これからも。
朝日が顔にかかり、眩しさで布団を被る。
「おい、姉貴。…起きろって」
あともう少し…と寝返りを打ったところで、布団の上から力強く揺さぶられた。
「うぅん…クロカゲ…待ってもうちょっと…」
むにゃむにゃと布団を巻き込もうとする私を制し、彼は軽々と布団をめくりあげる。
あれ、何でこんなにあっさり布団取られちゃうんだろ…普段ならもっと力も弱いし、声だって…。
寝ぼけた頭でも違和感を覚えて眼を開けると、そこにいたのは呆れ顔を全開にした大人クロカゲで。
「ーーーー!?」
色々吃驚して急速に目が覚めた。
「え、クロカゲ…!?」
子供になってない!と叫びたくなるのを我慢して、何とかそこで口をつぐむ。
私が言いたいことが分かったのか、クロカゲは溜息を一つついてから布団を私に返すと、ベッドの淵に座った。
重みで少しベッドが軋んで、今のクロカゲの状態がより現実味を帯びてくる。
「それが戻ってなかったんだよ。理由はさっぱりだけど、姉貴の魔力は俺とかなり相性がいいのかもな」
そう話すクロカゲは何故かあまり嬉しくないみたいだった。
昨日の話からすると、クロカゲは元に戻りたいって思ってたはずなのに、何でだろう。
「えぇと、クロカゲは今の姿が本当の大きさなんだよね?その姿が継続できるならいい事なんじゃないのかなぁ」
言葉を選びながら質問する。
「まぁ、本当にこのままなら嬉しいんだけどな。ただ、魔力がじわじわ減ってる感じはしてるし、思いのほか長持ちしてるってだけだと思う」
なるほど。思ってたよりも燃費が良いって言うだけで、結局このままだといつかは子供になっちゃうのか。
クロカゲの説明に頷きながら、じゃぁ定期的に補充すれば…まで考えたところで思考が停止した。
いやいやダメでしょ。
今の所補充方法はアレしかないんだから、それを提案すると私の首を絞めるだけになるでしょ。
それに、その…件のことがあってから私はクロカゲを意識してしまっているので、クロカゲには申し訳ないけれど、私としてはちっちゃいほうが有難い。
…人は見た目じゃないというけれど、やっぱり見た目も大事だと思うんです。
だってほら、こんな大きいクロカゲみたら、ねぇ。
「…なんだよ、姉貴?俺、何か変か?」
クロカゲを見上げる私の視線と表情に何かを感じ取ったのか、クロカゲが怪訝そうな顔をする。
「ううんそんなことはないよ!?えーと、ただ、その、魔力の補充方法がほかにも何かあればいいのになって思って」
慌ててそう答えるものの、平静を装えてすらいない自分に頭が痛くなる思いがする。
誤魔化そうと思っても全く誤魔化し切れていないうえに、墓穴まで掘ってしまうとは…。
「うーん、そうだな…」
明らかに挙動不審な私に対して、幸か不幸か鈍感なクロカゲは特に気にした風もなく、考える素振りをする。
どうやら、私の台詞を額面通りに受け取ってくれたらしい。
「姉貴の血とかを飲めば効率よく補充は出来るだろうけど…俺としてはそんなことしたくないんだよな」
だって姉貴が痛いだろ?と気乗りしなさそうに続ける。
「え…!?あ、でもそっか。吸血器だから、血に魔力があるんだね。うーん…確かに毎回痛いのは嫌かも」
斜め上の回答に一瞬吃驚するけれど、よくよく考えてみればそうだったなと思い出す。
確かに痛いのは出来れば私も勘弁願いたいし、吸血器が逆に血を飲まれるっていうのが何とも言えずシュールだ。
「だからさ、姉貴さえよければ昨日と同じ方法でいいんじゃねーか?」
それが一番だろ?と言わんばかりの表情でそう言われてしまうと、真っ向から否定もし辛くて困る。
確かに身体的には痛くも痒くもないんだけれど、心理的にはどうかと言われると相当な大ダメージである。
でも、クロカゲは元の姿に戻りたい時だって勿論あるだろうし、何ならずっとその姿のままの方が良いのかもしれないし。
そこに私のワガママ…というか葛藤と言うか、そういったもので邪魔してしまうのは行けないと思う。
「ダメだったか?でも、姉貴も俺のことが好きなら問題ないだろ?」
私が考え込んでいるのを見て、クロカゲが重ねて尋ねてくる。
そのことで一瞬頬が熱くなる思いがしたけれど、すぐに新たな可能性に思い至ってはっとする。
あの時の、嫌いか?っていうセリフは、好意を確かめる発言というより、魔力補給をしてもいいかどうかの確認だったのではないだろうか?
それならクロカゲの態度が変わらないのも頷ける。
うん、そうに違いない。だってクロカゲ鈍感だし。
そう考えると、意識してしまっている自分の方が何だか変に思えてきた。
それに、あれが魔力補給の手段で、それ以上でもそれ以下でもないなら、逆に変な態度をとるのはクロカゲに何だか申し訳ない。
つまりこれはただの魔力補給。ただのまりょくほきゅう。
心の中で呪文のように繰り返して自分に暗示をかけるようにすると、少し落ち着いてきた気がする。
「ううん、大丈夫。クロカゲが必要な時は言ってね。協力するから!」
自分の中に少し残った動揺を振り払うように首を振ってそう言うと、クロカゲは安心したように笑った。
「ああ、良かった。ありがとな、姉貴。これからも宜しく頼む」
毎週更新にしてきたのですが、執筆時間が安定して取れなくなってきてしまったので、更新を不定期に変更にさせていただこうと思います。
急いで執筆することが多くなり、内容が薄くなってしまってきていると感じたため、更新頻度を落とすことにしました。申し訳ありません…。




