お休みの過ごし方。
丁度いい時間になっていたので、閑散とし始めた広場でそのままお弁当を食べることにした。
クロカゲがお弁当やご飯の料理に興味を持っていたこともあって、今日はおにぎりのお弁当だ。
おかずは、だし巻き卵にアスパラのベーコン巻き、キュウリと人参とハム入りのポテトサラダ、エビとブロッコリーの炒め物、それから鶏のから揚げ!
クロカゲの初めてのお弁当という事でちょっと奮発した内容にして、海苔で巻いたおにぎりの中には焼き鮭を入れてみた。
「はい、どうぞ」
手ごろな大きさの布で包んできたお弁当をクロカゲに渡す。
包みをほどいて、蓋を開けたクロカゲの表情がパッと輝いた。
「めっちゃ美味そう!こんなに沢山のおかずが外で食えるなんて、お弁当はすごいんだな!」
「喜んで貰えてよかった。今日は急ぐ用事もないし、ゆっくり食べようね」
キラキラした表情でお弁当を眺めるクロカゲを見て、私も嬉しくなる。
早起きして色々作った甲斐があったなぁ。
クロカゲは頷いて、早速おにぎりを頬張った。
「おう!…ん、このおにぎりの中にも何か入ってるぞ!」
「何も入っていない塩むすびもあるんだけど、大体のおにぎりには中に具が入ってるんだよ。今日は鮭だけど、他にも梅干しとか昆布の佃煮とか、種類も沢山あるの」
「へぇ。これならもしおかずがなくても、おにぎりだけで食べられるな!」
「忙しい時はそうすることもあるよ。軽食にちょっと食べたりとか。おにぎりだけなら簡単だし、食べたかったらいつでも作るから言ってね」
「本当か!?これなら簡単に食べられるし、持ち運びも簡単そうだし、毎日食いたいくらいだ」
「気に入って貰えて良かった。収入も少しは安定してきそうだし、お昼ご飯をおにぎりにするくらいなら出来そうかな」
クロカゲが余りにもおにぎりを気に入ったようなのでそう提案すると、彼はとても嬉しそうに笑った。
「いいのか!?中身も色んな種類があるんだろ?明日のおにぎりも楽しみだ!ありがとな、姉貴!」
クロカゲはおにぎりの他におかずも沢山褒めてくれて、凄く興味も持ってくれて、お昼ご飯はお弁当の内容で会話に花が咲いた。
食べ終わってからのお弁当箱を仕舞って、水筒の香茶で食休み。
「このあとはどうするんだ?」
「うーん…そうだなぁ。町を適当に散策して、夕飯のお買い物をして帰ろうかなと思うんだけど、どうかな?」
「いいんじゃねーか?何かすげー休みっぽい感じするし!」
クロカゲが笑顔で賛成してくれたので、その後はこのふんわりした休日計画を実行した。
民芸品店に並んだ木工細工の精巧な造りに感動したり、お花屋さんに調合に使う材料が意外と売っていることに吃驚したり。
ゼンさんとチヨさんのお店に少し顔を出して雑談したり、チヨさんに教えて貰ったお店さんで、味噌やみりんなどを買ったりして、その日はのんびりと終わった。
「うーん…」
私は書斎で一人悩んでいた。
別に魔力調合をしている訳ではない。
寧ろ、魔力調合をしていないからこそ悩んでいるのだ。
そしてついに耐え切れず、悩みの種を口から吐き出した。
「ひまー!」
そう。暇なのである。
チヨさんから貰った一週間のお休み。
その半分を過ぎたところでやることがなくなってしまった。
最初のうちはゆっくり町を回って買い出しをしたり、部屋を掃除して模様替えしたり、料理に拘ってみたり。
そこそこ充実した休日が過ごせていたのだが、遂に、と言うべきか、やることが尽きてしまったのだ。
今も調合書を眺めたりなどしている訳なのだが、どうせ調合出来ないしなぁ。などと言う雑念が、煩悩が。
頭を掠めまくったりなどしまって、もう身が入らない。
「どうしたんだ、姉貴?何か声が聞こえたけど」
私の声が聞こえていたらしく、クロカゲが書斎に入ってくる。
扉は閉めていたんだけれど、どうやら思いのほか大きな声が出てしまっていたらしい。
「あ、ごめんクロカゲ。やることなくなっちゃって手持無沙汰だなぁって思って…」
調合書をパラパラと捲りながらそう言うと、クロカゲは私の本を見遣ってため息を吐いた。
「だからって、魔力調合しちゃダメだからな。眼の色、折角濃くなって来てるのに、また薄い色に変わっちまうぞ」
「分かってるよー…」
クロカゲにぴしゃりと言われてしゅんとする。
魔力調合したくて仕方ないですオーラがあふれ出てるんだろうなぁ、きっと。
これが本当の『目の色変えて』って奴なのかもしれない。
でも実際の所本当にそうなので、これにはぐうの音も出ない。
クロカゲは意外と頑固なので、これ以上の説得は無理だろうと諦めて本を閉じる。
仕方がないので調合用の素材でも取りに行こうと準備を始めると、クロカゲも一緒に行くと言ってついてきた。
ブックマーク、評価ありがとうございます!!
すごく嬉しいです!!ありがとうございますー♪
…おまけ そのじゅうろく…
◼️お料理紹介◼️
◯お弁当◯
鮭のおにぎりに、だし巻き卵、アスパラのベーコン巻き、ポテトサラダ、エビとブロッコリーの炒め物、鶏のから揚げが入ったお弁当。
メインの唐揚げの味付けは、醤油、ニンニク、砂糖、料理酒。
イノリ:クロカゲが食べたいって言ってたから、はじめてのお弁当だし、ちょっと気合を入れて作ってみたよ!
クロカゲ:これめっちゃ美味かったー!外でこんなに色んなものが食べられるなんて、お弁当ってすごいよなー。
イノリ:喜んでもらえて良かったよー。青空の下で食べるお弁当ってやっぱり格別だよね!より美味しく感じるし、何より、蓋を開けるときのワクワク感がいいんだよね!
クロカゲ:確かにな!何が入ってるのかとか考えながらワクワクするし、色んな種類のおかずが入ってるのを見て吃驚したりっていうのも醍醐味なんだろうな!
イノリ:そうそう。自分で作ったお弁当も好きなもの入れられてそれはそれで良いんだけど、誰かに作ってもらったお弁当はそういう楽しみがあるよね!
クロカゲ:なるほどなー。でも、こんなに沢山朝作るの大変だっただろ?
イノリ:前の日に下準備できそうなものはしておいたんだ。アスパラのベーコン巻きはもう焼くだけにしておくとか、ポテトサラダもあらかじめ作って冷蔵庫に入れておくとか。唐揚げの下味も、普段より薄味で付けておけば翌朝ちょうど良くなってたり。
クロカゲ:前の日に台所で何かやってたのはそれだったのか。言ってくれたら手伝ったのに。
イノリ:ごめんね。でも最初だし、クロカゲには当日お弁当のおかずを見て吃驚してもらいたかったんだ。
クロカゲ:そういうことだったのか…。色々ありがとな、姉貴!次回からは手伝うから声かけてくれよ。
イノリ:こちらこそありがとう!よろしくね、クロカゲ!
クロカゲ:おう!
 




