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第三話 それゆけ すごろく珍道中 その1

「やったぁぁぁぁ! ついに四天王を倒したぞ!」

「ぐあー! ついにやられたかぁ……」


 手を挙げて喜ぶ男の子。それに対して膝を突くマキナ。

 カジノの店先では子供たちの楽しそうな声が絶えることなく続いている。

 

「楽しそうなことをしてるわね」

「エリン」


 マキナが私に気が付くといつもの調子へと戻った。

 カジノの前の通りでは子供たちは何かをやっている。

 小さなテーブルの前で向き合うと金属の何かにヒモを巻き付けている。

 合図が出る同時にヒモを引いて“何か”を回し、テーブルの上でぶつけ合う。

 

「これは……?」

「ベーゴマっていう遊び。子供からお年寄りまで誰でもどうぞ」

「おねえちゃん、アレ貸してー!」

「ほいほい」


 一人の女の子の呼びかけに応じると、何かを手渡す。

 小さな道具だった。板状の何かにくぼみがある。そこに先ほどのベーゴマを入れた。

 そして再びどこかのテーブルへと駆けていく。


「なによ、それ」

「ベーゴマを簡単に回せる道具。紐をつけて回すのが苦手な子専用のもの」

「ふん、あんなのに頼るなんてだっせぇな」


 先ほどの男の子だった。

 四天王を倒した、といっていた辺りかなりの実力者だろう。

 顔を始め、腕や膝と色んな所にばんそうこうを張っている。

 そんな彼にマキナはからかうかのような笑みを浮べた。


「おやおや? そのだっせぇのに負けて、吠え面をかいたのはどこの誰だったかな?」

「うぐ……あ、あんときは調子が悪かっただけだ」

「ふふ、それなら調子を戻してきなよ」


 子供の扱いに長けているのか、マキナの言葉に男の子は思わず黙る。


「お姉ちゃん、勝ったよー」

「よっしゃよっしゃ、褒めてやろう」


 先ほどマキナから道具を受け取った女の子だった。

 勝利報告とともにマキナが頭を撫でると女の子が嬉しそうな表情をする。

 それにしても……。


「……ねぇ、ここはカジノよね?」

「そうだよ」

「それなのにどうしてこんなことを?」

「オーナーの理屈で言うのなら先行投資ってやつかな。ああやって遊びになれた子供が大人になってここでお金をジャブジャブ使うというステキな投資さ」

「ちゃっかりしてるわね」

「……と、そうじゃなくても犯罪に巻き込まれるのを阻止する側面もあるかな。この街だと危ないおじさんなんかが子供を連れ去ったりするし、そもそも子供が遊ぶ場所が少ないからなぁ」

「……あまりいい話じゃないわね」

「うん、孤児だったオーナーの思いやりなんだと思うよ」

「そう……」

「とまあ、ここまで言っておいてなんだけどさ、エリンもベーゴマで遊ぶ?」

「……どうしようかしら?」

「仕方が無い、初回無料! いかがですかな?」

「遠回しに二回目からお金を取るってことじゃないの……。まあ良いわ、一度だけ」

「それならベーゴマを選んでよ」


 そう言ってマキナは箱からベーゴマを見せる。

 平べったいのや細いの、大きいのに小さいのまで実にさまざまだ。


「……へぇ、色々あるのね」

「そりゃあもちろん。ベーゴマの選びと回し方で大きな差が出るからねぇ。注意しなよぉ」

「そうやっていやらしい言い回しをするのは選んで欲しくない物があるってことね」

「ふふん、それはどうかなぁ?」

「じゃあこれで」


 見るからに角ばったものを選ぶ私。回すとなるとかなり強そうだ。


「良し、じゃあ僕はこれだ。公平を規す為にさっきの道具をお互いに使おう」


 お互いに板にベーゴマをセットし、それぞれ構える。

 真剣な表情のマキナを見て、思わず口が動いた。


「負けたらどうする?」

「こういうときにそういうものを持ち出すのはなぁ……」

「なら、私が勝ったらこの間の代金、立て替えておいてくれる?」

「うわぁ、あれかぁ……。えげつないなぁ」


 この間の代金とは剣を振ったときに出来た壁の修繕費だ。

 夜中に動き足りなくなり、つい部屋の中で剣の練習をしてしまった。

 後日、職人との相談で修繕をした貰ったが、手持ちがないため現在は保留という形を取っている。

 それを目の前にいる彼女に立て替えてもらおうとしているのだ。

 自分のやったことなのに他人に背負い込ませようとする辺り、私もこの町の住人になってきたのかもしれない。


「じゃあ僕が勝ったら金魚を買ってね」

「それじゃ……」

「初め!」


 合図とともに二つのコマがテーブルへとはじき出された。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

「……はぁ、やっぱ勝負をするんじゃなかったわね」

「いいだろ? 僕はこいつを買えて大満足だ」


 彼女の手には水袋に金魚が入った金魚があった。


 試合結果だけを言うのなら、角ばった私のコマはマキナのコマを綺麗に弾きかけた。

 しかし土壇場でマキナのコマは綺麗な曲線を描き、私のコマの背後に。

 気が付けばそのまま押し出される形で弾かれた。


 賞品である金魚は、彼女の勝利を称えるが如く水の中を悠々と泳いでいる。

 しかも普通の赤ではなくくすんだ青色の金魚。ちょっと値が張るものだった。

 正直に言えばこの出費はかなり痛い。


「好きなの? 金魚」

「金魚っていうか水の中の生き物は結構好きかな。蛙は除くけど」

「苦手なの? 蛙」

「昔、口の中に飛び込んでえらい目に会った」

「なるほど……」

「マキナさん!」


 納得をした私の前に彼女の同僚が現れた。

 仕事をサボって金魚をかいに言ったのがばれた……ようではない。

 息を切らせて慌てる彼に私はじっくり彼のことを思い出す。


 短髪の黒髪と私よりも若干低めの身長。

 そしてマキナと同じディーラーの服を着ている。

 私の知り合いで言えばレナードとはどこか似ている。

 だがレナードと違ってちゃらんぽらんさは無い。

 どちらかと言えば相手に振り回されるようなタイプだった。


 どこかで見たことがあるような……。

 ああ、確か強盗事件のときにお金を出していた彼。

 たしか……名前はトムといったわね?


「さ、探しましたよ!」

「どうしたの、そんなに息を切らせて。何かあったの? うちのカジノが潰れたとか?」

「そんなわけ無いじゃないですか! それよりもマキナさん。巡礼に行きましたか?」

「巡礼?」

「そうか、もうそんな季節か。年月が経つの速いもんだ」


 腕を組んでしたり顔で頷くマキナ。

 一方のトムは焦りっぱなしだった。


「オーナーがそれでカンカンですよ、巡礼してないのマキナさんぐらいなんですから」

「あれ? トムはもうやったのかい?」

「ええ、もちろん。というか先日の騒ぎのとき締め出されて本当に大変でしたよ」


 先日の騒ぎと言うのは私とマキナが解決した富豪殺人の件だろう。


「そっか、なら僕も準備をしないとね」

「……一体何の話? わけが分からないのだけど……」

「細かい話は帰ってからするよ」



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 マキナが金魚をガラス張りの水槽に入れる。

 その間に私は夕食の準備をする。今日のご飯は鳥のソテーだ。

 程よく焼けた鶏肉を食卓へと持っていく。

 ダイニングの棚に置かれた金魚は先ほどよりもっと悠々と泳いでいる。


「それで……巡礼って何なの?」

「ディーラーの宣誓書というか……免許更新というか……儀式というか……まあそんな感じかな?」

「そんな感じって……ちゃんと説明して頂戴」

「わかったよ、まず順を追って説明するね」


 こんがりと焼いた鶏肉を切り分けながら彼女はゆっくりと話をし始める。


「まずディーラーに求められる物ってなんだと思う?」

「そうねぇ……手際のよさとか?」

「そんなものは後で十分身に付く。技術的なものより心構えの方が重要なんだ」

「心構え?」

「そう、ディーラーは色んなお客さんを相手にするんだ。気遣いが出来る素敵な人。暴言ばかり吐く最悪な人。相手を挑発してくる人もいれば気弱でじっくり勝負をする人もいる」

「結構大変なのね」

「当然、もっと褒めてくれて良いよ」

「それで……」

「例え相手がどんな人だろうと対等かつ誠実に相手をしなきゃいけないんだ。こいつは良い人だから勝たせてあげよう、とか。こいつは悪い奴だから負けさせよう、とか、そういうのはディーラー失格なんだって」

「とても信じられないわね」

「そりゃあそうさ。僕も一応イカサマの一つや二つ使えるけど、よっぽどなことがない限り、使わないよ。そもそもイカサマは禁じ手だしね」

「あら、その言い回しだと場合によっては使うってことよね?」

「うん、まあその辺りは人それぞれだからなぁ……。まあともかく、下手な騎士道なんかよりも正々堂々とするのがディーラーの資質なんだって」

「……そう」

「で、自分は公平を重んじ、真実を告げる者である。と神さまに宣誓するわけだ」

「公平と平等ねぇ……」

「ディーラーはどの陣営にも属さない公平な立場じゃないと、みんな安心してギャンブルが出来ないんだ。君だって賭け事が特定の組織とかとつながりがあったら嫌でしょ?」

「……私は逆にそういうものだと思ってたわ。そのために裏のつながりや罰する法律があるんですもの」

「まあお金が動いてるからそういう考えの人も多いけどなぁ……。それは偏見であると僕は言っておきます」

「……それでマキナはその宣誓のために何をするの?」

「ここから北西にあるテランドゥっていう町に行って宣誓の証のアミュレットを貰ってこないといけないんだ。だからしばらくの間部屋を留守にするなぁ」

「へぇ、じゃあしばらくの間のんびり出来そうね」

「出来るの良いねぇ」

「何よ、その言い方」

「一応自慢じゃないけど……僕の予感としては……」


 なんだか煮え切らない態度のマキナ。

 気が付けば鶏肉をあっという間に平らげていた。

 これもイカサマの一種なのかしら?

 話ながらも手を休めない辺りが実に彼女らしい。


「まあその日になったら言っておくよ」

「はいはい」

 

 私たちの話を聞いていたのか、金魚がこちらを見ながら口をしきりに動かしていた。


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