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第二話 剣は血とともに その1

「あー、ええ天気やな、ガルバはん」

「ああ、そうだな」


 二人の男が荷車を押している。

 いや正確に言えば一人の男が荷車を引き、もう一人の男は車の端に座っていた。

 しかし、荷車は大きな布に包まれた荷物と男一人を乗せても悠々と動いている。

 整備されていないあぜ道を苦もなく車輪を回し、進んでいく。

 

 それもそのはず、ガルバと呼ばれた男は体長二メートルを越す大男だった。

 筋骨隆々で今にはちきれんばかりの筋肉が動くと荷車もそれに合わせて進む。

 真っ黒なスーツ身を包んだ彼は、その風貌から言えばまるで熊の様であった。

 

 もう一方の男はヘビを思わせる男だった。

 かなり細い身体なので荷車を押してもあまり動く様子の無い貧弱な身体だった。

 また動き辛そうな袖が広い服を着ており、荷車を押すにもあまりにも不適。

 なので荷車の端に座り呆けた顔で空を見ていた。


 そんな二人の男はそうこうしているうちに都市の入り口の前まで来ていた。

 

「止まれ!」


 門の前で衛兵が槍を交差させて二人の通路を止める。


「何者だ、貴様ら!?」

「ああ、お初にお目にかかります。僕の名前はゲンジュウロウと申しますわ。こっちは相方のガルバはん」


 荷車の端から飛び降りると、揉み手をしながらややへりくだった態度をとるヘビ男ことゲンジュウロウ。

 そんなゲンジュウロウにやや眉間にしわを寄せながら、荷物の方に視線を送る。


「一体なんの用だ? この荷車はなんだ?」

「ああ、申し訳ありまへん。僕ら、ガブリエルお嬢の使いでしてな。溜まりに溜まった税を支払いに来たんですわ。はい、証拠の書類」


 衛兵に一枚の紙切れを差し出す。

 衛兵は顔をこわばらせたまま、男の持つ紙切れを眺める。

 ちゃんとしたものだと確認をするが警戒を解く様子は無い。


「ふむ、それで後ろのは?」

「税金、ですわ」

「これがか?」

「はいな」

「中身を改めさせてもらうぞ!」


 相棒に目配せをすると荷車に登り、包みを破る。

 そこには黄金の塊がそこにはあった。

 高さははガルバと同じ二メートル。立方体の形をした黄金がそこにはあった。

 巨大な黄金は太陽の光を受けて眩い光を周囲に放っている。

 あまりのことに衛兵も呆然となった。


「……これは……」

「これで税金を支払うんですわ、通ってもええやろ?」

「分かった、通っていいぞ! 役場はこの通りを真っ直ぐいったところにある!」

「はいな」


 破れた包みをそのままに男二人は役場の入り口へと向かう。

 荷車が通るたびに待ち行く人々は二人の持つ黄金に視線を向ける。

 ある者は好奇の、またある者は羨望の、そしてまたある者は嫉妬と欲望の。

 役場の看板を見つけるとゲンジュウロウは荷台から降りた。


「ガルバはん、僕は手続きをしてきますわ。くれぐれも居眠りはするんやないで」

「わあってる! とっといってこい!」


 ゲンジュウロウが役場の中へ入った。

 ガルバはそれをあくびをしながら見送る。

 近くの木箱を椅子代わりにして座ると、数人の薄汚れた男たちが現れた。

 いやらしい笑みを浮べ、顔はどこと無くゆがんでいるように見える。


「よう、あんた。景気がいいじゃねぇか?」

「なんだ、お前ら?」

「いやぁ、ちょいと兄さんに用事が会ってよぉ」

「俺のほうは何もねぇぜ?」

「いやいや、こういうことなんでねぇ」


 男たちは刃物を見せるとガルバは深いため息をついた。

 首を左右に振り、鈍い音を鳴らしながらゆっくりと立ち上がり、男たちに近付く。

 その様子に男たちは大笑いをし始めた。


「おいおい、一人で俺たちに勝つつもりかよ?」

「その言葉をそっくり返してやる! その程度の数でオレを殺す気かよ!?」


 戦場での一番槍の如く、一人の男がガルバの前に向かってくる。

 しかし次の瞬間、男の体が大きく吹き飛んだ。


「へ?」

 

 突然吹いた突風に誰もが呆気に取られる。

 背後を見ると人型の赤い影。それだけが残されていた。

 ガルバは突き上げた腕を下げると再び男たちに向き直る。

 彼らは理解した。仲間はこの男の拳を喰らい、その身を残さず大きく弾け飛んだ、と。

 

「貧弱だな、遊び相手にもなりやしねぇ。で、次はどいつが相手になるんだ?」

「う、うああああああああああああああああ!」


 絶叫とともに男たちは一目散に逃げ去った。

 その様子をガルバは肩を落として見送る。


「やれやれ、根性のねぇ野郎どもだ」

「なんや、何かあったん?」

「……さあ? しらねぇな」


 入り口からゲンジュウロウと係員の女性が現れた。

 女性は二人が持ってきた黄金と対峙すると目を丸くした。


「これが税金分ですわ」

「……なるほど、とりあえず中に入れた方がよろしいかと」

「ガルバはん」

「分かってるって、よっと」


 ガルバは自分と同じ大きさの黄金を手に取る。

 苦にすることはなく、そのまま役場の中へ入れようとする。

 突然の来訪者に役場にいた全員が先ほどの女性と同じように目を丸くする。


「すんませんな、失礼しますわ」

「秤の方へお願いします」


 黄金をそのまま床と一体になった秤へ遠く。

 メーターの針が左から右へ傾くと係員が書類にペンを走らせた。


「確かに、税金分はありますね。ですがちょっと多いかと」

「ちょっと? どういうことや?」

「お釣りをお出しいたします」


 お釣りのという言葉に二人は目を輝かせる。

 係員が少しの麻袋を二人の前に差し出した。


「ご苦労様でした、これが支払い証明書とおつりです」

「はいな、確かに頂きましたわ」


 紙と麻袋を手に取るゲンジュウロウ。

 役場から外に出るとガルバが提案をしてきた。


「おい、こいつは当然二等分だよな」

「まあ当然やな」

「オレは財布を持ってないから袋の方を貰うぜ」

「はいな、分かりましたわ」


 目分量でおつりの金貨を半分にするとゲンジュウロウは藤色の袋へ金貨を入れた。

 麻袋を手にするとガルバは意気揚々と去って行く。

 そんなガルバの背中を見ながらゲンジュウロウはため息をつくしかなかった。

 

「これだから酒好きは手におえませんなぁ」


 ゲンジュウロウは街を歩く。

 薄汚い路地には浮浪者や行き場のない子供がたむろしていた。

 街の雰囲気もどうにも暗く、すれ違う人も明るい顔をしていない。


「世も末やな」


 思わず呟くと同時に路地脇から突然手が伸びた。

 身体が反応をしてとっさに手から逃れる。


「なんや、いったい!?」

「あー、おっしぃな!」


 突然のことに怒りの声をあげるゲンジュウロウに対し、相手は下品な笑いをあげている。

 ガルバの時と同じような薄汚れた男たちだった。

 ゲンジュウロウにいたずらを仕掛けようとした男はリーダー格なのかバンダナを頭に巻いている。


「なんや、お前ら! 人の顔に手なんが突きつけて」

「なんや、お前ら! ひどのかおにてなんかづきつけてぇ!」

「ぎゃはははは!」


 からかうかのような言い回しにゲンジュウロウは握り拳を作る。

 しかし関わるのは危険だと察知し、すぐさま逃げようとする。

 だがそのまま肩を捕まれ、暗い路地奥に押し込まれてしまう。


「たすけてぇな!」

「はーい、騒がないでねぇ」


 騒がれると困るのか腹を殴られる。場所が悪かったのか、思わず膝を突いた。

 それと同時に今度は蹴りが顔面に叩きつけられた。

 そのままゲンジュウロウは路地裏を転がる。男たちは手を叩いて喜び合っていた。


「ひゅう!」

「イェーイ!」

「く、くそが……」


 そしてナイフを取り出すとゲンジュウロウの鼻先へと突きつける。


「ひえええええええええ!?」

「でさ、俺たちビンボーで困ってるの? 恵んでくんない?」

「それは……」


 言い淀むとナイフを首筋に突きつける。血は出ないように軽く何度もつつく。


「わ、わかりましたわ、これを! これでご堪忍を」


 すぐさま懐から藤色の袋を出し、土下座をするゲンジュウロウ。

 

「分かれば良いんだよ分かれば」


 男たちはその袋をひったくるように奪うと中から金貨を取り出した。

 空っぽになった袋を用済みといわんばかりに、ゲンジュウロウの顔に叩き付ける。

 そんなときだった。


「待ちなさい!」

「やべぇ!騎士だ! 逃げるぞ」


 声のするほうを見ると一人の女性騎士がいた。

 騎士の姿を見つけるとすぐさま走り去る男たち。


「ちょっと大丈夫?」

「そ、それよりも僕の金……」


 顔を押さえながらフラフラと男たちが逃げていったほうを見る。

 だが逃げる足は早かったのかもうどこにも姿はなかった。


「……あー、なんでこんな目に……」

「仕方ないわ、あいつらのことはあたしに任せて」

「頼んます、ええっと……」

「我が名はペティ・バル・フランシア・マルセーヌ! 一応この街の騎士である!」


 拳を目の前に掲げ、ペティと名乗った騎士の顔をじっくり眺める。

 

 顔の見かけでいえば二十台という印象だがどことなくそれよりも幼いように見えた。

 更に言えば着ている鎧も小さく、どうにも安物に見えた。

 ゲンジュウロウはどこと無く頼りないと思いつつ、頭を下げるのだった。 


「それはご丁寧にどうも、僕の名前はゲンジュウロウと言いますわ、どうもよろしゅう」

「ゲンジュウロウ? あなた、東国の人なの?」

「はいな、東の国からはるばるこの国へ。それであいつらは一体なんなんや?」

「サッド団っていう性質の悪いチンピラよ。この近辺で強盗や強請りやたかり、場合によっては殺人とかもするんだから」

「殺人とは大事やな、で何でそんな奴をのさばらせておくん?」

「見てのとおり、あいつら逃げ足だけは一流なのよ。そのせいで上手く捜査が出来なくて……」

「はあ、世の中真っ暗やな」

「とにかく一度あなたの知り合いの所まで行きましょう」

「いや、しかし……」

「不安で仕方ないのは分かったわ、でもあのことは黙っておくから」

「……はぁ」


 気づかいなのか何も分かっていないのか分からないが、ペティと名乗った騎士はゲンジュウロウを連れて酒場へと向かう。

 酒場に着くと一人の大男が床で寝ていた。

 床やテーブルには無数の酒瓶が転がっている。中身は全て見事に空だった。


「ガルバはん、真昼間から飲んだくれて寝るとは……情けない話や」

「どうするの?」

「すまへんけど車持ってきますわ、運搬は頼みます」

「ああ、わかった」


 ガルバが持っていた金貨を酒場の亭主に渡し、客と数人係で持って来た荷車に乗せる。


「じゃあマスター迷惑おかけしましたわ。えっとそれと騎士様」

「ペティでいいわ」

「ペチ様、ありがとうな」

「ペティ!」

「許してくれ……僕、そういう発音が苦手なんや」

「……仕方が無い、じゃあ気をつけて帰りなさい」

「はいな、それじゃ……」


 荷車を引きながらゲンジュウロウは町を後にした。


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