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四話 パーティーのススメ その1

「リリア、あなたがここに呼ばれた理由は理解できるかい?」

「いいえ、全く」


 目の前の男性、ギルド室長の言葉にあたしはきっぱりと言い放つ。


 見た目の年齢は四十代くらい。控えめに言ってもハンサムなおじ様。

 ヘンダーソンさんとは違って髪の毛はまだ残っている。

 一見すると線が細く優男のように見えるが、身体付きはかなりしっかりしてる。

 まあ海千山千の冒険者をまとめるならこれくらいは当然か。

 身に纏っている燕尾服と紳士服を合わせたかのような、服装が凄く似合っていた。

 世のおじ様好きがほうっておかないでしょうねぇ……。

  

「そろそろパーティーを組んでくれ、と申し上げたはずなんだが……」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないですか。ただでさえ、シングルで受けて欲しい依頼が多いんですもの」


 あたしの返しにギルド長が頭を抱える。


 そう、パーティーについての話だった。

 当たり前の話だけど、冒険者ギルドでは冒険者がパーティーを組んでクエストを行う。

 クエストを達成したら報酬を仲間内で分け合うと言う構図だ。

 しかしさっきも言った通り、あたしはもっぱらシングル。

 つまり一人でクエストを行っている。

 これに対し不平、不満、不服は全く無かった。

 と言うのもあたしにはD・Eがあるおかげ。

 細かい情報の類はここから取り出して対処すればいい。 

 気が付けばシングル専用のクエストだけを受けるおかしな冒険者となってしまったが。


「しかし私は不安なのだ、リリアほどの実力者がパーティーを組まず単独で冒険していることに」

「別段、問題は無いじゃないのよ、ピンチになったことなんて全くないんだから」

「いいや、問題がありだ! 冒険者のパーティーは冒険の(パーティー)! 単独で動くリリアは壁の花! ですので私個人としてもう少しどうにかならないのかな、と思って……」

「お気遣いは嬉しいのですが、あたし個人としては誰とも組むつもりは……」

「だからダメなのだ!」


 突然、机を叩いて立ち上がるギルド長。

 顔を真っ赤にして華麗に跳躍をすると、顔をあたしの目と鼻の先まで突きつけてくる。


「単独で動くのはギルドとしてはとっても嬉しい!」

「嬉しいのなら良いと思いますけど……」

「ノンノンノン! それじゃあ冒険の醍醐味は味わえない! マグロで言えばトロを食べない!」

「脂っこいのが苦手と言う人もいるんじゃ……」

「モノの例えにそのツッコミ! やっぱり何も理解していない!」


 ギルド長が指を鳴らすとどこからとも無く現れるダンサーたち。

 ギルド長の背後に立つとまたもどこからとも無く音楽が流れる。

 イントロが流れるとギルド長がステップを踏み始めた。


「血沸き肉踊る! 夢躍る! 不可解なダンジョン、謎いっぱい!」

「フッ、フッ、フッ、フッ」

「ギスギス仲間、ダンジョンでOH!」

「ピンチに取りあう手と手、繋がる絆、これでお友達!」

「OH フレンズ!」

「財宝、財宝、ウハウハのモテモテ! これで生来は安泰さ!」


 歌詞は吐き気を催すほどいひどいのに、ダンスはキレッキレと言う落差。

 ギルド長……もしかしてミュージカルに憧れてるのかしら?

 ……て、このままで話が進まない! 思い切って声をあげてみることにした。 


「あの、ギルド長。盛り上がってるところ悪いんですけど……」

「なんだい、リリア」

「結局、なんでパーティーを組ませたがるんですか?」


 あたしの質問にギルド長が冷静さを取り戻したのか再び席へと着く。

 ダンサーたちはまだ用があるのかギルド長の後ろに立っていた。


「理由としてはやはりこのギルドの名声を高めたい、というのが正直な言葉だ。ランク3以上となるにはパーティーを組んで実績を積むことが必須だからね」

「はぁ……」


 当たり前の話だが冒険者ギルドはこの国だけではない。

 アカネの所にも、セルリアの所にも、どの国にもギルドは存在する。

 そして名声を高めたいというギルド長の話も理解できる。

 名声が高まれば、国や富豪といった人たちから支援を得られるのだから。


「しかしリリア、それとは別にあなたはどうも人付き合いが苦手な部分があるね」

「そうでしょうか?」

「現にあなたは一度もパーティーを組んだことがないじゃないか、それは下手をしたらあなたの名声や信頼にも影響を及ぼしかねないよ」

「パーティーを組めば名声が高まるとは思えませんけど……」

「いいや、意外と重要だ。協調性がないのは絶対に問題になるし、現にあなたはちゃんと依頼をこなしているのか? という疑問の声がチラホラ出てきているよ」

「ええ!? いったい誰が?」

「それは流石に……。守秘義務ですので……」

「うぐぐっ……」

「とにかくリリア。私もあなたを信頼したいんだけど、今回ばかりはパーティーを組んで依頼を受けてくれないか」

「……わかりました」

「では、一度受付まで行きましょう」


 ギルド長の部屋を出て受付の前まで行く。

 今日も今日でギルドは大盛況。人がごった返していた。


「この中で、リリアさんと組んでくれる人はいませんか!」


 まるで小学生かなにかのように大声を上げるギルド長。

 それと同時に心の奥底にある嫌な記憶が一気に噴出する。

 ああ、この感覚。まるで公開処刑をされている気分だわ。 


「はーい!」


 そして、ギルド長の言葉に受けるかのように手を上げる面々。

 顔はそこそこ知ってる奴から全く知らない人たちまで次々に挙手をする。

 ギルド長は実力があると評価してくれたけど、まさかここまでとは……。


「おお、こんなにもたくさん! では、プレゼンをお願いします」

「ではエントリーナンバー1! ホーミング野郎団!」


 やってきたのはスキンヘッドの戦士団。

 見た目から言ってかなりコワモテでマッチョな荒々しい集団だ。

 鉄の装備に身を包んで、無骨な雰囲気をかもし出している。


「我々、ホーミング野郎団はリリアの参入を歓迎するぜ!」

「あんたとの付き合いはそこそこだが、深い事情はこれから知っていけば良い!」

「ちなみに参入してくれるならこのランドセルを背負って――」


 全てを言う前にスキンヘッドの一人に一発、蹴りを入れる。

 それと同時に赤いランドセルが宙を舞った。


「何でランドセルを背負わなきゃいけないのよ!?」

「決まっている、我々はロリコンだからだ!」

「守備範囲は15歳以下さ! リリアは見た目が幼いので合格だよ!」

「却下よ、却下! 次!」



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「エントリーナンバー2! 紅の月見草」


 胸にバラをつけている謎のパーティー集団。

 周囲にいるのは全員イケメンだったり美女だったりする。

 あたしもそこそこだと思うがこういうところに放り込まれたら気後れしそうねぇ。


「我々紅の月見草は男女共に美しいパーティー!」

「その美貌でモンスターたちを仕留めてみないか? 性的な意味で」


 前言撤回、彼らもおかしなパーティーだったわ。


「性的な意味で仕留めてどうするのよ!?」

「決まっている愛好家を増やすのさ」

「ちなみにリリアにはこのマンゴロニアラフレシアがオススメだよ」


 そういって連れて来たのは赤と緑がまだらの花をつけている魔物だった。

 ダリとかピカソとかそういう系の人が描きそうな植物。

 それがウネウネと動いてブシューと花粉を飛ばしてくる。

 見ているだけでメンタルが歪んでくるわ。


「どうだい? 素敵だろ!? 彼は君のことを気に入ったみたいだけどどうする?」

「どうするも何もないでしょうが! 森に帰ってもらいなさい! 次!」



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「エントリーナンバー3! お笑いの伝道!」

「次へ行きましょう、次へ」

「そんな! パーティーの名前で判断するのは差別じゃないですか!」

「……あんたたちの姿をじっくり見てみなさい! ピエロにチンドン屋に手品師! どこからどうみても芸人でしょうが!」

「うーん、これでもそこそこ名が売れてるパーティーなのですがねぇ」

「どこに?」

「演芸場」

「完全にお笑い芸人じゃないのよ! 芸人なら芸を磨きなさい、芸を! 次!」



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「エントリーナンバー4……漆黒の――」

「……あんたたち、ロリコンでしょ?」


 あたしの一言にローブの男たち、もとい魔術師の集団が言葉を失う。

 見た目で人を判断するつもりは無いし、この言葉がひどい言葉だと言うのも理解してる。

 でもねぇ……雰囲気がねぇ……。


「違う! 僕たちは魔術師のパーティーであって前衛が普通に欲しいだけだ」

「ほほう、ならその手に持っているものは何?」


 彼らが手に持っている薄いピンクのスティック。

 ハートとか星とか宝石が散りばめられているいかにもなアレなスティックだ。


「プリティースティックです。これ持ってコケティッシュにお願いします」」

「却下よ! こんなスティックもって冒険に出ろ!? まるっきり馬鹿にしてるわけ!?」

「違います! これを着てウインクをしてくれれば良い! 出来ればポーズも!」」

「……ああ、もう! 次!]



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一通り、パーティーとの面談を行ったものの時間だけを無駄にしただけだった。

 出てくるパーティー全部が全部、一癖どころか七十二癖もある者ばかり。

 このギルドの内情が不安になってきた。


「それでお眼鏡に叶うパーティーに出会ったかい?」

「ギルド長、あたしが言うのもなんだけどこのギルドにまともな奴っているの!?」


 リックを初め、おかしな奴らの大名行列。

 この疑問を口にしないとあたしの頭はきっとやられるに違いない。

 それに対してのギルド長の態度が……。


「な、何を言う! リリア、それはこのギルドへの侮辱だぞ!」

「侮辱なのは謝りますけど、来る人のほとんどが奇人変人怪人のオンパレードじゃないの!」

「失礼な、今日はたまたまさ。たまたま」

「たまたまにしても問題が大有りよ! もしかしたら入ってくる依頼もろくなことが無いじゃないの?」

「なにぃ!? そんなことは絶対に無い! その証拠に我がギルドはかなりの精鋭が揃っている!」

「揃ってるって言って、中身が変人ばっかりじゃギルドの将来は真っ暗じゃないの!」

「とにかく! そんなことを言うのならあなたがパーティーのリーダーとして仲間を集めてみるんだ!」

「あ、あたしが!?」

「そうだ! さあ! さあさあさあさあ!」


 顔をずずい、と近づけてくるギルド長。

 売り言葉に買い言葉、こうなるとこっちとしてもやるしかない。

 退路は完全に塞がれたのだから。


「わ、わかりました! やれば良いんですよね、ギルド長!」

「ウム、頑張るんだぞ、リリア」


 あたしの発言にギルド長は顔を離す。押し切られる形で頷いてしまった。

 こりゃあ骨がおることになりそうだわ。と心の奥底で思うのだった。

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