気持ちの共存。
…前回のあらすじ…
マスターに『祈』と言う名前をもらった。
もしかしたら、この人は私を殺したことを後悔しているのかもしれない。
他に何か訊きたいことは無い?と言うマスターに、私は首を振る。
ずっと胸の中にざわついていた不安は落ち着いている。
マスターが私をどう思っているかの答えは先ほどの話だけで十分だった。
二つの相反した私を、マスターはどちらも肯定してくれた。
水と油のように相容れない感情がせめぎ合っていて、とても不安定だった私と言う存在は、祈と言う名前によって一応感情の共存に落ち着けたのだと思う。
「マスターが知りたいのは、私がどうして混乱していたか、と言うことですよね」
そうして話題は最初に戻り、マスターは頷いた。
「もう、さっきまでの会話でお互いに大体分かってしまっていると思うんだけど、そこはすれ違わないように、ね」
「はい」
私はマスターに同意して、それから自分の考えを整理しながら口を開く。
「目が覚めたときの私は、死ぬ前の記憶がありました。そして、目の前に居たマスターを見て、恐らく、この人に殺されたのだろうと思いました。・・・凄く、怖かった。でも同時に、マスターに『お母さん』を感じました。上手く言えないけれど、自分の中に全然違うことを言う人が二人が居るみたいでした。それから、マスターから色々お話があって、自分が何を考えているのかよく分からなくなって、凄く混乱しました。だから、気持ちを整理したくて部屋を出てしまったんです」
そこまで一気に話して、一息つく。
マスターは静かに話を聴いてくれていた。
手元のお茶に口をつけると、さっぱりとした味わいで、口の中にふわりと甘い香りが広がる。
「このお茶、美味しいです」
暖かいものを口にしたせいか、緊張が少し解けて頬が緩むのが分かる。
マスターも同じようにお茶を飲んで笑った。
「良かった。香茶と言うんだ。色んな葉を混ぜて自分の好みの味にしたものの総称のことだよ」
「マスターのお好きな味ということですか?」
私の質問に、マスターは何故か考える素振りを見せた。
「んー・・・そうだね。そういうことになるのかな。まぁ、色々詰め込むのも大変だから、追々ね。あと、そんなに畏まった言葉遣いはしなくてもいいよ」
「え、でも・・・」
生みの親とはいえ初対面に近いような感じだし、何より私には今までの人生経験がある。
幾ら許可が下りていても、目上の人(と言う解釈でいいのかどうかは分からないが)に行き成り砕けた口調で話すのは私の価値観ではいささか抵抗があった。
私が思案していると、マスターは苦笑した。
「行き成りは難しいか。まぁ、それは祈が慣れたらでいいよ」
「はい」
頷いて、お茶をまた一口飲む。
気持ちが穏やかになってきたのはお茶を効果だけではないのかもしれない、と向かい側でゆったりお茶を飲むマスターを見詰めた。
香茶はハーブとか緑茶とか紅茶とか干し果物とか、それぞれが好きなものを混ぜて淹れて作るので、様々なものが一緒くたになっているかなりザックリとしたお茶の総称です(笑)