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第1話 妻は錬金術師 ステラ その2

 二人はさっそく町へ入ると娘について色々聞いてみる。

 町の至る所から二人の話が聞けたが、どこへ行ったかは誰にも分からない。

 それでも、と気落ちをすることはなく至る所で聞き込みを続けた。

 そして何とか食堂の女主人から二人の行き先を聞くことが出来たのだった。


「ああ、シャニーちゃんとレインちゃん? 何でも行商の隊の人についていくって言ってたよ!」

「そ、それでどうなったんですか?」

「さぁ? そこまでは分からないねぇ。でもお家に帰るって仕切りに話していたね」

「か、帰る……」


 呆然とする二人。

 様々な町や村で聞き込みをし、ようやく見つけて迎えに来た自分たち。

 だが二人は自力で帰ると言い出し、事もあろうに行商に付いて行ってしまったのだ。

 手が届くと思った矢先、それが手から離れていくことに二人はショックを隠せなかった。

 そんな二人を見て女主人は豪快に笑う。


「大丈夫だよ! あの子たちならさ! 元気で真っすぐで純粋だからね! それに行商の人も悪い人じゃないよ」

「そうですか……」

「ところであんたたち二人はいったい何者……ああ、言わなくていいよ。お兄さんとお姉さんだね」

「……え? いやっ……」


 一目見ただけでも分かっている言わんばかりに頷く女主人。

 すぐさま否定をしようと声を上げるステラ。

 だがそれを苦笑しながらブライトが続ける。

「まあ、そんな所です。とりあえず今は食事にしよう、ステラ」

「そうッスね……」


 二人はカウンター席に座ると深いため息をついた。

 老人のスープを飲んでから朝食すら取らず、街中で二人について尋ねて歩いていた。

 そのためか、ついに二人は空腹に耐えかねてしまう。

 料理が出来るまでの間、女主人から娘たち、シャニーとレインのことを聞いてみる。

 女主人の話をかいつまんで言えばこういった話だった。


 シャニーとレインは泥まみれの格好でこの町の入口へとやってきた。

 何でも東の山で野生動物に追いかけられて散々な目にあったらしい。

 やむなく門番がお風呂に入れて、身綺麗にすることで町へと入ることを許された。


 さっそく町で働き出す二人。

 幼い身でありながらも持ち前の明るさと懸命さがいつしか人々に受け入れられていく。

 しかし……そんなある日二人は町で少々厄介なトラブルを巻き起こした。

 この町に住む隠居の庭先で温室のカギを壊してしまったのだった。

 もともと古びたカギだった事もあり、直すことは難しかった。

 しかし隠居はそれを許す。なぜならカギは無用の長物。温室には入れなかったからだ。

 隠居にとってそのカギはお守り替わりでしかなかった。

 そこで二人はなにやら”おまじない”をすることで封じられていた温室を開けた。


「こうして、ご隠居の顔に笑顔が戻ったとさ。めでたしめでたしってね」


 女主人の話を聞いてると思わず、目に涙を浮かべるステラ。

 そんなステラの肩をそっと抱き寄せるブライト。

 口にはしないもののお互いに娘たちの話にひたすら耳を傾けていた。

 ”おまじない”はおそらくステラがシャニーとレインに手渡した魔法のロッドだろう。

 あれには簡易的な錬金術方式が内蔵されている。簡単なものなら作り出せた。

 ロッドの力で温室の錠を直してあげたのは、二人にはわかった。


「はいよ、出来たよ」

「頂きます」


 二人はさっそく料理をいただく。

 シャニーもレインもこうやって働いていたのか?

 そんな思いを抱きながら作られた料理を食べ続ける。

 お腹が膨れてくると今度は別のことが気になりだした。


「そういえば悪いんスけどあのお爺さん知ってるッスか?」

「おじいさん? どこのお爺さんだい?」

「ここに来る途中、山小屋のお爺さんに泊めて貰ったんです。高齢なのにこういう町に住んでいないので少し不安になってしまって……」

「あの爺さんかい、人当たりは良いけどちょっと頑固な所があってね……奥さんを亡くされてからはずっと山に一人さ。妻の墓を守る、って言って聞かなくてね。歳も歳だし……心配なんだけどねぇ」

「そうなんですか」

「まあ愛妻家だったからねぇ。死んでもああやって思われるなんて羨ましいよ」

「そうですね」


 女主人にお礼を言って店を出る。

 そして馬車に戻ると植木鉢が綺麗な花を咲かせていた。


「おお、綺麗な花ッスね」

「ああ、初めて見る花だ」


 二人は植木鉢からはみ出て咲く花を大きく掲げる。

 太陽の光を受けて白い輝きを放つ花に思わず、ため息をついた。

 せっかくなので女主人にプレゼントしようと花を持って街を歩く二人。

 だがそんな二人の前に誰かが立ちはだかった。


「おい、まて! その花を渡してもらおうか!」

「な、なんなんスか!? あなたたちは」

「我々はこの町を警護するものだ! さあ、早く!その花を渡すのだ」

「お、お断りするッス! これは私たちが育てた物ッス!」

「何っ!?」

 

 無数の役人たちがブライトとステラの周りを囲む。 

 花を脇へと隠すステラに役人たちが槍を突き付け、威圧をしてくる。

 そんな役人にブライトが毅然と言い返した。


「せめて事情を説明してください、そうでなくては渡そうにも渡せません」

「貴様……我々に立てつくつもりか!?」

「立てつくも何も乱暴だと言っているんだ!」


 一触即発。お互いににらみ合いをする。

 そんな双方の合間に一人の老紳士が割って入った。


「待ちなさい、事情を説明してあげなさい」

「あ、あなたは!?」


 老紳士の姿を見ると役人たちはすぐさま敬礼をする。


「よい、今はただの隠居じゃ。ところでご夫婦。その花はどこから手に入れたのかな?」

「山の上のお爺さんから頂いた物ッス」

「この花が何か?」

「その花はな、ある高級な魔法薬を作るシロモノ! いわばご禁制の代物だ!」

「この町で生息しているのは禁採区のみ。だからお前さんたちはそこから勝手に持ってきたのでは、ということじゃな」

「そんなことは……」

「ない、と証明するのは簡単じゃな。お前さんはさっき山の上のお爺さんから頂いたと言いおったし」

「それに魔法の植木鉢は自分しか持ってないッス! これは私が育てた物ッスよ!」

「……なるほど、言い分は理解した。しかし……」

「わかりました、取り調べをするのなら同行します。ですが妻には手荒な真似は許さないということを言っておきます!」

「良いだろう、同行するというのならこちらもそれ相応の配慮は行おう。連れて行け!」


 役人たちが二人に寄り添って歩いていく。

 そのさい役人の一人が隠居と言った老紳士に目配せをすると、老紳士こと、ご隠居が頷く。

 そしてブライトもステラも抵抗をすることなくそのまま付いて行った。

 

 ★


「相変わらず薄暗いっすねぇ」


 牢屋の中でステラが大きく伸びをする。

 一方のブライトは落ち着きなく、牢屋の中をうろついてた。

 平和な街なせいか、牢屋の中には誰もいない。

 何年も使っていないのか、天井には蜘蛛の巣が張り付いていた。

 

「ステラは入ったことがあるのか?」

「まあ、一応は……」


 この返答にブライトは頭を抱える。

 さすがに妻が牢屋に入ったことがあることに呆れるしかなかった。


「ステラ、あんまり無茶はしないでくれよ」

「はーい!」

「出ろ、これから調書を取る」


 看守の呼び出しに応じ、さっそく牢屋の外へ連れ出される。

 机と椅子しかないシンプルな部屋に連れてこられた二人は、そのまま座らせられる。


「まず一言だけ言わせてくれ。お前たち二人は釈放する」

「まっ、当然ッスね」

「そして誠に残念だがあの花は没収されるという形になる」

「ええ!?」

「理由をお聞かせください」

「知っての通り、あの花はご禁制の代物。国の外へ出すのは禁止されているんだ」

「なるほど、言い換えれば個人で所有すると犯罪扱いになるんですね」

「そうだ、たとえ君たち二人が自分で育てたものであってもだ。希少なものである以上、な」

「うー、頭が混乱するっす!」

「とにかく花さえ手放してくれれば問題はない」

「分かったッス……トホホ」

「いいじゃないか、ステラ。ところであの……その……花の名前はなんていうんですか?」

「おお、これか。花の名前は……」


 二人は役人にたちに促されるかのように再び馬車へと向かう。

 行商人を追おうと馬車を走らせる。しかしステラがこんなことを呟いた。


「にしても……ちょっと気になるっすね」

「何が?」

「自分が知りうる限り、あれは高山植物ってわけでもないッス。基本的に魔法の植木鉢は特殊なお花じゃない限り、あっさりと咲いてくれる物ッス。貴重な花というのは見てれば分かるッスけど……」

「だとするなら減る原因があるということだね」

「そっす」

「……調べてみよう」

「それは学者として? ッスか?」

「それもあるが……あのままではお爺さんが捕まってしまうかもしれないだろ」


 種を花壇などに植えたら頭の固い者や悪徳役人にしょっ引かれるのは目に見えていた。


「……まあそれは分かるっすけど、良いんスか? シャニーとレイン……」

「少なくとも行き先が分かっているんだ、焦る必要はないだろう。それに……」

「それに?」

「私はあの子たちの前でちゃんとした父親でありたいんだ」

「……分かったッスよ。素敵なパパじゃないと胸を張って再会出来ないッスよね」

「すまん」

「良いッスよ、子供が生まれるとき、そう決めたんスから」

「さっそく、あの花の咲いているという禁採区へ行ってみよう」

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