暇つぶしを探しに。
植物図鑑と籠の他に調合書を持って、ドアを開けて外へ。
私に続いて家を出たクロカゲを振り返る。
「でもいいの?折角のお休みなのに…お家でゆっくりしててもいいんだよ?」
外は快晴。
昼下がりの今の時間は太陽の光も強くて、初夏とはいえ結構な暑さだ。
森に入れば風や木陰で少しはいいかもしれないけれど、いくらクロカゲが大丈夫になったとは言え、午後の日差しは強烈だし、折角の休日に仕事まがいのことをさせるのは忍びない。
心配する私をよそに、クロカゲはからりと笑った。
「ああ。おれも別にしたいことがある訳じゃねーし、姉貴が一人で森に入るのも心配だからなー」
それに、暖かくなると魔物も出やすくなるって町の奴らがいってたぞ。と続ける。
「そういえば、チヨさんに気を付けてねって注意されたっけ」
今までは肌寒かったこともあり、魔物の動きがあまり活発ではなかったようだが、暖かくなると、人里近いこのあたりにも魔物が出てくるようになるらしい。
魔除けのポプリの売り上げが良くなって来たときに、チヨさんから薬草採取の際は注意するよう言われていたのを思い出す。
そんなに強い魔物は出ないとのことだったけれど、スライムとか、フェルレットっていう、額に石の付いたフェレットに似た魔物とかが出てくるようになるらしい。
あとは、たまーにだけど凶暴な魔イノシシとかが出るんだとか。
「そうそう。姉貴、戦えないだろ?ただでさえ採取中は無防備になるし、おまけに見たことない植物見つけるとその場で調べ出すし…。これからはおれが付いてくから必ず声かけろよ」
心配半分呆れ半分の口調でそう言われると、図星であることも手伝って私は苦笑するしかない。
「ごめんね。練習したことはあるんだけど…実戦はまだしたことないんだよね」
マスターの所にいた時に、少しだけ自分の武器の扱い方を教えて貰ったことはあるけれど、実戦はしたことがない。
今でも空いた時間に魔力武器の具現化の練習をしてみてはいるけれど、戦うような相手もいないし、そんな状況にもなったことがないのでいまだに戦い方はさっぱりだ。
ただ、少しずつ練習してきた成果はちゃんと出ていて、武器の生成は一瞬で出来るようになった。
因みに、細い枝とかなら私の力でもスパッと切れちゃう位切れ味は鋭いみたい。
近くにハサミとかがない時とかに、何かを切るのに使えて地味に便利なんだよね。
…護身用で教えて貰った武器なのにそんな使い方をしているなんて、マスターには申し訳なくてとても言えないけど。
そういえば。
クロカゲが戦っているところも見たことがないけれど、そもそも彼は戦えるんだろうか?
妖魔だし、私よりも大分長く生きていると言っていたくらいだから、戦闘の一つや二つや三つ…いやもっとしているかもしれない。
「そういえば、クロカゲって強いの?」
気になったのでそう聞いてみると、クロカゲは不敵に笑った。
「誰に聞いてるんだよ。おれはれっきとした妖魔だぜ?昼間で本調子じゃなくてもそこら辺の雑魚になんか負けねーよ」
余裕たっぷりの様子に、思わず笑みが漏れる。
「それなら安心だね。護衛の方、よろしくお願いします」
「おう、任せとけって」
採取場所に着いていつものように薬草を物色していると、そこかしこの木や草に蔦植物が巻き付いているのが目に入る。
新緑の蔦がシュルシュルと太い幹に巻き付いていて、ハート形のような形の葉っぱが所々についている。
試しに引きはがしてみると、繊維がしっかりしているのか蔦はしなやかで、結構な強度がありそうだ。
あ、そうだ。
これでリースでも作って飾ろうかなぁ。
時間つぶしにはもってこいだし、お部屋のインテリアにもなるもんね。
初めて見る植物だったので一応植物図鑑で調べてみると、なんと。
この植物は虫が嫌う匂いを発しているらしく、虫よけの効果があることが分かった。
匂いを嗅いでみると、確かに。
蔦や葉から、スッとするような独特の匂いが微かにする。
別段嫌な臭いではないし、季節的にそろそろ虫が増えてくるころだし、これは一石二鳥だ。
蔓を沢山籠にしまっていると、他にも見たことのない植物をいくつか見つけた。
いつもだったらクロカゲにお小言を貰いながら急いで調べたり、一つ二つ持って帰ってあとで調べるたりするんだけど、今日はお仕事じゃないからかクロカゲも特に急かしてくることもなくて、ゆっくり種類を調べられて大満足。
ついでに魔力調合の使い道も調べてみると、アルクスの葉という植物は、魔力調合するとアルコールの元が出来ることが分かった。
これからの調合で使うことが多そうなので、これは物凄い収穫だ。
それから、アルクスの実は、昔から虫よけの薬として使われて来たという事も分かった。
しかも、なんと!
アルクスの実は民間調合…つまり、魔力を使わずに虫よけの薬が作れるという事が分かった。
これは棚から牡丹餅、渡りに船だ。
帰ったら早速やってみよう!
そう言うわけで、実が付いた蔓を探してそちらも籠に詰め込む。
中がパンパンになってしまったけれど、暇潰しにはこれくらいが丁度いい。
ひと段落ついて周りを見渡すと、夢中になりすぎていて結構奥の方まで来てしまっていたことに気が付く。
立ち上がって家に帰ろうとすると、近くの茂みからガサリと物音がした。
…おまけ そのじゅうなな…
◼️武器紹介◼️
◯イノリの魔力武器◯
イノリの体内にある魔力を一時的に具現化して武器にするもの。
形は自分で決めることができるが、武器の大きさは魔力量に左右されるため、蓄積魔力が少ないイノリは包丁程の長さの短剣を造るのが限界。
形を変えれば盾のように展開して身を守ることもできるが、魔力に余裕がないため、剣をしまって盾として生成し直さなければならず、実践に取り入れるのは現状では難しい。
だだ、武器の切れ味は抜群で、硬い枝も一振りで簡単に切ることができるほど鋭い。
習得当初は生成に時間がかかっていたが、日々の練習により、今では武器を瞬時に出せるまでに上達した。
クロカゲ:姉貴が時々外で何かしてたのって、その武器を出したりする練習だったんだなー。
イノリ:うん。まだ戦ったことはないんだけど、いずれそういう事もあるかもしれないと思って。時間がある時にちょこちょこね。ただ、魔物は見たことすらないから、実際に遭遇したら戦えたものじゃないかもしれないけど…。
クロカゲ:確かに最初はビックリしてそれどころじゃないかもなー。
イノリ:そうだよねぇ…私もそんな気しかしない。襲ってこられたりしたら一目散に逃げるか、動けなくなっちゃったりしそう…。
クロカゲ:ま、心配すんなよ。ちゃんとおれが護ってやるからさ。
イノリ:わぁ、凄く頼もしい!…でも、私が何も出来ないお荷物なのもいけないから、少しずつでも戦えるようにならないとね。マスターからの課題のこともあるし。
クロカゲ:自分の身の安全を守れるようにって奴か?
イノリ:そうそう。
クロカゲ:それって別に、姉貴が1人で何でも出来るようにならなくてもいいんじゃねーか?おれが姉貴を護ればいいんだろ?
イノリ:あっ…なるほどたしかに…!!
クロカゲ:だろ?だから姉貴は1人で全部やろうと思わなくてもいいんだぜ。もっとおれに頼ればいい。
イノリ:…そっか、そうだよね。本当にありがとう、クロカゲ!これからも宜しくね。
クロカゲ:おう、改めて宜しくな。助け合っていこーぜ!
イノリ:うん!




