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銀の棒を使って。

帰宅後。

書斎へ行って、包みから銀の棒を取り出す。

今までお世話になっていた火搔き棒さんには申し訳ないけれど、元の持ち場に戻っていただいた。

最初から最後まで私の一身上の都合で申し訳ない。

これからも暖炉の方でよろしくお願いします。


材料を再び準備してもう一度調合を開始する。

鍋を火にかけて、先ほどと同じように薬草タンポポの根を刻んで煮詰めていく。

違うのは、銀の棒でかき混ぜている事くらいだけれど、今のところ目立った変化はなさそう。

トキワソウを入れ更に煮詰める。

そのあと、風車草の種の油分を少しずつ入れながらぐるぐると混ぜていると、小さな光の粒のようなものが幾つか、鍋からふわふわと立ち上って来た。


「え、何!?」

びっくりしてクロカゲを見ると。

「多分これが魔力反応なんじゃねぇか?おれも見るのは初めてだ」

そう言って彼は目元を和ませた。


「それはそうと、手、止まってるぞ」

「あ、いけない…!」

クロカゲに指摘されて、いつの間にか手が止まっていたことに気付く。

魔力反応が少なくなってしまったせいか、光の粒も少なくなってしまっていた。

慌てて動作を再開させると、光の粒が少しずつ増えて、またゆっくりと立ち上り始める。

「良かった…」

いつの間にか詰めていた息を言葉と共に吐き出した。


「でも今の、大丈夫かな…」

恐るおそる尋ねると、クロカゲは笑う。

「そんなすぐにどうこうって物でもねーだろ。ちゃんと反応はしてるんだし、心配すんな」

「うん、そうだよね。ありがとう」

ふわ、ふわ、と漂う光の粒を眺めながら鍋をゆっくりと混ぜていく。


「綺麗だね」

「そうだな」


私の言葉にクロカゲが頷いて、また鍋を見る。

しばらくの間、静かでゆったりとした時間が流れた。


そうして、鍋の中身が少なくなってくるにつれて、最初はトロッとしていた液体が段々と滑らかになってくる。

いつの間にか、色も乳白色に変わっていた。


「もういいかな」

火を止めて、判別薬品をひと垂らし。

もう一度ゆっくり混ぜると、微かに甘い匂いが漂って来た。

手を止めて、混ぜ棒に付いているものを手に塗ってみると、スッと広がって良く手に馴染む。

匂いを嗅いでみると、控えめな甘さの爽やかないい香りがする。


「これって…成功?」


目の前の完成品が今までとは明らかに違うことは分かるのだけれど、やっぱりなんとなく不安になってしまう。

しかしそんな私の不安を打ち消すようにクロカゲは笑った。


「この匂い、判別薬品が反応してる証拠だろ。調合成功だ。良かったな、姉貴」


「良かった…!」

あまりの感動でクロカゲを抱きしめる。

「おい姉貴…!?」

クロカゲが慌てて身じろぎしたが、私は構わず続ける。

「クロカゲありがとう!ちゃんと作れたのはクロカゲのお陰だよ!!」


正直なところ、失敗しても原因は分からないし、教えてくれる人も居ないしで、このままずっと調合が出来ないままなのかも…なんて思っていた。

だから、ちゃんとした物が出来たのは嬉しかったし、何よりすごく安心した。


私の心中を察したのか、クロカゲが背中に手を回してトントンと優しく叩いてくれる。

「調合を頑張ったのは姉貴だろ。お疲れ」

「うん…ありがとう」


子供の姿のクロカゲに慰められるなんて、側から見たら可笑しな光景に見えるかもしれないけれど、それでも今はこれでいい気がした。

…おまけ そのに…

◼️薬草紹介◼️


◯トキワソウ◯

先端がクルリと丸まった植物。

深い緑色をしている。

春から夏にかけて採取出来る。

秋、冬は採取できないが、収穫したものを乾燥させて保存できるため、調合の材料として困ることは殆どないだろう。

トキワソウの由来は、岩の苔の上に生えているからという説と、遥か昔から形が変わっていないからと言う二つの説がある。


クロカゲ:コレは軟膏の調合で使ったやつだな。

イノリ:うん、クロカゲを見つけた場所で採取できた薬草の一つだよ。確かに岩の上に生えてたなー。

クロカゲ:見た目が変わらないって、どれくらい長い間そのままなんだ?

イノリ:うーん…何千年とかかなぁ?

クロカゲ:流石にそんな長さだと確認のしようがないな。妖魔の中でもそんなに生きてる奴なんて殆ど居ないだろうし。

イノリ:…(中には生きてる妖魔も居るんだ…)

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