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第二話 ディーラーの流儀 その3

 支度を整えると二人で富豪の家へと向かう。

 が、その前に休みの許可を得るためにカジノへ行きたい。とマキナを言った。

 仕方が無いので店先で彼女が出てくるまで待つことにする。

 時間にして夜。昼間とは違い、街には人で溢れていた。

 

「おまたせー!」

「許可を貰ってきた?」

「うん、慇懃無礼かつ仕事をしない騎士の鼻っ柱をへし折ってこいってさ」

「そう、それじゃあ行きましょう」


 歩いてそれほどとしない町外れの大きな屋敷。

 無数の小さな窓から明かりが漏れていた。

 だが働いてる人は誰もいなくなってしまったのか、門番だけだった。


 マキナは門番に一枚の紙切れを見せると、あっさりと通してくれた。

 ただし、顔は苦渋に満ちたような形相だったが……。


「アレは何?」

「オーナーの書状。この街ではオーナーはそこそこの権力を持ってるんだよ」


 オーナーの正体が気になりつつも、私たちは広間を抜けて奥へ奥へと進む。

 それにしても富豪というだけはある。

 赤いじゅうたんに見たことのない絵画。煌びやかな廊下に目が眩みそうだった。

 そして目的の部屋へとたどり着くと厚みのあるドアを開け放つ。


「さあ、エリン。現場付いたよ」

「……ひどい有様ね」


 人が死んだ場所というのも一応頭には入っていた。

 だがこうまで凄惨な部屋を見ると言葉を失ってしまう。

 血が部屋全体に広がっていたのだ。

 誰も窓を開けようとしないのか、生臭い臭いが今でも漂っている。

 聞いた話だと富豪は首を綺麗に切り裂かれて亡くなっていたらしい。

 

「さて、早速……」


 マキナが懐から何かを取り出した。どこにでもあるオペラグラスだった。


「タイムグラスー」

「なによ、それ」

「過去の映像が見られるスペシャルなアイテム! これで事件当時の状況をみてみようってわけ」

「なるほど……」


 私の分もあるらしく、同じ物を手渡される。

 金色のオペラグラスはこの屋敷と同じぐらい綺麗なシロモノだった。

 早速メガネをかけてみる。血まみれの部屋が別の姿を見せた。


 金に溢れた調度品が並ぶ部屋で富豪がウイスキーを手にしている。

 かなり酔っているのか今にもひっくり返りそうな有様だ。

 犯人の存在を探すために周囲に気を配ってみる。だが犯人の姿は見受けられない。

 怪しげな人物もいなければ、魔物の姿かたちも見えることはなかった。

 何もないまま、しばらくすると……。


「……え?」

 

 私は自分の目を疑った。

 富豪の首筋から突如、血が噴出し始めた。

 誰かが斬ったわけでもない、部屋の中に犯人の姿はどこにも見えない。

 それだというのに血は止まることなく辺りに撒き散らす。

 声を出すことも無く、富豪はそのまま息絶えた。


 すぐさまグラスを外し、マキナの方を見る。


「ど、どういうことなの!?」

「どうもこうもないよ、そのままでしょ?」

「そのままっていったい誰が……」

「誰がって……もう一度見てみたら?」

「……そうね」


 もう一度見てみる。

 だがどう見ても酒を飲んでいる最中にいきなり血が噴出した。

 先ほどと同じ光景ばかり写っている。

 分けが分からずマキナに答えを問いただす。


「……マキナ、いったいどういうことなの?」

「エリン、僕の考えが正しければ……富豪さんは呪いがかかったアクセサリを着けてて、その呪いが暴発して死んだんじゃないかな」

「ありえないわ」

「ありえないも何も、このレンズで見たことは紛れも無い事実だよ」


 マキナの言葉を確認するためにグラスをもう一度見る。

 たしかに富豪の首元には緑色の宝石がついたネックレスをしている。

 それが弾けると富豪の首から勢いよく流血するのだ。

 呆然とする私に対し、マキナはすぐさま床に這りつく。


「多分、あの後アクセサリーはどこかに飛んでいっちゃったんだろうな」


 ベッドの下やタンスの横を探すマキナ。

 私はそれをただ見ているだけだった。正直言って頭が追い付かない。

 それ以前にそんなものがあることが信じられなった。

 そんな私にマキナが発破をかける。


「エリン! しっかりしなよ! レナードの無実を証明する絶好のチャンスだよ!」

「そ、そうね!」


 気を取り直し、私も周囲を見渡してみる。

 どこかにあるアクサセリ。それが全ての鍵。あっ……。


「クローゼットと棚の間に何かあるわ!」

「本当!? 早速探してみよう!」


 クローゼットと棚を動かしてみる。

 中に入っている物や床のことなど気にせず力任せに引っ張った。

 ある程度手が届きそうな距離になると思い切り手を伸ばした。

 固い感触が指先から伝わってくる。なんとか取り出したのは緑色の宝石だった。

 普段ならコレは高値で売れると喜びたい所。

 だが血に塗れていておぞましさを醸し出していた。


「これが……?」

「うわ、凄いルーン。かなり高度だよ」

「……私にはよく分からない物ね」

「うん、それが普通だよ。さあ、これを騎士団のやつらに持っていってやろうよ」

「……ええそうね、でもいったい誰がこんな物を……」

「エリン、この街で金銭を得る奴が真っ当な人間だと思うかい?」


 無実の人間を犯人に仕立て上げるこの街では、まともな人間なんていない。

 そう言いたげなマキナの視線に、私は何も言い返すことが出来なかった。

 とにかくこれでレナードの無実は晴らせるはず。

 嫌な臭いが立ち込める部屋をを後にした。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌日、私たちが持ってきた証拠が聞いたのか、レナードの釈放はあっさり決まった。

 これは本当に凶器なのか? どこからか持って来たニセの証拠なのでは?

 その二つの疑問を実践してみればいいの一言で黙らせる。

 流石に本物であった場合、自分の首がすっ飛ぶことになるのだから。

 その前に普通に魔術師にルーンの解析を行ってもらい、きちんとした証拠としたのだが……。

 刑務所の門から出てくるレナードはフラ付いた様子だった。

 

「レナード、大丈夫?」

「ああ、助かったよ。エリンさん」

「お礼なら私のルームメイトに行って頂戴」

「ルームメイト?」


 マキナの方を見やると手をひらひらさせている。


「とにかく無実が証明出来てよかったわね」

「はい、本当にありがとうございます。ではまた後で……」


 レナードと別れるとマキナは深いため息をついた。


「あーあ、これでオーナーに貸しが出来ちゃったな」

「行くときにやってこいって言われてたじゃない」

「そうじゃないにしてもオーナーの後ろ盾を使いまくったからなぁ……」

「そんなに怖いの? それともオーナーに引け目でも感じてるわけ?」

「いいや、ただやっぱこの手のことには権力って必要なんだなーと思ってさ。あと休みを返上して働けってさ」

「……ごめんなさいね」

「いいさ、オーナーはああ見えて僕を買ってくれてるしね」


 またいつもの軽い笑みを見せるマキナに、あのときの事も聞いてみる。


「ところでマキナ、どうして私にカードを切らせたの?」

「へ?」

「普通ならカードを混ぜ切るのはあなたの仕事でしょ? それなのに私に切らせたんだから」

「たぶん……試したんだろうな」

「試した……」

「エリンが卑怯なことをしないか、それは本当に本心からなのか、まあ色々信じられなかったのかもしれない」

「もし、私がずるい事をしたら……?」

「その時点で勝負は終了。レナードは死刑、君は……どうなるんだろ? まあろくでもないことになるのは明白かな」

「……そう」

「ありがとう、エリン」

「マキナ……」


 子供みたいな不器用さと純情がマキナの魅力なのかもしれない。


「……さて、赤い物を見た後は白い物を見に行きましょうか」

「白い物って何さ?」

「ジャーン」


 一枚の紙切れをマキナに見せ付ける。


「それは……ホールズのシュークリーム引換券じゃないか!」

「食べに行く?」

「当然だろ!?」

「じゃあ行きましょうか」

「やっふう! 今日の僕はとてもついてるぞぉ!」


 まるで子供のように喜ぶマキナ。

 私たちはお目当てのシュークリームを食べに行くのだった。

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