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第二話 ディーラーの流儀 その2

「捕まった!? レナードが!?」

「ああ、そうだ」


 早朝、ギルドにやってきた私はマイヤーの話を聞いて驚く。

 私以外にも寝耳に水らしく、寂れた冒険者ギルドの中は珍しく騒然となっていた。


「なんで、どうして!?」

「分からない……」


 脳裏に茶色のマントに身を包んだちゃらんぽらんな顔を思い浮かべる。

 いまいち締まりの無い顔のレナード。ずうずうしい態度もいないと少し寂しく感じている。

 それに彼の道具で私も、仲間も、結構助けられることも多かった。

 しかし正直、とても人を殺すような性格とは思えない。

 戸惑う私たちにオルソンが横から口を出してきた。 


「たぶんアレを持ってたからかな」

「ああ、それが決め手になってしまった」


 オルソンの言葉にマイヤーが頷く。

 私も彼の持ち物で思い当たる物が一つだけあった。


 魔物の呼ぶ笛。

 吹くと自分の周囲に魔物を呼び出すマジックアイテムだ。

 マイヤーの話ではこれでシャドウストーカーなりを呼び出し首を狩った、らしい。

 確かに影の殺し屋の異名を持つシャドウストーカーは、切れ味が鋭い爪を持っている。

 また音も無く忍び寄るため、熟練の冒険者で無ければ気配すら気が付かない。


 しかしシャドウストーカーはかなりの強い魔物。簡単に呼べることは無い。

 さらに言えば富豪の家にレナードが行く理由もなかった。

 被害者に借金をしてるわけでもなければ、個人的な付き合いすらなかった。

 それだというのにレナードは捕まった。笛を持っているというだけで。

 あまりに穴だらけの立件に私は憤りを感じ、思わずマイヤーにぶつけてしまう。


「無茶苦茶じゃないの!」

「奴らにとってしてみればこれで事件解決。騎士団の名誉は守られたってわけだ」

「ひどすぎる……直接抗議をしてくるわ」

「まて! 相手は騎士だ。下手に手を打てばレナードも危険だぞ」

「それはそうだけど……」

「それよりも今日のクエストを優先しよう。クエストが終わったらギルドの面々と相談だ」

「分かったわ」

「それじゃ、クエストをこなしてしまおう」


 釈然としない物を感じながら私は目の前の仕事に向かっていった。

 冒険者にだって社会的な権利はある。そうじゃなくても冤罪なんて誰もがごめん。

 それを自堕落な理由で汚すのはどうにも許せなかった。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ただいま……」

「おかえりー!」

「疲れた……」

 

 ふらついた足取りで玄関を通り、そのまま身体をリビングのソファーに投げ出した。

 疲れた身体はかなり正直だった。横になっただけなのにまぶたが重い。

 身体全体が起き上がるのを拒否してきた。


「こらこら、ソファーはベッドじゃないから寝転がるのはやめてよ」

「うー、動きたくないわ」

「一体どんなクエストだったのさ」

「クエストじゃないの、レナードのこと」

「レナードのこと?」

 

 私はマキナにレナードのことを話した。

 みっともない話かもしれないが私はイライラを誰かにぶつけたかったのかもしれない。

 一方のマキナはアイスクリームを手に、私の話を話半分に聞いていた。


 あの後、私は騎士団の詰所に向かった。

 逮捕理由の穴を声高に主張したが私では決められないの一点張り。

 最終的に詰め所を追い出され、そのまま尻尾を巻いて引き下がるしかなかった。


「なるほど。人間の技じゃないから魔物の仕業ってわけか。ひどいなぁ」

「でしょ? だからどうにかしたいの」

「どうにかねぇ。でも向こうは石頭だからなぁ。レナードじゃない証拠でもあれば良いんだけど……」

「レナードじゃない証拠、ねぇ……」


 はっきり言ってそんなものはない。

 下手に騒いでも騎士たちは意にも返さないのは明白。

 そもそも魔物を呼ぶ笛は実戦経験をつむために使われるもの。

 いつでもどこでも笛を吹けば現れるというわけじゃない。

 逆にレナードである証拠も向こうは持っていないはず。

 しかし――。 


 考えが堂々巡りになった頃、ふと、こんなことを口にしてみる。


「……ねえ、あなたなら何か知ってるんじゃないかしら?」


 マキナには前回の強盗の件もある。私の知らない何かをマキナは知っているはず。

 今回の件だってマキナが何らかの作用をすれば解決できる。

 しかしマキナは口を閉ざしてそっぽを向いてしまう。

 引き受けるのはイヤだといわんばかりに。


「エリン、僕はね……自分のためにならないことはしない主義なんだ」

「そんなこと言わないで」

「だーめ、善意を強要するのは悪い人がすることだよ。僕だって知ってるんだから」

「それはそうだけど……」

「とにかく、ただで物事を教えて貰おうだなんて卑しいにもほどがあるって事さ」

「……わかったわ、今回は引き下がってあげる」

「うんうん、エリンが賢くて僕は嬉しいなぁ」


 俗っぽく言うのならただでは教えられない、とマキナは言ったのだ。

 彼女はディーラー。もしも何かを求めるなら対価が必要。

 明日辺り、確保しておこう。ギャンブルに必要な元手を用意するために。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 次の日、牢屋にいるレナードに面会を申し出た。

 それぐらいなら問題は無いのか、すんなりと中へと通された。


「ああ!? マイヤーさん! それにエリンさん!」

 

 私たちの姿を見つけると鉄格子をこれでもかと揺さぶるレナード。

 意外と元気そうだったので私も胸をなでおろす。


「元気そうだな、レナード」

「はい……じゃなくて! お二人からも何かをいってください! 僕はやってないって」

「もちろん信じてはいるけど……証拠は何もないのでしょう?」

「うっ……」


 私の言葉にレナードは言葉を詰まらせる。

 やっていない証拠をもってこい。というのはどうにも苛立ちを隠せない。

 普通ならばレナードである証拠を提示するのが普通。

 だが向こうは機密という言葉を盾にして動こうとはしない。

 アリバイを証明する物も連れて来たが口裏を合わせているだの、全く相手にされない。

 このままではレナードは死刑にされてしまう。

 横暴が過ぎるのだが仮にも向こうは権力者。目を付けられたら最後。

 こうなったらマキナに何とかしてもらうしかない。


「待ってて、知り合いにこの手の話に強い人を連れてくるから」

「お、お願いします」


 私の言葉にレナードはすがるかのように頭を下げた。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 レナードの裁判は三日後と迫る中、私は小さな小包を手に家に帰る。


「ただいま」

「おかえりー」


 玄関を開けるとマキナが掃除をしていた。

 私が食事を作るとするなら彼女は掃除と洗濯を担当する。

 気が付けばそれが当たり前の日常になっていた。

 集めたゴミを袋に入れるとその幕地を固く縛る。一段楽したのか一息ついた。

 そんなマキナの目の前にいかにもが好きそうなモノを見せてみる。

 それを見せたとたん、彼女の機嫌が一気に上向いた。


「おおっ、ショートケーキじゃないか!」

「マキナ、これで勝負してくれないかしら?」

「うーん、仕方が無い。そこまで言うのなら勝負をしてあげよう」


 掃除用具を棚にしまい、顔を洗ってリビングに向かう。

 お互いに退治するかのように椅子に座ると、早速箱からカードを取り出した。


「エリン、覚えてる? 初めて君が僕のカジノに来てくれたこと」

「ええ、覚えているわ。あの時はルールが分からなくてごめんなさいね」

「いいのいいの。さて、今回もシンプルに行こうか」


 私の目の前にカードが一セット置かれる。


「ほんじゃ、シャッフルよろしく!」

「分かったわ」


 早速カードを混ぜ始める。混ぜている間、暇なのか窓の外を眺めていた。

 そんな彼女の横顔を見ながらこんなことを思ってしまう。

 こうしてみると普通の女の子なのにね。

 私はそんな彼女の不可思議な力に頼ろうとしている。

 良い事なのか、悪いことなのかは分からない。でも―― 

 すると、まるで心を読んだかのようにマキナがゆっくりと口を開いた。


「それにしてもエリンは正義感が強いなぁ。それだと不運に巻き込まれるよ」

「そうかしら?」

「自己保身って言うのは悪いことじゃないんだよ。ただ行き過ぎると不愉快に映るんであってさ」

「でもそれだと私が納得できないわ」

「それで自分が不幸になっても僕は知らないからね」

「あら、あなたは私が思っているほど薄情な人間ではないわ。……はい、混ぜ終わったわ」

「んじゃ、早速……」


 マキナはカードを二枚引くと、私の前に右と左に一枚ずつ差し出した。


「どっちがいい?」

「……左で」


 マキナは左のカードをめくる。ハートの7。

 カードを見ると同時に顔が何かを失敗したかのようにため息をついた。


「うあー、運が無いねー」

「どうして?」

「これから始まる勝負について説明するとだ、右のカードは左のカードより大きいか小さいかを当てるゲームなんだ」

「なるほど……簡単なルールね」


 お互いのカードを見比べる。右のカードが高い壁のように感じた。


「でもさ、エリン。運がないもほどがあるよ。このゲーム、ハイ&ローは6と7が一番大変なんだ」

「そうなの?」

「2とか3なら上だと読めるし、(キング)(クイーン)だと下の確率が高いんだよ。でも真ん中はそうじゃない」

「半分半分になっただけじゃない」

「50%は数字以上に結構大変だよ」

「……始まる前から威圧的なことを言うのはミスを誘うためのプレッシャーね。それに」

「それに?」

「終わってもいない事に何かいうのは……マキナらしくないわ」


 思わず売り言葉に買い言葉のような強い口調になってしまう。

 だが……負けられない。この二枚のレナードの運命がかかっているのだから。


「……さあ、どっち!?」

「高い」


 言葉を発すると同時に彼女がカードをめくる。

 カードの中身はスペードの8だった。

 カードを見た瞬間、マキナは目を見開く。

 そのまま背もたれに寄りかかり力なくだらけ、大きく息を吐いた。


「……まいった、エリン。僕の負けだ」

「ふぅ……。ヒヤヒヤしたわ」

「さて、富豪殺人事件を暴きに行こうか」

「あら、その前にショートケーキは良いの?」


 席から立ち上がるマキナに、思わず待ったをかける。

 勝敗は別にして、本当はマキナにケーキをあげるつもりだった。

 しかし、マキナは冗談じゃないと肩をいからせて憤慨する。 


「僕にも流儀ってものがあるんだ。勝てば獲る。負けたら失う。それがギャンブル。それがディーラーの流儀。絶対に破っちゃダメなルールなんだ」

「わかったわ、それなら……」


 彼女の前の前でショートケーキを食べる。

 正直、時間が惜しいと思い、つい手掴みでほお張る。

 甘い香りと優しい甘味が口いっぱいに広がる。いちごの酸っぱさも良いアクセント。

 案外ショートケーキを言うのも悪くない。

 その光景を見たマキナが悲しそうな声をあげた。


「……エリン、せめて素手じゃなくてフォークぐらい使いなよー」

「どう食べようが私の勝手、そうでしょ?」

「まいった、ぐうの音も出ないよ」


 指についたクリームを舐め取りながらマキナの支度を終えるのを待った。

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