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第1話 妻は錬金術師 ステラ その3

 二人は馬車を走らせ、禁採区へやってきた。


「……おお! これは凄いッス!」

「ああ。圧巻だ」

 

 二人は花が咲き乱れる広い花畑に圧倒された。

 ただ広いのではない。見渡す限り、様々な花が咲き乱れている。

 立て札には採取禁止の文字が大きく描かれていた。


「見て欲しいッス! 至高の薬草と名高い満月草ッス! ゼラニウムにアクアマリンフラワー! こんなのがちゃんと花になって咲いてるなんて驚きッス!」

「凄いな、禁採区と呼ばれるのも分かる」


 丸く黄色い花。満月草はエクスポーションの素材となる。

 瀕死の状態から回復する高級な薬のため希少価値も高い。 

 

 赤紫の花。ゼラニウムは元居た世界と同じように虫除けの効果がある花。

 虫の魔物にも有効であるため、これで魔物払いの薬を作ることもある。


 青い花。アクアマリンフラワーはそれ自体に効果はないものの、天然記念物に指定されている。

 さわやかで甘い香りは人々を和ませ、気持ちを楽にする効果があった。


「ところでお爺さんの花は……?」

「……ここにはないようだな」

「森の方にも道が続いてるッス!」

「行ってみよう」


 二人は森の中へと入っていく。

 木漏れ日の中、小さな光を浴びて光る花を見つけた。

 近づいてみると、植木鉢のと同じような花がいくつも咲いている。

 森の中に小さな群生を作っていた。だがどことなく元気がない。

 葉がしおれ、花が俯いている。このままでは枯れてしまいそうな様子だった。


「……ステラ」

「了解っす」


 持ち前のスペクタクルズを持ち出し、花をじっくり眺める。

 葉を、花弁を、そして地面を。


「……うん?」

「どうした?」

「なんか、地面の中に何かが埋まってるッス」

「地面の中? 掘り出せるか?」

「やってみるッス」


 馬車から小さなスコップを持ち出すとさっそく、地面を掘り進めるステラ。

 花を傷つけないように慎重にスコップを差し込み、地面を掘り進めていく。

 土をかき分け、根の先が腐食しているのを確認すると、一気に掘り進めた。

 そして出てきたのは黒と紫色をした大きなモグラだった。


「ドクモグラ!」

 

 地面の底に居座るモグラに二人は驚きの声を上げた。


 ドクモグラ。人体にも影響がある毒を振りまく動物である。

 大型犬ほどの大きさである上、性格は凶暴で貪欲。

 また縄張り意識も強く、よっぽどなことがない限り、その場所から離れようとはしない習性があった。


「これは枯れるわけッスよ」

「いったん他の人たちに相談しよう」


 ブライトとステラは禁採区の管理人に相談をする。

 しばらくすると役人たちがやってきた。何故か隣にはご隠居がいる。

 そしてドクモグラを見て、ご隠居がつぶやいた。


「なるほどのぉ、ここまで大きなモグラがいるはな」

「土壌を悪くする原因ッス。取り除かないとお花が全滅するッスよ」

「追い払おうにも奴の毒が危険じゃ。どうしたもんかのぉ」


 ドクモグラが持つ強力な毒度は危険だった。

 特に爪に仕込まれた毒は神経毒の一種で、下手をすれば一撃で人を死に至らしめる。

 また身体表面にも毒を持っているので、下手に触れると一週間以上、寝込むことになりかねない。


 しかしステラは態度を変えずこう言い放った。


「それなら持ってきて欲しいものがあるッス」

「持ってきて欲しいものとは?」

「これッス」


 ステラは役人たちに自前のリストを見せる。

 みんな首を傾げ、ステラをまじまじと見る。


「おいおい、こんなもの何に使うんだ?」

「それは……秘密ということで」


 何を作るのかわからないまま、いたずらっぽい笑みを浮かべるステラだった。


 ★


 町へ戻るとステラは空き家を一軒借り受けた。

 そして役人たちが集めた材料を机の上に並べる。

 彼らに用意してもらったものは主に金属だった。

 金だけでなく、青銅に錫石。そして若干の鉄鉱石だった。


「ほんじゃま、錬金術師の力。お見せするッスよ!」


 紙に様々な紋様を描き始める。そこからさらに魔術文字を無数に書き連ねた。

 これにより物質を構成させるのだ。

 そして材料を紙の上に乗せると呪文を唱え始める。


「万物を司る顏無き神よ、我が願い、我が道理をもってその型を為せ!」


 紙の上に置かれた金属が次々を分解され、一つの形になろうとする。

 固体は液体に、液体が気体に、気体が閃光となる。

 そして閃光は静かに納まり、一つの”何か”が生まれた。

 それを見届けたのち、ステラは深いため息をつく。  


「できたッス」

「これは?」


 紙の上に生まれたのは手で持てる小さな鐘だった。

 金や黒が入り混じった不思議なマダラ模様をしている。


「通称、モグラ叩き起こし装置ッス。これでモグラを叩き起こしてどっかにって貰うッス」

「だが、そう簡単にいくかな?」

「さぁ? 自分はそこまで考えてるわけじゃないッスから」


 ブライトの言葉を軽く流しているステラだったが、言いたいことは理解している。

 モグラが大人しくどこかに行く保証があるわけではない。ということだった。

 獰猛なドクモグラが叩き起こされてただで済むことではない。


「……場合によってはあのモグラの命を奪うのも視野に入れるぞ」

「……了解ッス」

「……娘たちに会うのに綺麗な手でありたい、と思ってるのか?」

「ちょっとだけ、ッス。むやみやたらと命を奪うなと教えた以上、ちゃんと守りたいだけかもしれないッス。……肉を食ったりいろいろしている身としては何を綺麗事を、と言われるのも目に見えてるッスけどね」


 母として、シャニーとレインに色々なことを教えてきた。


 咲いている花を無理に毟ってはいけない。

 動物を必要もないのにやたらと虐めたり殺してはいけない。

 人に悪意を持って接してはいけない。


 少なくとも思いやりがある子へと育ててきたつもりだ。

 しかし自分が教えたことを自分が破るわけにはいかない。

 そうでなくては自分は母親の資格がない、とステラは心のどこかで思っていた。


「ステラ」

「ぶ、ブライトさん」


 後ろからそっとブライトが抱きしめた。

 突然のことにステラはドギマギしてしまう。

 自分が錬金術の準備をしている間、野草の移動を手伝っていたのか、優しい花の匂いがする。


「心苦しいのは分かる、だからこうさせてくれ。今の私にはこれしかできないのだから」

「……ありがとう、私の旦那様」

 

 そのままブライトの腕に手を置き、彼の体温を感じ取っていた。


 ★


「さて、と……準備は良いっすか?」

「はじめとくれ」

 

 ステラがベルを鳴らすとモグラが身体を震わせている。

 綺麗な鈴の音ではなく、ジャラジャラとしたけたたましい音をさせている。

 何度も鳴らすうちに音が嫌なのか、さらに奥へを入っていく。

 それでもなおさらにベルを鳴らし続ける。なおも我慢をするモグラ。

 だが、ついに我慢を限界を超え、ステラの方に向かってきた。


「きゃあ!」

「ステラ!」

 

 とっさに魔法障壁を貼ってドクモグラからかばう。

 突然現れた壁に、ドクモグラがもがいている。


「大丈夫か?」

「え、ええ……あの……」

「分かっている。ここから離れされる」

 

 すぐさまステラを抱き上げると指定された方角へ走っていくブライト。

 その間、ひたすらベルを鳴らし続けモグラをおびき寄せるステラ。

 モグラの方は完全に怒りで我を失い、ひたすら二人を追いかけていく。

 荒地までくるとベルを鳴らすの止め、懐に持っていた試験管を一本取りだした。


「もう二度とあそこには来ないで欲しいッス!」


 叫びとともにモグラへと試験管を投げつけた。

 試験官が割れ、中の液体がモグラに降りかかる。

 突然のことモグラが地面を大きくのたうち回った。

 そしてそのまま荒野の地面、奥深くへと引きこもっていく。


「ふぅ、これで良しっと」

「何を投げつけたんだ?」

「モグラが嫌がる臭いッス、水で取らないと簡単には取れないッスよ」

「いつの間に……」

「役人さんたちが材料を集めてる合間に、ッス」

「そうか……」


 ブライトが静かにほほ笑む。事の終わったことに二人は頷いた。


 ★


「ありがとう、あなた方のおかげで花の絶滅が防がれました」

「そうですか」

「あのドクモグラの毒はあのお花の蜜を混ぜて、辺りに撒いておくとモグラが来ないようになるッス」

「ああ、わかった。やっておくことにする」


 初めて会った時は無礼な感じの役人だったが、気が付けば態度は完全に軟化している。

 それだけあの花に関して何かが思い入れがあったのだろう。

 最後にどうしても聞きたかったことをステラは聞いてみることにした。


「前から聞きたかったんスけど、あのご隠居はいったい何者だったんスか?」

「あの方はこの町の前町長です」

「ええ!? そうだったんスか?」

「あのとき喧嘩を止めてもらったお礼を言いたかったのですが、今はどちらに?」

「今は茶飲み友達の所へ行ったそうです、あの山にいらっしゃるので帰るのは遅くなりそうです」


 指示した先は種を貰ったおじいさんが住むあの山だった。

 つまりあの老人とご隠居は友人同士だったのだ。


「ええ!?」

「意外なつながりはあるんですね。さて、ステラ」

「はい!」


 二人は馬車に飛び乗る。行く先は行商人が行った先だった。


「それじゃ、皆さん! お元気で!」

「さようなら!」

「ありがとう、お二人とも」

「娘さんと再会できると良いですね」

「はい」


 馬車は動き出す。娘たちを探す旅が再び始まった。


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