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魔力不足とお休みのこと。

直ぐに椅子から立ち上がろうと思ったけれど、安心して気が緩んだのか倦怠感が押し寄せてくる。

それでもほかにお客さんが来たら大変なので、チヨさんに報告に行こうと立ち上がると、くらりと眩暈がした。


「姉貴まだかかってるのか?…姉貴?」

私を呼びに来たクロカゲの声で我に返る。

「…あ、ごめんクロカゲ。ちょっとくらっとしちゃったみたい」


どうやらもう一度椅子に逆戻りしていたみたいだ。

額を抑えつつ、もう一度立ち上がるため上体を起こそうとすると、クロカゲがそれをやんわり押し留めた。

「おいちょっと待てって。…大丈夫か?大分具合悪そうだぞ」

私の様子を見て眉根を寄せる。

「うーん…何か貧血っぽい感じかも。でも大丈夫だと思うよ」

ちょっと疲れただけだろうと笑いかけるも、しかしクロカゲ笑わなかった。


真面目そうな顔をして私の眼を覗き込む。

「…魔力不足だな。目の色、薄くなってる。しばらくは魔力調合はしない方が良いな」

そう言われて驚く。

「え…!?でも、急にそんなこと言われても…」


確かに、一度に大量に調合してしまったのは確かだし、私の生命維持は魔力で行われているから、貧血=魔力が足りないというのは認識としては正しい。

加えて眼の色のことにも言及されているので、これはもうクロカゲの見立てで間違いはないと思う。

…思うのだけれど、魔力調合が出来なくなるのはとても困る。

警護隊からの依頼が急に来るかもしれないし、お店の供給だってまだ安定したとは言い難い。


「駄目なものはダメだ。そんなに急に回復させる方法なんてないし、姉貴に何かあったら困る」

言い淀む私に、クロカゲはにべもなかった。

でも、私の事を思って言ってくれているのも分かるから、これには大人しく頷く他ない。

「…分かった、しばらくはお休みする。でも、お店のこととかでどうしてもって時はちょっとだけなら調合してもいいでしょ?」


チヨさんのお店に商品として置かせてもらっている以上、まったく在庫が補充されないのはお店の信用に関わる。

私のお願いにクロカゲは唸るれけど、渋々だが頷いてくれた。

「…仕方ねーな。どうしてもって時だけだぞ」

なんとかそこには同意して貰えて安心する。


「うん、約束する!ありがとうクロカゲ!」

「っおい!姉貴!」

目の前のクロカゲを引き寄せて抱きしめると、彼は慌てながら体を離して私を椅子に深く座らせ直した。

「吃驚するだろ!それに、具合が悪いのに急に動くなよ!大人しくしてろ」

「そんなに怒らなくても…ごめんって」

顔を真っ赤にして怒るクロカゲに謝る。

…本当、そんなに怒ることないのになぁ。


「…とにかく、事情を説明しないとな。チヨを呼んでくるから、そこで大人しくしてろよ」

「うん、ありがとう」

気まずそうにぼそぼそと付け足すクロカゲに、怒られた手前、多少居住まいを正しながら頷く。

クロカゲは足早にお店の奥に引っ込むと、直ぐにチヨさんを連れて来てくれた。

器のことは伏せつつ、掻い摘んで事情を説明する。

チヨさんは一も二もなく頷いてくれた。


「そうよね、イノリちゃんがやっているのは魔力調合だもの。一気に調合すれば魔力不足になるのは当たり前なのに…私の配慮が足りなかったわ。本当にごめんなさい」

そう言って申し訳なさそうに頭を下げるチヨさんに、私は慌てる。

「そんな、チヨさんのせいじゃないですよ。自己管理ができていなかったのは私の方ですから。元々無理のない範囲で調合する筈だったのに、沢山作ったのは私ですし。寧ろお店に迷惑をかけてしまってすみません」

しかし、私の話を聞いたチヨさんは穏やかに首を振った。

「いいのよ、そんなこと気にしないで頂戴。イノリちゃんはこの一か月頑張り過ぎてる位だったんだもの、もっとお休みするべきだわ。とりあえずまとまったお休みを取って、その後は週に2回はきちんとお休みを取るようにしましょ」


お店のことは気にしないで!と念押しされ、何と1週間もお休みをいただいてしまった。

その後のお休みは在庫とか依頼の状況で好きな時に取っていいことになったけれど、

「必ず二日は取るのよ!」

と念押しされてしまったので、とりあえず何もなければ週末に二日まとめて取るという事で話が落ち着いた。


今からお休みにはなったけれど、またふらふらしたら大変なので、お店をチヨさんに変わってもらって、奥で暫く休ませてもらうことになった。

その間、チヨさんが持ってきてくれたお菓子を食べたり香茶を飲んだりしながら回復を待つことにする。


「…お休みは嬉しいけど、何して過ごそう?」

頬杖をついて向かい側に座るクロカゲに話しかけると、彼は不思議そうな顔をした。

「そんなに悩むことか?好きなことするのが休みだろ」

「それはそうなんだけど…。いざお休み!ってなると、何をすればいいのか思いつかなくて…」

言い淀みながら空になった手元のティーカップをもてあそぶ。


不思議なもので、お仕事をしているときは、次のお休みにはあれをしよう、これをしようって色々考えるんだけど、いざお休み!となると、どうしようか迷ってしまうことが多い。

それで結局、休日をぼーっと過ごしてしまったり。

そういえば、長期勤務のあとにやってきたお休みって、いつもこんな感じだった気がする。

加えて、今一番熱を入れていた魔力調合は禁止となると、一気に手持ち無沙汰な気分だ。


彼は考える素振りを見せ、香茶を一口飲んでから口を開いた。

「魔力を回復させるにはをかけるのと、食べ物から摂るのが一般的な方法だろ?だったら魔力調合さえしなければ何をしててもいいんだし、町で魔力の補給効率がいい食べ物探して、料理して食べたらいいんじゃねーか?町もゆっくり見て回れるし、いい気分転換と時間つぶしにはなると思うぜ」

「それだ!クロカゲ天才!」

いきなり出てきた名案に、私は一も二もなく飛びついた。


言われてみれば、今までは調合にかまけて町も最低限の施設しか利用していなかったし、あまり奥の方へは行ったこともなかった。

自分の暮らしている町だし、いい機会だから隅々までじっくり見て回りたい。


「たーだーし!」

早速町に繰り出そうと立ち上がりかけた私に、クロカゲが指を突き付ける。

「今日はこのまま帰って明日から!普通にしてるだけの魔力も危ういだろ」

「…はぁい」


…しっかりと釘を刺されてしまった私は、しょんぼりと椅子に座り直した。

ブックマークしてくださった方がいらっしゃいました!

本当にありがとうございます!!

これからものんびりお付き合いいただければ嬉しいですー♪


おまけの会話内容は完全にその場のノリで書いています。

自由に会話させていけるのがとても楽しいです。

今回のおまけは書きたい内容が二つあったんですが、全然違う内容だったので上手く繋がらず…お蔵入りさんの方は作業工程の話をしてました。


…おまけ そのじゅうご…

◼️調合物紹介◼️


◯魔除けのポプリ◯

魔物の嫌う薬草や鉱石などを加工して詰めた小さな匂い袋。

持っていると弱い魔物は寄って来なくなる。

街道沿いや街の近くの林などは、これを持っていれば安心して探索ができるだろう。

ただし、好戦的な魔物の多い中級以上には効果が無いため注意が必要。


イノリ:これもお店の売れ筋の一つで、色んな種類の薬草や砕いた鉱石をじっくり煮詰めて、乾かしてから袋に詰めた物だよ。二、三ヶ月くらいで効果が切れちゃうから、使用期限を後ろに書いておくようにしてあるんだ。


クロカゲ:魔物が嫌いな匂いなんてあるんだなー。でもおれは別に何ともなかったぜ?普通に薬草っぽい匂いがする匂い袋って感じだな。


イノリ:あ、そういえばそうだよね。…つまり、魔物と妖魔は全然違う存在ってことかー。


クロカゲ:元々の発生源が違うんだろうな、きっと。まぁ、俺も難しい事はよく分かんねーんだけど。


イノリ:そうなの?クロカゲ妖魔なのに。


クロカゲ:人の噂がカタチになったとか言われてるけど、確かめたことなんて無いしなー。ほら、姉貴だって自分がどうやって器になったのかなんて分かんねーだろ?


イノリ:確かに。そう言われると、人間だって、どう生まれたのかも曖昧だよね。うーん、そう言われると難しいかも…。


クロカゲ:難しい事考えても何かが変わるわけじゃねーし、気楽にいこうぜ。今考えても分かんねーことは考えるだけ時間の無駄だし。それ位なら楽しいことしてた方がよっぽど有意義だろ?


イノリ:クロカゲはさっぱりしてるなぁ(笑)


クロカゲ:でも間違ってないだろ?(笑)姉貴は真面目過ぎるところがあるからなー。


イノリ:うーん…そうかなぁ…。でもそうだね、私ももっと気楽に考えていこうかな。


クロカゲ:おう。もっと楽しんでいこーぜ!


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