いつもと違う夜。
走っていた。
私はひどく怯えていて、暗い路地裏をひたすら走っていた。
如何して私がどうしてわたしが。
後ろには大きな紅い鎌を持った誰かがいる。
焦って思考がまとまらない。
いつもと同じ会社帰り。いつもと同じ帰り道。
一つだけいつもと違ったことがあったとすれば、周りには誰も歩いていなかったこと位だった。
それでもここはそんなに大きくない町だから、そんなこともたまにはあるだろう。位に考えていた。
ぽつぽつと街頭が灯る直線の道を歩いていると、向かい側からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。
誰かを見つけた安心感と、誰なんだろうというちょっとした緊張感。
・・・しかし、その感情は直ぐに打ち砕かれて無くなることになる。
振って沸いた、と言う表現はこういう時にこそ使うのだと思った。
向かいの人物の手の辺りに、何もない場所から突然、真っ赤な鎌のようなものが現れたのだ。
距離のあるこちらからでもよく分かる大きさということは、相当大きいのだろう。
薄暗い中で、街頭の放つ僅かな光を受けてその刀身が光るのが見えた。
私は立ち止まる。
誰かは歩いてくる。
縮まる距離と、視界に二人しか居ないという状況が頭の中で処理されていく。
混乱が恐怖に変わるのにそう時間はかからなかった。
私は数歩後ずさる。
誰かは歩いてくる。
目を離すことさえ怖かったが、それでも逃げるために踵を返した。
ただ逃げるためにも勇気を必要とした。
それくらい、私は恐怖に支配されていた。
私は走り出す。
人気のある場所を求めて商店街のほうへ向かったが、閉店時間を過ぎているためかシャッターが下りているお店ばかりで誰も居ない。
曲がり角の多い路地裏に入る前に後ろを振り返ると、視界に赤いものが見えた。
―――追いかけてきてる!
それからは全力で走って、何度も角を曲がって、薄暗いのも手伝って今何処にいるのかすら分からなくなった。
しかし、どれだけ走っても相手を引き離している感じはしない。
寧ろだんだんと追いつかれている。
大きくなる足音。
どん、という大きな衝撃とともに、私の胸にあの大きくて紅い鎌が生えた。
声が出ない。
紅い鎌には私の血がべっとりとついているに、全然痛みが無い。
それが逆に怖い。
血液と一緒に、自分の大切な何かが奪われていく。
…死にたくない。
意識は暗転した。
設定で自分の首を絞めないように頑張りたいです。