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だってそんなの聞いてない。下

その後クロカゲは信じられない速さで家に着くと、私を寝室のソファに降してからリビングを出ると、暫くして濡れタオルを持ってきた。

「書斎に行ってみたけど、軟膏は残ってなかったみたいだ。とりあえずこれで我慢してくれ」

そうして、ちょっとぎこちない手つきで足にグルグルと巻き付けてくれた。

そう言えば、暫くお店にいけないかもしれないから、と思ってありったけの在庫をチヨさんのお店に卸してきちゃったんだっけ。


「…こんなもんか?悪い、怪我の対処法とかよく分かんねーから、明日ちゃんと医者に診てもらおうぜ」

「ううん、もう殆ど痛くないから大丈夫。山で冷えたのが良かったのかも」

そう言って笑って見せると、彼も少し安心したように表情を緩めた。


「それなら良かった。でも念のために明日はちゃんと見てもらった方が良い。おれが行って呼んで来るからさ」

「心配性だなぁ。…あ、でもその格好で町に行ってもクロカゲだって分からないから話がややこしくなりそうじゃない?」


目の前にしゃがみ込んでこちらを見るクロカゲの目線は私と同じくらいで、こんなに大柄な人があの小さなクロカゲと同一人物だと言っても誰が信じてくれるだろう。

事情を説明しようにも、妖魔だってことは隠しているし、でも別人として町に行ったら、今度は私との関係性の説明が難しいし…。


「チヨさんのお店まで行ってお薬買ってきてもらうだけなら事情とか話さなくてもいいし、一番いいかも」

ちょっとマッチポンプ式になってるけどね。と笑う私を見て、クロカゲは苦笑した。

「それなら心配すんな。どうせ明日にはまたチビになってるからさ」

「それならよかった。…って、え?」


そういえば、色んな事がありすぎて失念していたけれど、そもそも何で大きくなったのかも聞いていなかったんだった。

とりあえず、状況を整理するところから始めないといけない。


「とりあえず、おれがこの大きさになったところから説明しないといけないな。簡単に言うと、姉貴から魔力を貰って元の姿に戻ったっていうのが近いんだよな」

私の表情でかなり混乱していることが分かったのか、クロカゲは私の隣にゆっくりと腰掛けて説明を始めた。

重さでソファがそちら側に軽く沈み込む。


隣のクロカゲを見上げて、私はますます混乱する。

クロカゲの話からすると、私が出会ってから今まで見てきた小さなクロカゲは本当は普通の姿じゃないってことになる。

…いやいやそんなの聞いてない。


「どういうこと?…つまり、今のクロカゲが、本当のクロカゲってこと?」

「まぁ、そういう事になるな。姉貴に出会った頃は魔力不足でかなり弱ってて、元の身体を維持できなかったんだ」

情けない話だろ?と自虐的な表情になるクロカゲに、私は首をぶんぶん振った。


「そんなことないよ。誰にでも弱ったりするときはあるでしょ。現に、今の私がまさにその状態だよね」

クロカゲにタオルを巻いてもらった足をふらふら動かしながら苦笑すると、クロカゲもようやく笑ってくれた。

「そう言われてみるとそうだな」


ちょっと信じられない気持ちにはなるけれど、確かにクロカゲは出会った頃に子供扱いするなって怒ってたし、時折自分が小さいことをもどかしく思っているような口ぶりになることもあった。

自分の身長が半分くらいになっちゃったら、それは不便だしもどかしいよね。


…でも、チビに戻るって言っていたけれど、それってどういうことだろう?

折角元の姿に戻れたのに、また小さくなっちゃう理由はちょっと気になる。


「そう言えば、何でまたちっちゃくなっちゃうの?そっちが本当の大きさなんだよね?」

「ああ、そのことだけど…さっきの洞窟で魔力を貰った分で今の身体を維持してるんだよ。…今の俺だとチビの時に必要な魔力を補充するのでもギリギリだからさ。つまり、姉貴から貰った魔力が切れたらまたチビに戻るって訳だ」

「洞窟で魔力を貰ってって…まさか」


そこまで言って、洞窟での出来事を思い出して、私は頬に熱が集中するのを感じた。

クロカゲの言う魔力を貰うっていうのは、つまり。つまり。


「姉貴の口から直接体内の魔力を貰ったんだ。…悪かった。突然あんなことして。でもあの時は状況が状況だったし、どうしようもなかったんだ」

慌てる私とは対照的に、クロカゲは少し目線を下げた。


申し訳なさそうに言うクロカゲを見ていると勿論責める気にはならないし、そもそもあれは魔力補充のために仕方なくしたんだと思うから、寧ろそれを意識している私の方が申し訳ない。大変に申し訳ない。


「ううん気にしないで全然大丈夫!一時的にでも元の姿に戻れる方法が見つかったなら良かった!私で良ければいつでも協力するからーーー」

言いかけた私の手をクロカゲががしっと握ってくる。

「ホントか!?すげー嬉しい!ありがとな、姉貴!」

恥ずかしさを誤魔化すために早口でまくし立てるように喋ってしまったけれど、よくよく考えるとこれって拙いんじゃないだろうか…と思った時には時すでに遅し。

クロカゲの喜びようを見て、引き下がるに引き下がれなくなった私はおずおずと頷くしかなかった。

「え、あ、うん。あの、でもお手柔らかに…」



その後、とりあえず明日はクロカゲにお薬を買ってきて貰うという事で話がまとまったのでお互いつかれているしもう寝よう。という話になった。

…のだけれど。


ぐうぐうと眠るクロカゲの気配をつい立て越しに感じつつも、私は中々寝付けずにいた。

まさかクロカゲがこんなに大きな男の人だったなんて露程も思っていなかった私は、つい立て越しとはいえ、同じ寝室にベッドを設置してしまっていたのだ。


でもここで私が責められるのは間違っていると思う。

だってそんなの聞いてないし。

寧ろ、小学生くらいの男の子となら一緒に寝ていたっておかしくない位だ。

それに、今のクロカゲは元の姿とはいえ一時的なものみたいだし、明日になれば小さいクロカゲに戻るから何ら問題はない筈。

そう。明日になればこの問題も解決なのだ。


頭の中で誰に対してなのか分からない言い訳を一通り繰り広げると、何だか落ち着いてきた。

これで寝て起きればとりあえずは元通り。

怪我が治ったら早めに警護団の詰め所に行って、依頼を報告しよう。


そんなことを考えている間に、段々と意識は微睡んでくる。

私が勝手に意識してしまっていた事はすべて水に流して、明日からはまたクロカゲにいつも通りに接しようと思いつつ、私は眠りについた。



…しかし、そうは問屋が卸さなかったのである。

何とかまとまりました。本当に良かった…。


多忙さが極まって来て、更新お休みの日が出て来ちゃうかもしれないです。すみません。

折角ここまで書けたので何とか頑張りたいのですが執筆時間がなかなか取れず…。ご理解いただければ幸いです(´・ω・`)

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