山小屋暮らし。
日の光がベッドに差し込んできた眩しさで目を覚ます。
季節は春だが、山国であるこの場所はまだ肌寒く、布団から起き上がるのにも気力が必要だ。
「寒い・・・」
誰にともなく呟きながら布団から起き上がる。
肌を刺す冷気に身体を縛られながら暖炉の方へ向かい、手を翳す。
が、何も起きない。
「・・・点火」
小さく声に出しながらもう一度手を翳すと、暖炉に術式が展開し、赤々とした炎が灯った。
初めて自分で組んだ術式だけれど、中々上手くできたと思う。
部屋が暖まるのを待ちながら身支度を整える。
暖炉の炎から少し離れた場所にある金網にパンを乗せ、その足で台所へ行く。
同じ要領でコンロ部分にも火を点け、卵とベーコンを焼いてお皿に移す。
端にサラダを盛り付けてから暖炉前の机に運んだ。
あとは適度に焦げ目がついたパンを金網から引き上げて、香茶を淹れれば朝ごはんの完成だ。
「いただきます」
香茶を一口飲んで窓の外を見る。
今日はいい天気になりそうだ。
この山小屋に来て今日で7日目。
手探りだしやる事も沢山有るけれど、とりあえずの目標も決まって、何とかやって行けそうな気がしてきている。
マスターの魔法陣でこの山小屋に飛ばされて、山小屋の設備の把握と食料品の買い出しで1日目は終わってしまった。
山小屋ーーー改め家にはベッドやキッチン、暖炉やお風呂など、必要最低限の設備はあったものの、食料品は向こうの家から持ってきた数日分のパンとチーズ位しか蓄えがないので、簡単に荷物整理をした後、マスターから貰った地図を頼りに町に行ってみることにした。
1番近い町は山を30分程降りたところにあって、貰ったお金で生活雑貨や野菜、お肉、果物を少しずつ買って帰ってきた。
私の見た目に何か言われるかなと少し警戒して、フード付きのケープを羽織って行ったんだけど、この世界には色んな髪や瞳の色の人達がいるようで、特に言及されることもなさそうだったので安心した。
家に帰って買ってきた物を整理する。
なんと、家の設備には冷蔵庫とかオーブンみたいな設備もあって、やっぱり術式で稼働させているみたいだった。
冷蔵庫は、最初開けた時は冷たくなかったから戸棚のようなものかなと思っていたんだけど、野菜や果物を入れて閉めると勝手に術式が展開して動き出したので吃驚した。
少し消耗した感覚があったから、多分私の魔力を使って動き出したんだと思う。
そのあと、部屋が寒いので温めるために暖炉に薪を入れて火をつけようとしたら、これがとても大変だった。
まだ暖炉にピンポイントで火をつける術式を知らないので、炎の魔法で何とかしようとしたら、どうやら私は炎の魔法が得意じゃないのかそもそも才能がないのか、マッチの炎より小さい火を数秒出しておくのが限界だったのでとても薪に直接火をつけられそうになくて…。
仕方がないので外から枯れ草や小枝を拾って来て、そこに何回も火を出して、小一時間かけて漸く薪まで火をつける事に成功した。
誰もこの喜びを分かち合える人が居ないので、一人で達成感を噛み締める。
日が暮れてから暖炉が消えてしまったら大変なことになるので、その後は寝るまでずっと薪をくべながら火の番人宜しく暖炉の前に陣取って過ごした。
スローライフ編、スタートです!
書きたい展開が大きく分けて3つあるんですが、そこまでの道のりが長そう…!!
のんびり書いていきたいと思いますので、お時間ある時にゆっくりお付き合いいただけるととても嬉しいです。




