表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/72

第三話 罪は時の流れのままに その2

 主の少女からの言伝を受け、ゲンジュウロウは都市に赴いた。

 町を適当に散策をしていると少女の予言通り、アルベルトが街をふらついてる。 

 ゲンジュウロウはすぐさま偶然を装って声をかけた。


「おや、アルベルトはんやないか」

「あなたは……ゲンジュウロウさん」

「どうしたんや? 王都に向かったはずじゃなかったんか?」

「えっと……ちょっとこっちに用事があって……」

「なるほど。ほんなら酒場で一杯どうや? 前みたいに行き倒れとかしてへんやろな?」

「うっ……」

「図星か……仕方ないわ、今日は奢ったるわ」

「あ、ありがとうございます」


 ゲンジュウロウとアルベルトは酒場へと入る。

 昼間の酒場はやや閑散としていた。

 客はいても酒を頼むようなものはいない。

 二人はカウンター席に座るとバーの主人に適当な酒を頼む。


「さて、再会を祝して乾杯といこうか」

「は、はい」


 杯を手に取ると軽くぶつける。そしてそのまま一機飲み干す。

 赤い色の酒は年季が入ったものらしく芳醇な香りを漂わせていた。


「かー! 昼間から一杯とは格別やね」

「はい……」

「それで用事っちゅうんはなんや? せっかくやし手伝ったるわ」

「ありがとうございます、でもこれは僕の用事なので……」

「そうか……。で、どうやった? 王都は?」

「ええ、とてもすごかったです。特にお城が」

「そうかぁ、僕もいつか見たいですわぁ」

「はぁ……」

「なんや、そのため息。ああ、王都で仕事が見当たらんかったわけか?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ほんならもっと明るい顔したらええって、なぁ?」


 完全に口が重いアルベルト。

 何をしているかはゲンジュウロウは知っていたがあえて話題に出さず、ひたすら一方的に話しかけた。

 空になった杯を見るとすぐさま酒を注ぐ。

 戸惑う彼の顔を見ながら先ほどの思い出していた。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「監視? だれをや?」

「アルベルトよ。余計なことをしないように見張っていて頂戴」

「急な話やな、お嬢」

「ええ、ごめんなさいね」

「いや、謝らんでええで。せやけど理由ぐらい聞かせてもらえるんやろな?」

「そうね、じゃあ軽くネタバレでもしましょうか」


 部屋の奥からフォードも現れる。

 誰もいない漆黒の空間に大きな彼の前には木で出来た演説台がある。


「さて、皆様お立会い! これからお話しするのははらわたが煮えくり返るほどの残酷劇!」


 フォードの話が始まった。


 昔々、ある所に畑を耕す農夫の一家がいた。

 日々を慎ましく暮らしながらも彼らは幸せであった。

 そんなある日、父親は畑の中であるものを見つけた。

 ”打ち出の小槌”であった。

 これを振るうと金銀財宝がまるで湯水のように出てくる。

 しかし、善良な父親は小槌を部屋の奥へと閉まってしまう。

 過ぎたるは猶及ばざるが如し。身分不相応な金は自分を滅ぼすと思ったからだ。

 しかしそんなある日。一家の一人息子が高熱を出して入院することになる。

 病気を治すには高いお金が必要。やむなく父親は小槌を振るって小金を作る。

 その小金で息子は元気になった。しかし……それを見ていた者がいた。

 病院で息子と同室の男、エドワードという男だった。

 エドワードは息子たちの家を探し当て、家の中を探る。

 タンスや棚を荒らし、床をはぎ取り、壁を破壊し、ようやく見つけたるは打ち出の小槌。

 しかしそこへ夫婦がやってきた。 エドワードはためらいもなく、夫婦を殺す。

 残された一人息子は悲嘆にくれた。家を探すがあるものがない。そう打ち出の小槌。

 犯人は小槌を持っている。そう確信した息子は親類に引き取られ、武術の稽古に励むのだった。


「その息子がアルベルトっちゅうわけか……」

「ええ」


 一方、小槌を奪った男はその力を悪用をして贅沢三昧!

 美味い物を食い、大きな家を建て、大勢の人を雇った。

 しかし男、エドワードは満足しない。なぜなら金だけを持った男に誰も敬意を抱かない。

 素行か? はたまた実績か? ならばと彼は一計を講じた。

 ちょうど運よく長雨で増水した川を見つけたエドワード。

 管理者を溺死させ、せき止めていた堰の縄をナイフで断ち切った!

 溢れた水が勢いよく流れ、町を破壊する! 

 そして町は水浸しとなり、このままでは町は滅びる!

 そんなときエドワードが現れ、彼らに金を与えた。

 町の人たちは大喜び! このおかげで町の人々は無事復興を遂げたのだった。


「そしてこの功績から王様から伯爵の地位を貰い、今日に至る。というわけです」


 話を終えたフォードにゲンジュウロウは肩をすくめた。


「ほーん、で? 打ち出の小槌ってアレでっか? 一寸法師が大きくなるアレ。」

「ええ、あなたが想像しているものと同じものよ。或いは回すと塩が出てくる臼みたいなものね」

「ははぁ……」

「でも彼にとってそろそろ打ち出の小槌は必要なくなりつつあるのかもしれないわね」

「なんでや?」

「そんなものが無くてもお金が手に入るようになったから、かしら?」

「さよか……」

「さて、お嬢様。いえ、ガブリエル様。かの者の罪。いかがなさいますか?

「……嘘には嘘を。過ちには過ちを。罪には罪を」

「御意に」


 フォードは少女に頭を下げるとそのまま消え去った。


「さて、僕も行ってきますわ。にしてもお嬢、楽をし過ぎやで。いくら過去が見えたりするからって……」

「あら、謎を解くのは人がやることでしょ? 神の使いたる私たちはもっと別のことをするべきでなくて?」

「……せやな」


 ゲンジュウロウも屋敷を後にした。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


 ゲンジュウロウが酒場でアルベルトと飲み交わしていた頃。

 フォードは伯爵の屋敷にいた。大きな屋敷を見ながら不敵な笑みを浮かべる。

 屋敷の入口では一人のメイドが掃き掃除をしていた。

 見るからに噂が好きそうな女性だった。


「あの、すみません。ここがエドワード伯爵のお屋敷なのでしょうか?」

「はい、そうですけど……あなたは?」

「ああ、すみません。私はこういうものです」


 さっそく一枚の名刺を差し出す。

 だがメイドはフォードが差し出した名刺に対し困惑の色を出した。


「すみません、私は文字が読めないもので……」

「ああ、そうですか。それは申し訳ありません。私、本を作ってるものでして……」

「はぁ、本ですか?」

「ええ、それで伯爵についてお話をお聞きしたいのですが……よろしいでしょうか?」

「わ、私で良ければ!」


 メイドは伯爵について語り始めた。

 金払いがいいこと、とても懐が広い所、そして色んな所へ寄付をしていること。

 全体的話としてはとてもいい人だとメイドは言っている。

 そんな彼女にフォードは優しい笑みを浮かべて頷いた。

 

「なるほど。とても素晴らしいお方なのですね」

「ええ、とても……」

「ところで……つかぬことをお聞きしたいのですが伯爵はこのような財をどこから?」

「それは……わかりません」

「では、伯爵はグルグの町に寄付をなさったのでしょうか?」

「それは伯爵のお慈悲なのだと思います」

「では、最後に……ここに一人の青年が訪ねてきませんでしたか?」

「え、ええ! 来ました! アルベルトという人が! 何でも伯爵に聞きたいことがあるそうで! でも執事長が追い返しました」

「なるほど、わかりました。ご協力、ありがとうございます。それと……もしよろしければ屋敷の中を取材させて欲しいのですが……」

「それは……」


 今度はためらいの色をだした。そこをすかさず言葉を続ける。


「無理ですか?」

「執事長に聞いてきます」


 しばらくするとメイドが戻ってきた。


「執事長がご一緒ならばと申しております」

「ありがとうございます、これはほんのお礼です」


 フォードはメイドに数枚の金貨を渡した。


「い、いえ! お礼なんて滅相な……!」

「お気になさらず、むしろ頂いて貰わないと私の上司に怒られてしまいます」

「わ、わかりました」


 メイドに手を振ると屋敷のエントランスへと入っていく。

 エントランスには一人の老執事がいた。彼が執事長のようだ。

 強面の顔。フォードは堅気の人間ではないことを察した。


「あなたが本を作る人、ですか?」

「ええ、初めまして、私はこういうものです」


 フォードは名刺を差し出す。

 フォードの名刺をひったくるかのように受け取る。

 彼は文字が読めるらしく、眉間にしわを寄せながら何度もフォードの顔を見る。


「フォードさん、ですか」

「ええ」

「失礼ですがどちらにお勤めで?」

「しがない出版社ですよ。末席ですがそこに身を置いております。名刺にも書いてあるでしょう?」

「ほう……」

「それが何か?」

「いえ……」


 明らかに警戒の色を隠さない。

 なぜそこまで警戒をするかがフォードにはわからなかった。

 それでも自分が怪しい人物であることは重々承知していたが、それとは違った何かを感じている。


「では申し訳ありませんが屋敷の中を案内にしていただけますか?」

「はい、それでは私についてきてください」


 フォードは老執事の後をついていく。

 廊下を歩きながら屋敷の様子を観察する。


「ほう……実に素晴らしい……。いろいろなところにお金をかけていらっしゃるのですね」

「ええ。エドワード様は物を惜しまない方なのです。特にお金は……」

「なるほど」

 

 しかしすれ違う人々はフォードの存在を受け入れられないのか、妙に視線を飛ばしてくる。

 最初に通されたのは食堂だった。


「これは凄い。こんなに広い食堂は初めてですよ」

「ありがとうございます」


 口ではそういうがお互いに社交辞令気味にやや冷たい口調であった。

 完全にお互いをけん制しあった状態だった。

 しかし社交辞令を抜きにしても食堂自体はとても素晴らしかった。

 広々としてしっかりとした造りはかなりの手間がかかっている。


「それで主人はどのあたりで食事を?」

「もちろんテーブルの一番奥です」

「なるほど」


 フォードはじっくりと奥のテーブル席を見る。

 しかしこれと言って汚れている雰囲気はなかった。

 ここで食事をすることはないのは明白。


「次はどちらへ参りますか?」

「ならば書斎をお願いいたします」

「書斎……ですか?」

「ええ。やはりお仕事をしているところを記事にしたいので……」

「大変申し訳ありませんが書斎はまだ掃除をしていないので……お見せするのは少々……」

「そうですか……それは残念です」


 断りを入れてきた執事長にフォードは落胆の表情を作る。

 しかし書斎には秘密があることは明白だった。


「では他の方の仕事ぶりを拝見させていただきます。せっかくですから伯爵についてお聞きしてもよろしいですか?」

「もちろん、ですが嘘はお書きにならないように」

「ええ、それはお約束いたしますよ」


 再び執事長とともに伯爵の館の中を回る。

 入り口で出会ったメイドと同じように、伯爵が善人であることをやたらほのめかす内容だった。

 しかしどことなく不自然な雰囲気を感じ取るフォード。

 彼らの視線はフォードではなく、常に後ろに執事長に注がれていた。

 怯える仕草はしなかったものの、やたらとせわしなく執事長へ視線を送る。

 言葉一つに細心の注意を払うかのように喋るせいか、どうにも口が回っていない。

 それでも一つ一つ自らの手帳に書き留めていくフォード。

 例えフリであっても自分は記者、本を作る人なのだから。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


 一通りの話を聞き終えたフォードは執事長に向かって頭を下げる。

 伯爵についての話だけでも隙間がないほど、びっしりと書き連ねられている。


「では、本日はお忙しい中ありがとうございます」

「いえいえ、本が出来たらぜひお送りください」

「もちろん、それでは……」


 フォードは再び頭を下げ、屋敷へ背を向ける。

 ある程度離れたころ、懐から黒い板を取り出すと指で軽く撫でた。

 この世界に絶対に存在しないもの、スマートフォンだった。


「お嬢様、私です」

「あら、フォード。どうだったかしら?」


 黒い板、スマートフォンから少女の声が聞こえてくる


「夜に作戦に取り掛かろうと思います、後のことはお任せしてよろしいでしょうか?」

「ええ、わかったわ。手持ちは大丈夫?」

「そこは抜かりなく、ご心配には及びません」

「じゃあお願いね」

「かしこまりました」


 電話を切るとフォードは森の奥へと身を沈めた。

 太陽が完全に落ちた夜。フォードは再び屋敷へとやってきた。

 今度は誰にも見つからないように、裏口の前へと立つ。

 明かりはほとんどついていないのを確認するとフォードの影が一人二人と増えていく。


「では、頼みましたよ。我が配下たちよ」


 腕を振り下ろすと影法師たちが一斉に散る。

 エントランスを素早く通り抜け、屋敷のいたるところに影が潜入する。


 一人の影が明かりの付いた部屋を見つけた。影はすぐさまそこへ入っていく。 

 明かりのついた部屋、屋敷の奥の部屋ではお金をもらったメイドが見えた。

 縄で手足を縛られ、執事長に何度鞭で叩かれている。


「お前が余計なことを言ったから!」

「も、もうしわけありません!」

「しかもアルベルトの事を聞いてきただと!? 怪しいにもほどがあるだろうが!」

「お、お許しを!」


 ひたすら謝罪をするメイドの姿があった。

 かなりひどく殴られたのかお尻を始め、肌が露出をしているところは真っ赤になっていた。


「これは罰だ。遠慮なく貰っておくぞ」

「は、はい……」

 

 そう言うとフォードが手渡した金貨を自らの懐へと忍ばせる。

 メイドは肩で息をしながら叩かれないことに安堵したのか、ため息をついた。

 影は、フォードはその一部始終を見終えると別の影に意識を飛ばす。

 別の影が部屋に入る。本棚が立ち並ぶ部屋、書斎だった。

 書斎に入った影法師が大きく広がっていく。

 闇を侵食し、黒が本棚や机の隙間へと入り込む。

 堅い引き出しのカギも影が軽くうごめくと器用にカギを開け、引き出しの中を取り込む。

 引き出しの中には一枚の手紙が入っていた。差出人の名前はアルベルト。

 封は切られており、中には何もなかった。


「なるほど、どうやら彼もまた伯爵の正体に気づいているようですね」


 さらに部屋の中を闇がうごめく。もはや影はこの部屋の一部になっている。

 意識を集中させると本棚の隙間から一枚の紙切れを見つけた。


「ほう、これはこれは……」


 貴族への賄賂の証明書だった。打ち出の小槌”で作った資金はかなりの額になっている。

 残しておいたのはおそらくけん制と脅迫。一蓮托生という意味合いも含まれていた。

 さらに奥には傭兵団からの請求書だった。

 読んでみると中はある人物を始末したという報告書。

 どうやら爵位を得るのに反対した貴族を始末したようだった。

 

「よくもまあ、ここまでするとは……」


 呆れる口調ではなく、思わず吹き出すかのような笑みをフォードは浮かべる。

 そして少し考えてみた。しばらくすると影法師にあるものを持ってくるように頼んだ。

 それは伯爵の印だった。影法師が軽くうごめき、引き出しの奥にある印を見つける。

 そして闇が印を飲み込むとすぐさまフォードの手元へとやってきた。

 フォードはすぐさま三枚の紙を取り出し、ペンで文章を書き始める。

 そして書き終えると印を押し、封をした。


「さて……仕上げに取り掛かりましょう」


 フォードは封をした紙を闇の中へと放り込み、伯爵の屋敷に背を向けて立ち去った。 


 

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

 後日、フォードは騎士団へとやってきた。


「あの、すみません」

「なんだ? あんた?」

「実は調査をお願いいたしたいのですが……」

「調査だと?」

「ええ、ぜひ」


 騎士たちがややめんどくさそうな顔で席を立つ。

 そんな彼らを見ながらフォードはただ笑みを浮かべるだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ