それぞれの事情。
そんなことを思い出しながら朝ごはんを作っていると、クロカゲに服の裾を引っ張られた。
「おい、姉貴。何か焦げ臭いぞ。焦げてないか、ソレ?」
「えっ…あ!」
言われて手元のフライパンに視線を落とすと、ベーコンが焦げ始めていた。
慌てて火を止めてお皿に移す。
うん、ギリギリ大丈夫そう。…焦げが多いほうは私が食べよう。
因みに、クロカゲが私のことを『姉貴』と呼んでいるのは、買い出しに行く時に関係性を聞かれたら面倒なので、姉弟という事にしようと私が提案した為である。
森で子どもを拾ったら妖魔だったんですけどとりあえず一緒に暮らし始めました。なんて言えないし…。
クロカゲ曰く、影踏鬼はかなり珍しい妖魔な上に、そもそも妖魔が人前に出てくる事自体がそんなにないし、妖魔によっては人に悪さをしたりする者も居るため、人間も妖魔を快く思っていないこともあるらしい。…これはもう隠しておく一択である。
クロカゲの角だって、前髪で隠れてるから普通にしていれば分からないし、誤魔化せると思う。
「て言うか、ホントに何にも知らねーんだな、姉貴って」
朝ごはんを食べながらクロカゲがそう溢す。
「うーん…やっぱりそう思う?一生懸命勉強してきたつもりなんだけど、まだ世間知らずな部類になるのかぁ…」
私の言い方が気になったのか、彼は不思議そうな顔をする。
「勉強?普通に生活してたら何となく分かるだろ。姉貴って幾つなんだ?」
言われて、はたと思い至る。
私の年齢って、一体幾つなんだろう。
この世界に生まれて一年どころか半年も経っていないから、実質0歳?
でも、この見た目で0歳なんて言えるはずも無いし、何よりこの見た目でそんなことを言うなんて違和感満載だ。
かと言って、前の世界での年齢を言うと、もう成人しているのに世間知らず。なんて思われちゃうよね…。
うーん…クロカゲの方が私の何倍もこの世界のことに詳しいし、事情を説明しがてら相談してみよう。
分からない時は聞くのが一番!!
「えっと、実はね…」
クロカゲにこれまでの経緯を話すと、彼は目を丸くした。
「マジかよ。器なんて正直おれと同じか、もっと珍しいんじゃないか?この世界に何人も居ないからな。それは何も知らねぇのも無理ないか。生まれたばっかりなんだからな」
とりあえず、何かあったらおれが分かる範囲で教えるから気にすることないんじゃないか?と言われて大人しく頷く。
少しは不思議がられるかなと思っていたから、かなりあっさりと理解してもらえて吃驚した。
「クロカゲ頭の回転早いなぁ。吃驚した」
感想をそのまま伝えると、彼は溜息を吐く。
「まったく。子ども扱いするなよな。少なくとも前の世界って所の姉貴よりも長生きだぜ、おれ」
「えぇ!?」
さらに吃驚発言をされて固まった。
だって、二十歳超えてたんだよ?
私よりもずっと小さいクロカゲをまじまじと見詰める。
マスターの件もあるけれど、もしかして生まれた時からずっとその姿なのかな?
成長したいけど、出来ないとか…?
そこまで考えて、昔を思い出して遠い目をするマスターを思い出した。
「おれも好きでこんな姿してる訳じゃねぇし…」
「え!?」
丁度容姿のことを考えていたので、心が読まれたのかと思って吃驚する。
「…いや、何でもねぇよ。それより部屋掃除するんだろ、さっさと始めようぜ」
クロカゲが態と話を逸らす。
気にはなったけれど、その瞳の奥に一瞬、不快な色が宿ったように見えたので、追求するのは止めておいた。
「そうしよっか。クロカゲもサボっちゃダメだよ」
私がそう言って椅子から立ち上がると、クロカゲは渋々頷いた。
「仕方ねぇなー…分かったよ。その代わり、家の中だけにしとけよな」
クロカゲは外を見つめながら嫌そうな顔。
「うんうん、分かってるよ。もし必要でも私がするから大丈夫」
「ああ、頼む」
そうして、私とクロカゲは部屋の掃除に取り掛かった。
出会った時もそうだけど、クロカゲが昼間に外に出たがらないのにはちゃんと理由があって、影踏鬼というのは、もともと夕方から夜にかけて出没するような妖魔で、陽の光が苦手なんだそうだ。
弱っている時だと陽に焼かれて消えてしまうことだってあるらしい。
つまり、今のクロカゲに陽の光はとても危険なものだと言うことになる。
昼間外に出られないのは退屈だと思うし、早く元気になるために、何か私に手伝えることがあったらいいのにな。
真面目に床を掃除してくれているクロカゲを見詰めながら、強くそう思った。
最近執筆時間があまり取れなかったこともあって書き溜め分がなくなってしまったので、ここからはかなり亀更新になりそうです…。
でもまだ書きたい所が沢山あるので、頑張って更新していきたいと思います!
ゆっくりにはなりますが、お付き合いいただけると大変嬉しいです。宜しくお願い致します。




