魔法のお薬、はじめました。
「出来たー!クロカゲありがとう!」
思わずクロカゲとハイタッチ。
「おう!旨そうだな!」
クロカゲも初めて作った料理が楽しかったのか凄く嬉しそうだ。
あったかいうちにテーブルに運ぶ。
パンを暖炉で温めて香茶を淹れると、テーブルに着いて手を合わせた。
「「いただきます」」
ハンバーグを一口食べたクロカゲが目を輝かせる。
「めっちゃ美味い!」
それを微笑ましく眺めながら私もハンバーグへナイフを入れる。
溢れだす肉汁に成功を確信しつつ、切り分けた物を一口。
「うん、美味しい!」
表面は焦げ目が付いていて香ばしくて、噛むとじゅわっと肉の旨味が溢れてくる。
沢山使った玉ねぎはミキサーで細かくしたうえで良く炒めたので野菜感は全くなくて、寧ろお肉を柔らかく、よりジューシーにしてくれている。
ソースは簡易版のデミグラスソースだけれど、ワインのコクとお砂糖の少しの甘みがプラスされてちょっと高級感がある感じだ。
そこに入っているマッシュルームも味が良くしみ込んでいて、噛むと口の中に美味しさが広がる。
箸休めに付け合わせの塩ゆで野菜を食べて、パンを食べて、またハンバーグ…何て素敵な永久機関!
「はー、美味かった。本当、姉貴の言う通りだったな。これは今まで食べた肉料理の中で一番だ」
あっという間に食べ切ったクロカゲが満足そうに笑う。
「良かった。きっとね、クロカゲも一緒に作ったからより美味しく感じたんだと思うよ。あ、そうだ。ナツメグどうだった?どっちが好き?」
ハンバーグ二つを食べ比べての感想が気になっていたので聞いてみる。
クロカゲはうーん、と少し悩んでから頷いた。
「ナツメグなしの方だな。シンプルに肉の旨味が分かっておれはそっちの方が好きだ。姉貴がいうように、自分で作った方だからかもしれないけどさ」
「なるほどね。自分で作るとちょっと愛着が沸くって言うか、特別に感じるよね」
「ああ、不思議だよな。たったそれだけで違って見えるって。勿論、ナツメグ入りの方も上手かったぜ。そっちは肉の風味が緩和されてて、ちょっとまろやかっつーか、そんな感じで」
「分かるわかる。ナツメグ無しの方はお肉感が凄くあって、ナツメグ入りの方はまろやかな風味があるよね。どっちも美味しい!」
クロカゲの言うように、ナツメグ無しの方はお肉の風味が強くて肉料理!って感じ。
逆にお肉の風味があんまり得意じゃない人は、ナツメグ入りの方がお肉独特の風味が緩和されていて食べやすいんじゃないかなーと思う。
その後はクロカゲがお片付けも手伝ってくれて、二人で他愛ないことを話しながら一緒に洗いものをした。
何かいいなぁ、こういうの。
私は姉妹だったから弟は居なかったけれど、もし居たらこんな感じだったんだろうか。
明日の準備をして、お休みを言いあってから布団に入る。
明日はチヨさんのお店で軟膏が売り出される日だ。
もしお客さんに何か訊かれてもいいように、私とクロカゲも開店時間の少し前にお店に行くことになっている。
お客さんはどんな反応だろう?
買ってくれるかな。
気に入ってもらえるかな。
遠足の前の日のような高揚感で中々眠れないかなと思っていたけれど、色んな事を取り留めもなく考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちた。
翌朝。
早起きして、念のため追加でフェアリ軟膏を前回よりも少し多めに作る。
もし今日の売れ行きが良かったら、すぐ補充出来るようにするためだ。
詰め替え用の容器はもう在庫がないので、とりあえず鍋のまま冷ましておくことにした。
チヨさんのお店に行った帰りにまたゼンさんのお店に寄ろう。
クロカゲと一緒にチヨさんのお店に行くと、お店の前に大きな看板が出ていた。
見出しは、『魔法のお薬、はじめました』。
看板には、軟膏やフェアリーフ、妖精のイラストや小物が飾り付けられていて、とても一晩で作ったとは思えないクオリティ!
可愛らしいポップに感動しつつお店へ入ると、ベルの音に気が付いたチヨさんがお店の奥から出てきた。
「二人ともおはよう。早くに来てもらって悪いわねぇ」
「いえいえ、私もお客さんの反応が気になりますし。表の看板、凄く可愛らしいです!ありがとうございます」
「いいのよ。ああいう作業って結構好きなの。それに新商品なんてワクワクするじゃない?一晩で作ったからそんなに凝ったりは出来なかったんだけれど、どうかしら?」
「とんでもない!あれだけ可愛い看板なら、お客さんも気になって見に来てくれますよ。売れるといいなぁ」
チヨさんも褒めてくれたし、私も最初に塗った時に良さそうな感じだったから物自体は悪くないと思うんだけれど、見慣れない魔力調合のお薬にどれくらい興味を持ってくれるかは未知の領域だ。
とりあえず、商品に興味を持ってくれたお客さんにはテスターとしてチヨさんに使ってもらった軟膏を塗ってもらいながら説明をすることになっている。
チヨさんが用意してくれた可愛い制服に着替えて、テスターの軟膏をポケットに入れて、準備万端で棚の横に立つ。
クロカゲはレジと品出しを手伝ってくれることになっているので、カウンターの椅子に座った。
「それじゃあ、開店するわね」
そういってチヨさんがお店のカーテンを開ける。
「はい、お願いします」
窓から差し込む朝の日差しを眩しく感じつつ、私は気合を入れた。
ブックマークしてくださった方が2名いらっしゃいました!!本当にありがとうございますー♪
いくらなんでもハンバーグ作るのをのんびり書きすぎてたかな…って心配だったので凄く嬉しいです!!
これからものんびりご飯作ったり、食べたり、お薬作ったりしていく日常を書いて行きたいと思います。
…おまけ そのじゅう…
◼️お料理紹介◼️
◯ハンバーグ◯
微塵切りにした玉ねぎを飴色になるまで油でよく炒める。
早く飴色にしたい時には少し塩を入れると効果的。
ボールに挽き肉、パン粉、塩少々、ナツメグ、冷ました飴色玉ねぎを入れて全体が馴染むまでよく混ぜる。
1人分を手に取り、両手でキャッチボールをするようにして中の空気を抜く。
小判型に成形してフライパンに入れ、真ん中を少し凹ませる。
中火で焼き目をつけてひっくり返し、蓋をして弱火で中に火が通るまでじっくりと焼く。
心配な時は竹串で真ん中に穴を開け、透明な汁が出てくれば大丈夫。
お皿に盛り付け、同じフライパンに赤ワイン、トマトケチャップ、ウスターソース、砂糖少々を入れて煮詰めソースを作る。
ハンバーグにソースをかけて、茹でた野菜を添えたら出来上がり。
クロカゲ:ハンバーグめっちゃ美味かった!また作ろうぜ!
イノリ:うん!2人でお料理すごく楽しかったし、また作ろうね。次はコーンスープも付けよっか。ハンバーグとかステーキとかのお肉料理とよく一緒に出てくるから、きっとクロカゲも気にいると思うよ!
クロカゲ:なんか美味そうだな!あと、もしあったらデザートも何か食いたい。
イノリ:クロカゲは甘いものも好きだよね。リンゴのコンポートあっという間になくなっちゃったし。
クロカゲ:美味いんだから仕方ないだろ。別のコンポートとか無いのか?
イノリ:うーん…もう少しあったかくなれば桃とか出てくるんだけど、今だとイチゴしかないもんね。あ、イチゴミルクなら作れるよ。
クロカゲ:どんなのなんだ?ミルクって飲み物なのか?
イノリ:練乳があれば軽く潰したいちごに練乳を混ぜて食べるのが美味しいんだけど、もし無かったらミルクとお砂糖とイチゴをミキサーにかけた飲み物になっちゃうかも。
クロカゲ:どっちも美味そうだからおれはどっちでもいいぜ。
イノリ:なんかどんどんクロカゲが食いしん坊キャラに…
クロカゲ:仕方ないだろ、姉貴の料理すげー美味いからな。それに、沢山食べて早くでかくなりたいんだよ、おれは。
イノリ:ありがと!でも食べ過ぎてお腹壊さないようにね。
クロカゲ:任せとけって!




