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第三話 それゆけ すごろく珍道中 その2

「で、案の定といった所かな」

「そうね」


 馬車の窓から話しかけてくるマキナに、つい素っ気の無い態度をとる私。

 ゆっくりと進む馬車は一路、テランドゥへ向かっている。

 馬車の上の私の役割は魔物や敵がいないか確認する立場だった。


 まずあらかじめ言っておくが私は別にマキナについていく、などと一言も発したことは無い。

 しかし……。まさか今回の依頼主がマキナだとは全く思っていなかった。

 仕事内容はは依頼人の護衛。しかも破格の額で備品の類いは依頼人が用意。

 金欠の冒険者なら受けない理由は無かった。


「エリン、仕事は選んだほうが良いよ」

「選んでます。今日はこの仕事しかなかったの!」


 マキナの言葉に反論しつつ、動く馬車の上から周囲を見渡す。

 雲ひとつ無い晴れ渡った空がどこまでも続いている。

 荷台の二人、狩人のオルソンと魔術師のターニャはのんびりと後ろを眺めていた。

 普段は歩きなので、こういうときぐらいしか馬車に乗ることはない。

 御者であるハンスは私たちのやり取りを聞きながら、笑みを浮べているだけだった。


「はは、エリンのルームメイトはとてもひょうきんな奴だな」


 ハンスの言葉に反感を抱き、ついそっぽを向く。

 そんな私の子供じみた態度にハンスはますます大笑いをした。


「そう膨れるな! 悪かったって!」

「……でも金払いはいいのよね、マキナは」

「ああ、冒険者家業としては金払いの良い客は大歓迎さ」

「全く、何でこんなことになったのかしら?」


 愚痴りたい気分を何とか胸の奥にしまいこみ、再び周囲に警戒を配る。

 広い草原にはこれといって動く物は何一つ無かった。

 時おり、小鳥が飛んでいるがこちらにも目もくれない。


「エリンー、魔物とかいたー?」

「残念だけど何もないわ、山賊もいなければ魔物もいないわね」

「そっかー。じゃあ僕は寝るからー! しばらくしたら起こしてねー」

「分かったわ」


 再び馬車の中に引っ込むマキナ。

 退屈なのか、少し寝ては何か起きたかを聞いてくる。

 というか護衛対象がハプニングを望まないで欲しい。

 そして彼女の期待を裏切り、何のことも無く日は暮れ、野宿することになった。

 森の開けた場所で石を積み上げ、竈を作る私たち。


「やれやれ、今日は野宿か」

「そのようね」


 馬車の荷台から野宿用の道具を取り出す。

 やはり遠出をするならそれ相応の装備が必要ね。

 クエストを何度も受けているうちに野営の準備はあっという間に終わった。

 オルソンが近くで獲物を獲たらしく、大きなイノシシを持ってきた。

 みんなで焚き火を囲むとマキナはうっとりとした表情で炎を見つめる。


「うーん、こうやって大勢で焚き火を囲むのは本当に久しぶりだな」

「あら、マキナは野宿をしたことが無いの?」

「失礼な、僕だって野宿ぐらいしたことあるよ。僕じゃないけど」

「あなた、言ってることが矛盾してるわよ」

「いいじゃないか、とにかくそういうことにしておこうよ」


 そう言って大きな包みを取り出す。


「なによ、それ?」

「金網」

「なんに使うのよ?」

「これにお肉を乗せる!」


 そう言って包みから金網を取り出し、取ってきたイノシシ肉を上に乗せる。

 肉が焼ける臭いがする。油が金網から漏れ出し、パチンと音を立ててはねた。


「おおう、結構ダイナミックだなぁ。キャンプじゃないと見れない光景だね!」

「マキナ、ヨダレ」

「おっと……ごめんごめん」


 口元を拭うマキナ。まるで子供のようなはしゃぎ様だった。


「はは、二人はいつもこんな感じなのか?」

「それは……」

「うん、エリンは怒るけどね」

「怒ってないわよ、もう」


 焼けたイノシシ肉を、またもどこからか取り出したソースをかける。

 テリヤキソースって言ったかしら? それを塗るとイノシシの肉から香ばしい香りが漂ってきた。

 早速、イノシシの肉を口に入れるマキナ。

 

「うんうん、イノシシのお肉は独特の味わいがあって美味しいな」


 大判の肉をあっという間に平らげる。

 この前の鳥のソテーもそうだったけどもう少しくらい味わって欲しいわね。

 食事を終え、夜はさらに更けていく。周囲は静寂に包まれた。 


「それにしても夜はまた違った雰囲気だね」


 空を星が綺麗だった。何度も見ているがいつもと変わって見える。

 そんな私の気持ちを察したのか、マキナがこんなことを言ってくる。


「エリンは寝てていいよ、見回りぐらいなら僕がやっておくからさ」

「大丈夫? 魔物が出てくるかもしれないわ」

「魔物が出たらエリンたちを叩き起こすから大丈夫」

「それなら出ないように祈っておくわね」

「了解、ささおやすみ」


 こんなときだからと思い、マキナの提案に従う。

 普段とは違い、思い切って馬車の上で寝ることにした。

 少し高い所で寝ると違っていた。

 遮る物が何もない、まるで星空に包まれているような気分になる

 そのまま床に付くとまどろみが襲い掛かり、意識を失った。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 朝日が昇ると同時に背伸びをする。どうやらぐっすり眠れたらしい。

 竃の方を見やるとマキナは既に新しく火を興していた。

 火が付くと昨日の網の上でパンを焼く。


 朝にしても夜にしても食事は私が作るのが普段の日常。

 だがこういうときに限って楽しいのか、マキナが率先して食事を作っていた。

 マキナは私が起きてることに気が付くと手を振って挨拶をしてきた。

 

「おはよう! ……なんだなんだ、頭が回ってないって顔じゃないか、エリン」

「出なかった? 魔物とか動物とか」

「ときどきガサガサ音がした程度だったけど特に変なのは出なかったなぁ」

「そう……」

 

 皆で軽めの食事と終えると再び馬車に乗り込む。


「それじゃ、ハンスさん。おねがいね」

「おお、はっ!」


 手綱を振るうと馬が走り出した。森を抜けると再び野原へ飛び出す。

 このペースで行けば無事にたどり着けるだろう。

 だがそれを遮るかのように現れた物がいる。

 一番最初に気が付いたのはマキナだった。


「エリン、魔物だ」


 人の姿をしたネズミ、コボルトだった。

 手には鋭いナイフを持っているが数自体はそう多くない。

 私たちでも十分に対処できる。


「マキナ、あなたは馬車から動かないで!」

「ほーい!」

「オルソン、ターニャ。援護をお願い」

「了解!」


 馬車の中に引っ込むのを確認すると私たちは戦闘に入る。

 私たちの姿に驚いたコボルトたち、不意を付けば後は簡単。

 私の剣であっさりとその場に崩れ落ちた。正直、あまり歯ごたえが無かった。


「エリン! 後ろ!」


 突如背後から声をかけられた。

 振り向くと同時に、コボルトのナイフが目の前に迫ってくる。


「あっ!?」


 だがコボルトのナイフは途中で止まった。

 崩れ落ちるコボルトの後頭部にはカードが数枚、刺さっていた。

 カードを飛ばした先にはマキナの姿があった。


「おお、こいつを使うのは初めてだったけど……ちゃんと倒せるんだなぁ」

「マキナ……」

「いらぬおせっかいだったかな?」


 カードをくるくると回転させながらいたずらっぽい笑みを浮べる。

 

「いいえ、お礼を言うわ。ありがとう」


 そういうと恥ずかしいのか、再び馬車の中へと引っ込んでいった。

 

「……どうした?」

「いえ、ディーラーって戦えるものなのかしら?」

「さぁ、俺には分からんが彼女は戦えるってことなんだろう」

「そうね」


 ここ最近はこんな感じだった。わたしの知らない彼女が徐々に増えている。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ちょっと、ここで本当に良いわけ!?」

「当たり前だろー!」


 急な下り坂を馬車が走っている。

 馬車の上、天辺にいる私は激しい上下運動にさらされていた。

 飛ばされないように必死に天井にしがみつく。

 正直、身体全体が揺さぶられて腕が痛い。

 早く終わることを祈りつつ、馬車の行く末を見定めていた。


「エリン、大丈夫?」

「この程度なら問題ないわ!」

「うわわわ! ターニャ、しっかりしろ!」

「気持ち悪い……」


 ようやく平坦な道へと出た。勢いは徐々に収まり、そしていつものペースになる。

 すぐさま近くの水場へと馬を止める。


「あはははは! 面白かったねぇ!」

「どこがよ……。正直、いつ転ぶんじゃないかとヒヤヒヤしたわ」

「おおい、エリン。ターニャに水を持ってきてくれ!」

「分かったわ」


 道具袋からターニャに水の入った水筒を差し出す。

 吐く物を吐いて、気分は落ち着いたようだがはやり青白い顔をしている。


「はい」

「ありがとう……」


 水筒を手に取ると草葉の影に隠れてしまった。

 たぶん、口を濯いでいるのだろう。

 マキナだけではなく、御者のハンスにも一通りの釘を刺す。


「もう、ハンスも飛ばしすぎよ。こんなに速度上げたら酔うのは当たり前じゃないの」

「すまんすまん。だがあんな開けた道でスピードを上げるのは楽しくてしょうがなかったんだ」


 草葉の陰からターニャが出てきた。

 まだ青白い顔をしている。足取りも少々おぼつかない。

 調子を戻したとはいえない雰囲気だった。


「大丈夫?」

「問題ない……」


 口ではそういうがとてもそうには見えなかった。

 ため息とともに、今度はマキナが大声を上げる。


「エリン!」

「今度は何なの?」

「なんかでっかい魔物が来たよー!」

「……ターニャはそこでじっとしてて。マキナ、あなたにも手伝ってもらうわよ」

「ええ? 僕護衛対象なのに?」

「私には関係ないわ。せめてターニャが回復するまで時間を稼いで頂戴!」

「はーい!」


 襲い来る魔物に対し、私は剣を引き抜くのだった。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「それでテランドゥまではいつになりそうなの?」

「明日のお昼前ぐらいかな。このペースで行けば」

「そう……意外と速いのね」


 二日目の野宿。野宿に慣れたマキナは地図とにらめっこをしている。

 赤く燃える焚き火は風で揺れるが彼女は全く気にする様子は無い。

 燃え移ったりしないのかしら?


「油断するなよ、エリン。こういうのは、物事が完結する寸前でかなーらず、嫌なものが出てくるんだから」

「それもディーラーの経験?」

「うん。すごろくでいうと振り出しに戻るって奴」

「誰よ、そんな意地悪なマスを作ったの」

「ゲームを作った人に決まってるじゃないか。それに簡単にゴールさせたらつまらないだろ?」

「やってる側は早くゴールしたいのにね」

「そのジレンマがゲームの醍醐味って奴さ」


 笑うマキナに私はため息を付くしかなかった。

 夜も更けてきた。ハンスたちはもう床に就いたようだ。

 私もそれに続こう。


「おやすみなさい、マキナ」

「お休み、エリン」



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌日。


「マキナの予言が当たったわね」

「予言じゃないよ! これは……予想外だ」


 目の前には大きな岩。その岩が谷口の通路を塞いでいるのだ。

 ここを抜ければテランドゥへ行ける。

 それなのに進入禁止と言わんばかりにかのように居座っている。


 私は思わず岩に触れてみる。

 私の背丈の倍以上もある大きな岩は、ちょっと触った程度ではビクともしない。

 周囲には誰もいないことから撤去を諦めたのかもしれない。


「しかたがないわね。迂回しましょう」

「……本当に?」

 

 私の発言に対し、マキナが何かモノを申すかのような顔をする。

 どこと無くいやらしい笑み、こういうときには何かある。


「何よ? 笑みなんか浮べて……」

「エリン、今週のびっくりアイテムを使ってあげよう」

「びっくりアイテム?」

「ジャーン」


 そういって取り出したのはツヤツヤした黒い球体に縄が付いた物だった。

 正直、見た感じ嫌な予感が立ち上る。


「何よ、それは?

「聞いて驚け、こいつの名は……マグマ爆弾!」

「爆弾……? って何?」

「エクスプロードを知ってる?」

「ええ、中級の魔術師なら使える攻撃魔法よね?」


 群がる魔物を一掃する強力な魔法。

 私もゴブリンなどの数が多い魔物を相手に仲間の魔術師が使ったのを覚えている。

 しかし……それと一体何の関係があるのだろうか?


「それの強化版、コイツで岩を木っ端みじんこにしよう」

「強化版って……」

「使い方はとっても簡単、この導火線に火をつけるだけ!」

「火をつけるって……」


 唖然とする私を放置してマキナは黒い球体を岩の前に置いた。

 私たちは岩から十分の距離をとる。

 

「ターニャ! 準備はいい?」

「ええ」

「それじゃ、ファイヤー!」


 ターニャが呪文を唱えると小さな火の玉が爆弾の方へと向かい、導火線に火が付いた。

 シューというなにか不吉な予感がする音ともに導火線は燃え、徐々に短くなっていく

 そして炎が球体に触れると赤い閃光と爆発音が響き渡った。

 足元に岩の欠片が飛び散ると道を塞いでいた岩は完全に砕け散った。

 黒煙が立ち上る中、マキナは大きく手を握って喜ぶ。


「いよっし!」

「……本当にいろいろな物を持ってるのね」

「まあね!」

「さて進もう!」

「おお!」


 ハンスの声とともに馬車に乗り込む私たちだった。

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