まさかの展開。
最初にお湯を沸かすんだけど、さっき沸かした分が残っているからそこは省略。
あと使うのは、お椀とスプーン、片栗粉とお砂糖。材料はこれだけ。
食べるときに熱いから、出来れば木とかプラスチックのスプーンの方が良いんだけど、家に金属のスプーンしかなかったのでそれを使う。
まずお椀に片栗粉を入れる。
お祖母ちゃんから教わったレシピだから量は適当なんだけど、このお椀は大きめだからとりあえず大さじ2杯くらい。
次にお砂糖を加える。甘さはお好みだけど、大体大さじ3杯くらい。
そこに熱湯をお椀8分目まで注ぎながらスプーンで素早くかき混ぜる。
集中して10秒位ぐるぐるやっていると、片栗粉の効果でとろっとしてきて、最終的にはぷるぷるした半透明のゼリーのようになるのだ。
葛湯と言って、私が風邪をひいた時にお祖母ちゃんが良く作ってくれた。
あったかくて甘くて、喉越しもいいから具合が悪くても食べやすいんだよね。
しかも、水分と糖分と炭水化物が一気にとれる優れものだ。
体も温まるし、弱っているときのエネルギー補給にはぴったりのお料理だと思う。
ただ、長い間放っておくと水に戻っちゃうから、そこだけ注意しないといけないんだけどね。
早速出来立てを持っていく。
「出来たよ。ほら、食べられる?」
少年を起こして葛湯を1さじ掬って口の近くまで持っていく。
怒られるかな。と思ったけれど、彼は大人しくそれを食べてくれた。
「…甘い。何だ、コレ?」
「葛湯っていうの。体も温まるし、食べやすいでしょ?」
「・・・ああ。もっとくれ」
「はい、どうぞ」
本人はまた子ども扱いするなって怒るかもしれないけど、こうして大人しく食べてくれる姿を見ると微笑ましくなる。
お椀の葛湯がなくなる頃には顔色も大分よくなってきた。
「気分、どう?」
食器を片付けて来てから、再びソファの隣に座り込む。
「大分マシになった。…さっきは悪かったな」
バツが悪そうな顔をして彼が呟くように言う。
私が吃驚していると、彼は続けた。
「助けてもらったのに怒鳴ったりして。あの時は気が立ってたんだ」
そう話す彼は随分と落ち着いているように見える。
事情を訊くのは今しかないと思い、私は口を開いた。
「どうしてあんな森の中に…?そう言えば、名前も聞いてなかったよね。私はイノリ。あなたは?」
「あー…色々あってあの森に飛ばされたんだ。因みにお前の言う名前みたいなもんはおれにはない」
飛ばされたくだりを話す彼が物凄く不機嫌そうだったので、あまり踏み入ってはいけないような気がして、その件について口を挟むのはやめておいた。
「名前がないっていうのはどういう事…?」
当惑する私に彼は、本当に気付かなかったのか?と言って、前髪を手で除ける。
そこには、小さいけれど角のような物が生えていた。
「おれは影踏鬼。妖魔だ」
ニヤリと笑ってそういう姿は、確かに少年とはかけ離れていて。
吃驚して二の句が告げない私に、彼は追い打ちをかけてきた。
「今更出てけとか言うなよ。そういう訳だから、これから宜しく頼むぜ。イノリ」
私、もしかして・・・否もしかしなくても、とんでもない拾いものをしてしまったかも知れません。




