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調合士としての第一歩。

結果から言うと、軟膏は飛ぶように売れた。

看板を見て開店一番に入ってきた農家の奥さんがテスターに感動して二つ買って行ってくれて、それをご近所さんに紹介してくれたらしく、そのあとから少しずつお客さんが増えた。

小さな町のうわさ話はまさしく音速。

あっという間に広まって、軟膏はすぐに売り切れ。

私が作っておいた軟膏も直ぐに在庫がなくなり、私はゼンさんのお店、家、チヨさんのお店を何往復もすることになった。


凄く忙しくて目が回りそうだったけれど、沢山の人が吃驚したり、嬉しそうにしながらテスターを試してくれる姿を見るのは凄く嬉しかったし、話したことのない町の人とも沢山お話ができて、私の名前を覚えてくれた人も沢山いて、少しだけど町に馴染んで来たのかな?って感じがした。

嬉しい悲鳴っていうのはきっといういう事を言うんだなぁ…!



夕方。

最後に作った軟膏をお店に持ってきて、私は薬局の奥にある休憩スペースでようやく一息つくことができた。

お店も落ち着いてきたところでチヨさんが香茶を淹れて来てくれる。

「イノリちゃんお疲れ様。今日は本当にありがとうね」

「こちらこそありがとうございます。チヨさんも私が居ない間の対応とか、予約とか、本当に助かりました」


そう。

軟膏が欲しい!と言う人が多すぎて生産が全然追い付かなくなってしまって、機転を利かせたチヨさんが予約制度を提案してくれたのだ。

しかも、さっき持ってきた分でやっと予約の半分と言われたから本当にびっくりしている。


「いいのよ。あれ位どうってことないわ。クロカゲ君もレジを凄く頑張ってくれたのよ。全部一人でやってくれて、本当に助かったわ」

チヨさんがレジの方向を見つつニコニコと笑った。

「クロカゲも頑張ってくれてましたよね。今日上手くいったのは本当にみんなのおかげです」

クロカゲも最初の人見知りがあったから少し心配していたけれど、お会計を一生懸命にやってくれていて、お陰でお店が混雑することも少なくて凄く助かった。

私も後で沢山お礼を言わなくちゃ!


やっと閉店の時間になり、クロカゲも戻ってきて、3人でテーブルを囲んでチヨさんの用意してくれた夕飯をご馳走になった。

メニューはお肉やお野菜がごろごろ入った具沢山のカレーライスに、ツナがたっぷり乗った葉物野菜とトマトのサラダ。

それからベリーソース入りのヨーグルトドリンク。


具材の多い大きいカレーが食べ応え抜群!

辛めの味付けが疲れを吹き飛ばしてくれて、辛くなった口の中をまろやかなヨーグルトドリンクで緩和して、さっぱりしたサラダで箸休め。

みんなで今日の頑張りを労い合って食べた夕飯は最高に美味しかった。


そうそう。このメニューでお米があることが分かって吃驚したんだよね。

マスターの所ではパンしか食べたことがなかったから、てっきり何処も小麦が主食だと思っていたんだけれど、この町はお米も特産品になっていて、『つきひかり』って言うお米を作っているんだって。

ただ、ほかの地域では基本的に小麦の方が栽培が容易らしくて、普段食べるならパンの方が安いし普及しているみたい。

それでもお米があるっていう事が分かっただけでも大満足だ。

私はお米大好き人間だったから、この情報は凄くありがたい。

これからは週に二日とかでいいからお米料理を食べる日を作りたいな。


「しばらくは軟膏の納品で忙しくなると思うけれど宜しくね」

食後の香茶を飲みながらチヨさんが申し訳なさそうにそう言った。

「いえいえ、そんな!寧ろ私がお願いしたことですから。こちらこそこれからも宜しくお願いします」

寧ろ感謝でいっぱいなので、私が頭を下げるとチヨさんが嬉しそうに笑った。

「ありがとうね。こんなに可愛い調合士さんと一緒にお店が出来るなんて嬉しいわ。クロカゲ君と3人で一緒にお店、頑張りましょうね」

「はい!」

「おう」


ーーーこうして、私はチヨさんのお店で調合士としての第一歩を踏み出した。


今回は区切りの関係で本編が少し短めですみません…!

その代わりといっては何ですがおまけ長めです。

お時間のある方は是非どうぞ!


…おまけ そのじゅういち…

◼️町について◼️


◯シオリタ◯

柊が治める地域の端にある山間の小さな町。

冬が長いので、木を削って作る伝統工芸が発達していて、現在も杖や食器などを作る工房が幾つもある。

昔は飾り彫りの木の栞が特産品だったため、町の名前にも入っている。

その他には田畑が多く、野菜や果物の栽培も盛んで、稲作を行なっている数少ない地域の一つ。

『つきひかり』という種類のお米を作って出荷している。


イノリ:私たちの住んでいる町だよ。町といっても、限りなく村に近い規模なんだって。交易路の最後の町で、しかも隣町までの距離がかなりあるから、行商人さんが持ってくるもののお値段はちょっと高めになるみたい。

でも酪農はかなり発達してるから、普段食べるものには困らないし、雑貨とかも…ほら、ゼンさんのお店があるからね。


クロカゲ:ゼンの店は本当に謎だよな。規模的に欲しいものを全部扱うなんて無理そうなのに、取扱はないかって聞いてみると店の奥からなんでも出してくるだろ?無限の地下施設でも広がってるのか?


イノリ:ね!私も地下に部屋があるのかなって思ってたんだけど、それにしては取ってくるの早すぎない?ちょっとそこまで。みたいなスピードだよあれは…。


クロカゲ:そんなに待たされないもんな。実はゼンの足がめっちゃ速いとか?


イノリ:ゼンさんの年齢って70歳は超えてそうだし、そんなに足が速いかって言われると微妙だよねぇ…不思議すぎる。シオリタ七不思議とかあったら真っ先に入ってそう。


クロカゲ:確かにな(笑)そう言えば姉貴、米好きなんだろ?チヨの家で食った時に美味かったからおれもまた食いたい。


イノリ:そうなの!ここにはないと思ってたからもう嬉しくてうれしくて…!パンより高めだから毎日って訳にはいかないけど、週に何回かはご飯食べたいよね。


クロカゲ:米ってどんな料理があるんだ?


イノリ:主食だからおかずが変わる感じかな。この前のハンバーグをご飯と食べても美味しいし。あとはおにぎりって言って、こんな感じに三角形に握って、携帯食にもなるんだよ。中に具が入ってるの。おかずも付けるとお弁当箱って言い方になるかな。遠出する時とかに作って持って行ってみよっか!


クロカゲ:めっちゃ美味そう!外でも美味い物が食えるなんて最高だな!


イノリ:いつも買い出ししてから帰って来て遅めのお昼だけど、お弁当持っていって、町の公園とかで食べても楽しそうだね。


クロカゲ:それいいな!今度早速やってみようぜ!そしたら町の買い出しもゆっくり出来るし。


イノリ:ごめんね、いつも割と駆け足だもんねぇ…クロカゲもたまにはゆっくりしたいよね。


クロカゲ:おれは平気だけど、姉貴結構疲れてるんじゃないか?魔力調合してる訳だし。たまにはのんびりしようぜ。あんまり無理すんなよ。


イノリ:うん、ありがとう。たまにはお弁当食べてのんびりして帰る日があってもいいよね!


クロカゲ:おう。適度に息抜きしていこーぜ!


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