夕ご飯を食べながら。
…前回のあらすじ…
この世界にある魔法と魔術の話を聞いた。
魔法陣はとても複雑で、しかも沢山あるらしい。
それを管理するマスターはすごい魔術師な気がする。
日が暮れて部屋が暗くなると、マスターの術式が起動してランプに光が灯る。
「結構話し込んでしまったね。お腹、空いたりした?」
「はい、少し。・・・マスターは、お腹空いてないんですか?」
マスターの聞き方が少し不思議だったので聞き返す。
「僕はそんなにお腹が空かないほう・・・と言うか、空腹に対する感覚が鈍いんだ。吸血貴は勿論、器は魔力で命を維持しているから、魔力が十分なら別に食べなくても生きていけるんだよ。食べないよりは食べたほうがいいから一応3回食べるようにしているけど、忘れることも多いから、お腹が空いたら遠慮なく言って欲しい」
「分かりました。お腹が空いているということは、もしかして、私は生命維持のための魔力が不足していると言う事ですか・・・?」
不安になってマスターを見遣ると、彼は私を安心させるように笑った。
「ううん、大丈夫。心配しないで。祈には十分に魔力を入れたし、それ以前にキミは自分で魔力を作れるからね」
「え、そうなんですか?」
吃驚するのと同時にお腹がなる。
私が慌ててお腹を押さえると、マスターはくつくつと笑いながら席を立った。
「食堂へ移動しようか。僕の器は余程お腹が空いているらしい」
「もう、笑わないで下さい」
私が抗議すると、マスターは笑いを噛み殺しながらさして悪びれる風も無く謝る。
「ごめんごめん。さ、こっちだよ」
私はもう一度お腹を鳴らすという失態を演じないように気をつけながら、慎重な足取りで彼の後を追いかけた。
食堂へ着くと、真っ白なテーブルクロスがかけられた大きな机の前まで案内される。
備え付けられている椅子の一つを勧められて腰掛けた。
マスターも私の向かいに当たる椅子に座り、術式で何かをしているようだった。
「マスター、何をされているんですか?」
「人形に料理を作らせるように指示を出したんだよ」
「人形?」
「この家には僕しか住んでいないから、掃除や料理は術式で人形を動かしてやっているんだ」
暫くして、厨房があると思われる隣の部屋からメイドのような格好をした人形が料理の載ったカートを押してきた。
彼女(?)は私の前に来ると、とても人形とは思えない滑らかな動作でパンやスープ、サラダ、飲み物などを置いて、マスターのほうへも同じ動作をしに行く。
その後は厨房付近の扉の前に待機した。
「どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます、いただきます」
マスターに勧められて、手を合わせてから料理を食べ始める。
白くて丸いパンには香草のようなものが練りこまれていてとても美味かったし、サラダやスープもいろんな種類の具材が入っていて、食べ慣れない独特の風味があるものの、とても美味しかった。
デザートにはゼリーが出てきて、こちらにも何か香草が使ってあるのか、さっぱりしていて爽やかな風味だった。
食事をしながら、マスターから先ほどの魔力が創れることについて簡単に説明があった。
人間を元にして創られた私やマスターは、自分の中に魔力を創るための機能があり、特に何もしなければ魔力が枯渇して死ぬことはないのだそうだ。
「それって、不老不死ってことなんでしょうか?」
「それに近いけど、厳密に言うと違うかな。たとえば、怪我をしたときの治癒も全て魔力によって行われるんだけど、傷が大きなものだった場合は魔力も相当消費されるから、それで魔力が枯渇すれば死んでしまう。逆に、魔力があればどんな傷でも死ぬことはないよ」
そう話したマスターは何故か悲しそうな顔をしていて、それ以上詳しく聞くのは憚られた。