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同じやり取り?


「ところで、その子はイノリちゃんの弟?」

ナツメグの小瓶を袋に入れながらゼンさんは私の隣にいるクロカゲを見た。

「はい、クロカゲって言います。この間こっちに来たので、一緒に暮らし始めました。」

ここでも同じように用意しておいた受け答えをする。

「なるほど。クロカゲ君だね、宜しくね」

そしてやっぱりクロカゲはだんまりを決め込んでいて、私は苦笑するしかない。

「ごめんなさい、この子人見知りが激しくて」


あれ、このやり取り、チヨさんの所でもやった気がするな…。

…もしかして、今後ずっとこれをやらなくちゃいけないんじゃないだろうか。

人見知り設定にしても、もう少しフレンドリーに接してくれてもいいのに…。

何がクロカゲをそこまで頑なにさせるのか謎である。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ゼンさんはにっこり笑うと。

「イノリちゃんてさ、可愛いよね。僕があと50、いや40歳若かったらほっとかないんだけどねぇ」

と、突然とんでもないことをのたまった。


「…え!?」

クロカゲの人見知り問題に頭を悩ませていた私は、すごい勢いで現実に引き戻された。

紙袋を受け取ろうとカウンターに出していた手もいつの間にか握られていて、展開についていけずに固まるしかない。

一体どうしちゃったの、ゼンさん!


私がどう答えていいのか分からずに目を白黒させていると、横に居たクロカゲがその手をぱっと払ってゼンさんを睨む。

「おい、姉貴が困ってるだろ」

しかしゼンさんはその視線を軽く受け流して笑った。

「あぁ、ごめんごめん。冗談だよ、ジョーダン」

今度こそ紙袋を手渡してくれたのを受け取る。

「頼もしいね、さながら小さな騎士って感じかな?」

そう言ってゼンさんがクロカゲに笑いかけてくれているのを見て、場の空気を和ませてくれたのだと分かった。

「小さなって言うのは余計だ」

クロカゲがそう言うと、ゼンさんはくすりと笑う。

「これは失礼。これからも僕とうちの店を宜しく頼むよ、クロカゲ君」

「…おう」



ゼンさんにお礼を言って雑貨屋さんを出る。

ちょっと吃驚することもあったけれど、クロカゲとゼンさんも上手くやっていけそうだったので、とりあえずは一安心だ。

ハンバーグの材料はそろったので、あとはパン屋さんに寄ったら準備完了。


帰り道。

「クロカゲもこの町に馴染めそうで良かったよ」

隣を歩くクロカゲにそう言うと、彼は微妙そうな顔をした。

「馴染めそうっつーか、アイツらが勝手にぐいぐい来るっつーか…それに…」

「それに?」

言葉を濁したクロカゲが気になって顔を覗き込むと、彼はふい、とまた視線を逸らした。

「…いや、何でもねーよ」


朝と似たような話の流れだけれど、今はクロカゲの機嫌が悪そうに見えないので少し安心する。

もしかしたら、朝は緊張していたのかもしれない。

話はちょっと気になるけれど、クロカゲの雰囲気からそんなに心配するような事じゃなさそうだし、また話してくれるのを待とう。


「そう?何かあったら言ってね」

「ああ。それより早く帰ろーぜ。昼に殆ど食べてないから腹がやばい」

そう言えば、お昼はチヨさんとお茶した時に食べた軽食とお菓子だけだったっけ。

クロカゲの話を聞いて私も空腹を自覚する。

「あ、そうだよね。私もお腹結構空いてるかも。帰ったらすぐご飯にしよっか」

「おう。じゃ、早く行こうぜ。姉貴の荷物、ソレも寄越せよ」

そう言ってクロカゲは私の持っていたパンの袋も抱えたので、手元にあるのはナツメグの紙袋だけになってしまった。

「え、大丈夫?もう大分持ってもらってるのに…」

「これ位楽勝だって」

両手いっぱいに荷物を抱えたクロカゲは、しかし重そうな素振りもせずに笑って見せた。


子どもの姿をしてはいるけれど、やっぱり妖魔なんだなぁ。

口に出したらきっと怒られるから言わないけれど、やっぱりすごいなぁと思う。


「ほら、行くぞ」

「うん、ありがとう」

荷物を持ってもらったおかげで上り坂の多い帰り道も順調で、いつもよりも大分早く家に着くことが出来た。



帰宅して、クロカゲに改めてお礼を言いつつ香茶を淹れる。

休んでいてもらおうと思ったけれど、料理を作るのが気になると言われて、彼は休憩もそこそこに台所に着いてきた。

…おまけ そのはち…

◼️山小屋について◼️

町から30分ほど森の中を進んだところにある山小屋。

木造の平家で、暖炉のあるリビング、寝室、台所、お風呂、トイレ、書斎、物置がある。

周りを森に囲まれているが、山小屋付近は開けているので日当たりは良好。

山小屋の裏手を少し進んだところに泉があり、水はそこから引いている。


イノリ:マスターが1人で暮らすために建てたのか、寝室が一つでベッドも一つだからクロカゲは今はリビングのソファで寝てるんだよね…。ごめんね。


クロカゲ:別におれはソファでも全然いいけどなー。かなりふかふかしてるから寝心地もそんな悪くねーし。


イノリ:そう?でも寝返りとかさ、出来ないじゃない?掛けてるのだって私の持ってきたブランケットだし…。近いうちにベッド買いに行こうね!


クロカゲ:でもソレ何処置くんだよ?もう部屋余ってねーぞ。物置は流石に嫌だからな。なんかゴチャゴチャしてたし。


イノリ:まさか。物置に何て寝かせないよ!寝室まだ余裕あるし、ベッドもう一つ位全然入るから大丈夫。


クロカゲ:…おいおい。まさか姉貴と同じ部屋なのか?


イノリ:え、駄目?大丈夫、衝立か何か買ってくるし、煩くしないから心配しないで!


クロカゲ:いや、何でおれが気遣われてるんだよ…。


イノリ:え、クロカゲも同室は流石に落ち着かないのかなーって。


クロカゲ:おれの事何だと思ってるんだ…。


イノリ:あ、別に子ども扱いしてる訳じゃないよ!立派な大人だからこそ自分の空間は必要かなと思って!


クロカゲ:分かったわかった。もう面倒臭いからそれでいこうぜ。おれも問題ない。


イノリ:良かった!直ぐ片付けるね。早めにベッド買いに行こう!


クロカゲ:(深い溜め息)

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