外の世界への興味。
…前回のあらすじ…
一晩ぐっすり寝たら頭がリセットされた反動で、ものすごーく問題が起こりすぎていることを再認識した。
時間をかけて折り合いをつけていくしかないのかな…。
マスターに促されて食堂で朝食をとった後、この家の案内をしてもらった。
マスターは家って言っていたけれど、どちらかといえば館とか屋敷に近いと思う。
最初に間取り図を見せてもらったときは、部屋数が多すぎて大型旅館かと思ったくらいだ。
結構広くて迷うかもしれないと不安になったが、それは杞憂に終わった。
マスター曰く、マスターの部屋付近以外は使っていないらしく、そちらへ移動する扉には鍵がかけてあるので迷うことはないだろうとのこと。
「他の使っていない部屋はどうなっているんですか?」
「たまに人形に掃除させているから埃塗れにはなっていないけど、行っても見るものは無いと思うよ。もう読まない古い本を仕舞っていたり、使わないような施設の部屋だったり、空っぽに近い客室だったりだね」
「・・・そうなんですね。使わない施設って何ですか?」
「楽器部屋とか、遊戯室とか・・・実験室みたいなのもあったかな?あとは・・・拷問室とか?」
行き成り飛び出してきた不穏ワードに、私の背筋は寒くなった。
「え!?拷問室もあるんですか・・・?」
「歴代の持ち主で使っていた人が居たんだよ。何、祈興味あるの?」
にっこり笑ってマスターが首を傾げる。
その仕草だけなら容姿と相まってちょっと可愛いと思うけれど、内容は全然可愛くない。
一体何のために使っていたのか少しだけ気にはなったけれど、マスターの何か悪い勢いに油を注いでしまいそうな気配をひしひしと感じたので、私は首をぶんぶん振った。
「いいえ、全く!絶対に案内しないでくださいね」
「何だ、そうなんだね。分かったよ」
鷹揚に頷いて見せるマスターに、私は溜め息をついた。
「・・・はい、お願いします」
此処での生活が始まって暫く日が経ったある日。
私は自分の部屋の窓辺で溜め息を吐いた。
マスターは家の中の施設は好きに見て回って良いと言ってくれたので、最初のうちは書庫にある本を読んでみたり、庭に出て屋敷の周りをぐるっと回ってみたり、台所へ行ってドールと料理してみたり。
あとは少しだけだけれど、マスターが器としての魔力の使い方や術式のことも教えてくれた。
…といっても、私の中にある魔力では短剣くらいの大きさの武器か、身を守る小さな盾のようなもののどちらか一つしか出すことが出来ないし、しかも慣れていないので具現化するだけでも時間がかかってしまって、とても実践で使えるレベルにはなれなかった。
術式も、簡単な魔法陣を出現させて術式を発動させる所まではなんとか出来たけれど、今できるのは精々灯り代わりの小さな光の球を短時間出しておくくらい。
自分で練習するのも限界があるし、もっと色んなことを教わりたいのに、マスターは外出している事が多いので余り教えてもらう時間もなくて…。
最初は此処での生活に馴染むのに精一杯だったから特に気にならなかったけれど、そんな日々が続くと段々と手持ち無沙汰になってきた。
勿論、そんな気分になるのにはちゃんと理由があるのだ。
好きにしていいと言ってくれたマスターだったけれど、此処での生活で私は一つ、大きな制約を付けられていた。
それは、『家の敷地の外へ出てはいけない』と言うことだ。
この家(と言うか、もはや屋敷)の敷地は高い柵でぐるりと囲まれていて、大きな門はマスターの術式が無ければ開かないようになっているため、勝手に外出は出来ない。
部屋の窓から見える木々と草原、遠くに見える町並み。
それと、マスターからの話や書庫にある本の知識。それが今の私の全てだ。
それはこの世界の極々一部で、凄く限定的なものだって分かっているから、外の世界を見てみたいと思う。
マスターは時々門から出かけたりしているので、一緒に行きたいとお願いしてみたら、
「祈に外は危ないから、家でいい子にしていて」
と言われて、一緒に連れて行ってはもらえなかった。
マスターの見た目が子供だからか、子供扱いをされると何だか凄く複雑な気持ちになる。
何かこう、出来の悪いお姉ちゃんを嗜める弟、みたいな。
・・・正確には、我が侭を言う子供に言い聞かせる親なんだろうけど。
 




