三話 守れ! 騎士団の誇り! その2
さてと、どうしたものかしら……とベイカーズのカウンターでうなだれるあたし。
依頼の中身を紐解いてみるとひどい詐欺にあった気分だ。
最初の依頼は迷宮探しである。
しかし話を聞いた限り騎士団長が求めているのは街に侵入したゴブリンの拠点だ。
と、なると当然のようにゴブリンを捜し求めなきゃいけないわけで……。
「はぁ……」
「どうにもならないことに落胆してると物事はよくならないよ」
スーザンがあたしの前に注文の品、コーヒーフロートをドン、と置く。
やや大きめのグラスに入ったコーヒーフロートはバニラのアイスがほんのり溶けていた。
さすがスーザン、あたしの好みを熟知している。
このバニラアイスとコーヒーが少し混じった所が美味しいのだ。
早速頂こうと備え付けのスプーンでじっくりかき混ぜる。
全部混ぜてはいけない、こういうのは三層を作ることが重要。
底の黒、アイスコーヒー。間の茶色、カフェオレ。トップの白、バニラアイス。
バランスよく層が分かれると同時に木のストローで飲み始める。
苦味とほんのりとした甘さが心を癒していく。
「ふぅ……」
「元気が出てきたみたいだね」
「元気は出てきたけどこれからやることにその元気を持っていかれそうだわ」
ゴブリンの巣穴は探すのがとても大変だからだ。
その理由としてまずゴブリンは気性が荒いのだ。
敵とみなした相手を徹底的に攻撃をする。
逃亡の二文字は絶対に無く、例え相手との差が歴然でも襲い掛かるのは有名。
なので逃がして追跡する。という手段はほとんど使えない。
野生動物のほうがまだ良心的というくらいだ。
「ゴブリンの巣穴なんて、簡単に探せると思う?」
「まずはゴブリンを見つけないと話にならないねぇ」
スーザンの言葉にあたしはごもっともで、と頷く。
深いため息とともに不安をを吐き出す。
まずはゴブリンを探すしかない。話はそこからだ。
そう思うと少し気分が明るくなってきた。
ウダウダ言うのはあたしの流儀じゃない。
コーヒーフロートを飲み干すと気合が入ってきた。
「リリア、くれぐれも気をつけなよ」
「了解」
あたしはスーザンに手を振るとベイカーズを出て行った。
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さっそく街中で聞き込みを始める。情報自体は意外とあっさり集った。
緘口令を敷いてると思っていたけど意外にも住民の口は軽かった。
それだけ騎士団を信用して無いってことかしら?
ゴブリンたちは夜間に出ることが多いらしく、みんな夜は出かけないようにしている。
一応、普段使ってない倉庫等を調べたがそこを拠点にしている様子は無い。
板は付けても毎回壊される。重い粗大ゴミを置いて塞いでみたがむしろ綺麗に掃除されてしまった。
次は現場検証をする。事の発端である穴があいた壁へとやってきた。
なるほど、あたしの身長の五倍くらい高い壁の下に小さな子供なら出入りできる穴が開いている。
ここからゴブリンが出入りしているって訳か……。
「D・E発動! この区画の過去を映像にして見せて頂戴」
【了解しました】
目の前にスマホ程度の大きさの画面が現れる。あたしはじっくりと”過去”を眺める。
みんなが寝静まった夜。何かがごそごそと動いている。
木の板が外れるとそいつは姿を現した。間違いない、ゴブリンだ。
夜の魔物は活発に動くと言う話を聞いたことがあるけどこうも活発とはねぇ。
一匹だけじゃなくて二匹三匹とまあ、数が多いこと。
耳をそっと立ててみる。何かを喋っているようだが……魔物の言葉が分からない。
「これなんていってるの?」
【テロップに出してみます】
「ついに我々の作戦が成功したみたいだな」
「ああ、ここまでくるのに長い時間を要した……」
「これで……我々の悲願を果たすときが来た! いくぞ!」
「おお!」
悲願ねぇ……。魔物にそんな人間的な感情があることに驚いた。
だとするなら魔物は目的を持って行動をしていることになる。
人を襲うってことは巣穴でも潰されたのかしら? はたまた宝でも奪われた?
どちらにしても簡単に行きそうには無い。
ただ目的があるということは行動も計画的となり、街中に潜伏している可能性も出てきた。
この手の話は絶対情報が何よりも重要のはず、動くならもうすぐって所でしょうね。
とりあえず夜を待つか……。おそらく行動するのなら夜中が一番だろうし。
準備と時間つぶしのためにあたしはいったんアパートへと戻ることにしたのだった。
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そして月が徐々に昇り始めると同時にあたしは行動を移す。
いつも通り板がしてある場所へやってきてみるが外された様子は無い。
周囲は完全に暗くなっている。月明かりだけが光源だった。
「……来ないわねぇ」
今晩も来ると思い、見張っているのだが板が動いた様子は無い。
てっきり増援を寄こすと思ったけど必要分はもう潜入したってことかしら?
色んな考えが浮かんでは消えていく中、突然静寂を切り裂いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女性の悲鳴だ! あたしはすぐさま声をしたほうへ向かう!
一人の女性がその場にへたり込んでいた。すぐさま駆け寄ると状況を聞く。
「大丈夫? なにがあったの!?」
「パ……パンツ……」
「へ?」
「パンツが盗まれたの! お気に入りだったのに!」
女性の言葉にあたしは目を白黒した。
パンツが盗まれた、この一言にあたしは愕然となる。
よく見ると女性のスカートはお尻の形がしっかりとくっきり鮮明になっている。
ほ、本当にパンツを盗まれたんだ……。ッテ、こんなこと考えてる場合じゃない!
すぐさま気を取り直し、周囲を警戒する。犯人はまだ近くにいるはず。
銃を引き抜くといつでも撃てるように銃弾を装填する。
小さな箱の隅っこに何かが動いた!
「そこか!」
影に向かって銃弾を一発放つ。影は素早く動くと同時に建物の壁を登っていく。
速い! もしかして……これがゴブリン!?
「ふふふふふ! がっはっはっはっはっはっは! 良くぞ見破ったな!」
高笑いをするそいつ。月明かりに照らされて現れたのは一匹のゴブリンだった。
緑色の小さな小人が黒いマントを羽織っており、頭には…………ピンクのブツが。
しかも驚いたのは魔物の言葉ではなく人間の言葉で喋っていたことだ。
…………ゴブリンはゴブリンだけどアレはただの変態なのでは?
「あ、あれは……スケベゴブリン!」
「ス、スケベゴブリン……」
驚く女性の影でこっそりD・ Eで詳細を調べてみる。
スケベゴブリン。
名前の通り性欲が旺盛であり極めて悪質な種族である。
特徴的なのがその生命力と性への高い知識である。
相手のレベル関係なく”物品奪取”し、その成功率はすこぶる高い。
ちなみに雄雌があり、雄は女性の装備アイテムを、雌は男性の装備アイテムを率先して奪う。
なお、この魔物は国の第一種災害指定魔物に認定されている。
あたしは思わずひっくり返ってしまった。
エロだけで第一種災害指定魔物に認定されていると言う一文にたまげるしかしかなかった。
文字だけで分かるようにこの第一種災害指定魔物っていうのは巨大なドラゴンとかアークデーモンとか国の一大事に関わる魔物に対して認定するモノ。
それをわざわざこんなふざけたゴブリンにその認定をするんだからたまったものではない。
いや下着とか盗まれたら大惨事なのは分かるけど……。でもだからってねぇ……。
「ふははははははははは! 見つかってしまっては仕方が無い! お前たち逃げるぞ!」
「へい! ボス!」
ボスと呼ばれたこと黒マントが叫ぶとボコボコとゴブリンが這い出してきた。
一人が二人、二人が四人、四人が……たくさん。
手にはおそらく戦利品であろう大量の下着が……こんなのどこから持ってきたのかしら?
またも虚を突かれる感じとなり、そのまま逃げようとするゴブリンたち。
「逃がすかぁ!」
ゴブリンに向かって発砲する。だが当たらない。
小さいと言うのもあるけど思った以上に素早い。おまけに上下左右前後とちょこまかと動く。
下手なアクションも真っ青、とにかく照準が捕らえられない。
「まずい!?」
背後を取られた! 攻撃されるとかと思いきや……。
「きゃぁ!」
ゴブリンの一匹があたしのスカートを引っ張った。そして下着を見て一言。
「ボス、面白みの無い下着ですぜ!」
「知っておる……水玉のすばらしい下着だが……。いまいちありきたりな感じが否めんなぁ」
「その通り! このくらいの年齢ならフリル付きのを買うかどうか悩むのが理想ですぜ!」
「人の下着にケチを付けるな!」
いろいろ談義を言ってるゴブリンの身体ににあたしの回し蹴りがに入る。
勢いよく壁に叩きつける……と思いきや、そのまま飛んできた大蝙蝠に捕まり、空を飛んでいった。
「がっはっはっはっはっ! さらばだ! ちんちくりんのお嬢さん! 今度はもう少し背伸びしたパンツを穿いてくるんだな!」
「誰が穿くか!」
逃げるゴブリンたちに何度も銃弾を放つが高笑いとともにゴブリンは闇夜に消えていった。
悔しすぎる……っていうかあいつら一体なんなのよ!?
【スケベゴブリンは生命力と素早さは他の魔物より飛びぬけています。現在あなたの射撃レベルでは彼らに攻撃を当てることは不可能です】
「追い討ちをかけるな!」
DEの冷淡な発言にあたしは地団太を踏むしかなかった。
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「スケベゴブリンですか」
「そう! 全く嫌になっちゃうわ!」
ギルドの受付でミリィ相手に愚痴をぶつけるあたし。
あいつらぁ……今度見つけたらコテンパンに伸してやる!
とはいうものの完全にしてやられているので知恵を借りようとギルドに来たんだけど……。
『神出鬼没で捕まえられない』『何とか捕まえたがあっという間に逃げられた』
の二つしか話が聞けなかった。
「リリアさんもやっぱりやられたんですか?」
「やっぱりやられた……ってどういうことよ?」
「……ここだと季節の風物詩みたいなものですよ。町の外を歩いているとみんな取られちゃうんです」
「風物詩って……あんな奴らを放って置く事はできないでしょ!?」
「それもそうなんよですねぇ、困ったものです」
おっとりとした口調で言うミリィにあたしは頭を抱えていた。
もしかしたらこいつらを潜入させてしまったからその尻拭いを冒険者にさせるつもりだったんじゃ……。
そう考えると無性に腹が立ってきた。依頼料の割り増しを請求してやる。
だがそれ以前にこのままでは依頼を達成できない。となると……
「なら囮を使うしかないわねぇ」
「囮ですか?」
そう、よくある話だけどあの手の奴らには囮作戦が良く効く……はず。
下着をぶら下げておけばノコノコとやってくるはずだ。
そこを一網打尽、もしくは追跡装置をつけて追えば巣穴も捕縛できるはず!
とミリィに説明した所、彼女はうんうんと頷くだけであった。
「……ナルホド、流石はリリアさん!」
普通褒められたら嬉しいはずなのに全くと言って良いほど嬉しくないのはどうなのかしら?
「というわけでミリィ、下着くれないかしら?」
「お断りします」
あたしとミリィの間に冷たい空気が流れるのであった。




