私のはじめての術式。
次の日は家の本棚にある本を一通りチェックして、何があるのかを確認してみた。
マスターが言った通り、初歩的な術式の本や、今の私にはまだ難しそうな内容の術式の本、植物図鑑に、鉱物図鑑、簡単な薬の調合書とか、お料理の本もあった。
あとは分厚い辞書とか、物語のような本もあったけれど、とりあえず私のお目当ては初歩的な術式の本なので、一冊引き抜いて読み進めることにした。
優先して覚えるべきはやはり、暖炉の火を簡単に点けられる様にする術式である。
暖炉前のテーブルに香茶を淹れてきて、昨日お菓子屋さんで買ったクッキーを添えたら準備万端。
もし雨が降って小枝や枯れ草が湿ったりしたら大変なので、出来るだけ早く習得したい。
「よーし、頑張ろう!」
自分に気合を入れて本に目を落とす。
…取り敢えず最初は目次からかな。
マスターは、術式はいくつも組み合わせて使うものって言っていたし、折角だから暖炉に効率よく火をつける術式にしたい。
初歩とはいえ、広辞苑並みの厚さの本のページをめくって、関係ありそうなものをメモしていく。
町で紙とペンを買っておいて良かったー…。
「うーん、これくらいでいいかな」
数時間後。本にあらかた目を通し終わったので、私はペンを置いて伸びをした。
必要そうな所は片っ端からメモを取ったし、あとは上手く組み合わせられるかどうかだ。
メモした紙に目を落とす。
炎を効率よく、且つ指定した場所に出せるようにしたいから、魔力を狭い一点に集中させて術式を発動させる術式と、暖炉の薪の下に位置を指定する術式をメインで組みたい。
取り敢えず1番最初にメモした術式から組んで行って暖炉に向かって展開する。…が、暖炉の下に術式の魔法陣が幾つか展開したのが見えたものの、火は付かなかった。
術式には相性もあるらしいので、上手く出来そうもない時は似たような術式に変えたほうがいいこともあるとマスターが言っていたのを思いだす。
此処からはトライ&エラーだ。
ダメだった術式の組み合わせを書き込むと、最後のクッキーに手を伸ばして頬張って、香茶を一口。
糖分と魔力を補給した所で、次の組み合わせ候補を探すためにメモをじっくりと見詰めた。
「点火!」
私の声に呼応するように暖炉の下に術式が展開する。
赤々とした炎が立ち上ると、薪にも火がついたらしく、パチパチと薪がはぜる音が聞こえてきて、私は知らずに詰めていた息をゆるゆると吐きだした。
「やったー…!」
誰にともなく呟いて達成感を噛み締める。
試行錯誤を繰り返すこと数十回。
何とか相性の良い術式の組み合わせを見つけられて安心した。
途中で私は呪文で発動させる方が相性がいいことが分かって、そこからは早かったと思う。
一応呪文なしでも発動できるようには組んであるけれど、安定して展開させるには言葉に出した方が良いみたいだ。
椅子に深く腰掛けて、持ち上げたメモを改めて見る。
文字や記号だらけでぐちゃぐちゃになってしまったけれど、記念すべき初術式の成果物だと思うとなんだか誇らしい。
これは記念に取っておこう。
明日からは寒さの心配をしなくてもいいと思うと心が軽い。
薪の在庫だけ気をつけようと思いつつ、その日はゆっくり休めた。
 




