見知らぬ部屋で。
…前回のあらすじ…
会社帰りに知らない人に襲われた。怖い。
目を開ける。
木造の天井。
体を起こして、今の状況を確認する。
白いベッド、白いワンピース。
何だか周りが眩しく感じるのは、私が既に緊張しているからだろうか。
自分の胸に手を当てても、傷のようなものは見当たらない。
しかし、ただの夢で片付けるには全ての感覚が現実味を帯びていた。
だから、何となく分かってしまった。
私は助かったわけではないのだと。
私は少なくとも、あの時に一度死んでしまっているのだろう。
「目が覚めた?」
声をしたほうを見ると、男の人が立っていた。
私は固まる。
彼が白い髪に赤い瞳と言う見慣れない風貌だったからではない。
振り返ったときに一瞬見えた相手の容姿に、目の前の彼がそっくりだったからだ。
「・・・貴方が、私を殺したんですか・・・?」
声が上手く出なくて掠れていたのは、起き抜けに喋ったからと言う理由だけではないと思った。
あの時の恐怖は私の中でまだ生きていて、この人が私を殺したのだと告げていた。
私の発言を受けて、男の人は目を丸くする。
よく見てみると、彼はベッドに座っている私と目線がほとんど変わらない。
驚いている表情も手伝って、青年と言うよりは少年に近いように見えた。
しかしそれも一瞬のことで、直ぐに外見離れした余裕のある笑顔に変わる。
「へぇ、面白いことを訊くんだね。もし僕がそうだよって言ったら、君はどうするの?」
逆に質問されて、私は言葉に詰まった。
目の前にいる少年が私を殺した犯人だったとして、私は自分がどうするべきなのか分かっていなかった。
この少年に対する感情が自分の中で混乱していて、まだ上手く処理ができないでいる。
自分の中にある本能のようなものが、この人が殺したんだと告げている。
だから今、こんなにも目の前の少年が怖い。
しかし、現状を見てみると、今の私は全く怪我などをしていない。
私が眠っていた間は勿論、目を覚ました後も、この少年が私に対して危害を加えてくるような素振りもない。
そして、自分の中でもう一つ分かっていることがあって、それが私をより混乱させていた。
「・・・僕が誰か分かる?」
黙ったままの私に、少年は質問を重ねた。
唐突な質問に、私は応えることが出来る。
しかし、その言葉をそのまま口にしていいものなのか分からず、適当な言葉を捜す。
「・・・マスター」
私は言葉を選んで慎重に発言した。
私の応えに、少年―――マスターは安心したように笑った。
「よかった、ちゃんと出来てるみたいだね。器を創るのなんて初めてだから、失敗したらどうしようかと思った」
「ウツワ?」
「そう。どこまで記憶と感覚を引き継いでるのか僕には分からないけれど、君は今から器として生きていくんだ」
「・・・私は、以前の私ではないと言う事ですか?」
恐る恐る尋ねた。
答えてくれるか不安だったが、答えを聞くのも不安だった。
「君の言う以前というのが目が覚める前ということなら、答えは『そう』だね」
マスターは静かにそう告げた。
私は押し黙る。
そうだと言われる可能性のほうが高いと思っていた。
・・・でもいざ言われてみると、その言葉の意味が重すぎて受け止め切れなかった。