」


笙鈴が後宮を退いたことにより、新たに蓬家の娘が入内するらしい。ただ、蓬大臣が犯罪者であることを鑑み、下級妃・才人として。東宮妃として東宮時代の陛下と結婚したお姉様や、入内時から上級妃-淑妃の位を与えられていた笙鈴とは雲泥の差だ。


「姉上。そろそろ」


迎えに来た宇航様の手を取り、笙鈴は馬車に乗った。-本当に、行ってしまう。


「元気でね、琳霞! そこの激重男と仲良くやりなさいよ!」


「誰が激重男ですか」


浩然(ハオラン)に睨みつけられても、笙鈴は何処吹く風だ。凄い。浩然は凍てついた氷のような容貌をしているので、睨みつけるとかなり怖い顔になるんだけど。


「あたしに琳霞を独占されたからって、拗ねて黙り込むなんてほんっと子どもよね〜。今日ぐらい広い心で譲りなさいな」


浩然が黙っていたのは拗ねてるからじゃなくて(もしかしたらそれもあるかもしれないけど)、単に笙鈴のことが苦手だからだと思う。


「じゃあね、琳霞!」


笙鈴が窓から手を振り、宇航様は会釈してきた。馬車(マーチョ)が見えなくなると、傍らの浩然がそっと抱きしめてくれた。まるで、繊細な硝子細工を扱うかのように。視界がぼやける。これでは、浩然の衣が濡れてしまう。体を離そうとすると、それを察したかのように後頭部を強く押さえつけられた。


涙が枯れる頃には浩然の衣はべしょべしょになってしまったけど、彼は怒るどころか真っ赤になった私の目に絹の手巾(ハンカチ)を当て、手を引いて屋敷まで送ってくれた。


「……なんだか、お母様が亡くなった時みたいね」


「郭夫人が?」


「ええ。あの時も泣いてしまった私の涙を拭って、部屋まで送ってくれた」


あの時から-いいえ、出会った時からずっとずっと、優しいひと。大好きなひと。


慰めるような優しい口づけを落とした浩然と、ずっと一緒にいたいと、そう思った。


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