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第一話 モルゲンディータのディーラー マキナ その2

「それじゃ解散だな」

「お疲れ様」


 パーティーの面々に手を振って帰路に着く。

 珍しく長丁場のクエストだった。

 中身自体はシンプル。ある鉱石を取ってきて欲しいという簡単なクエスト。

 だがその山まではかなり長く歩くことになり、帰ってくる頃には星が瞬いていた。

 ……せっかくだし、マキナの所にでも行ってみようかしら?

 そう思うと私の足はマキナのいるカジノに向かう。


「すごいわねぇ……」


 入り口から言って、いかにもなカジノ。

 ネオンが稲妻のように輝き、何かが動く音が外からでも聞こえてきた。

 煌びやかな世界に目が眩みつつ、中へと足を踏み入れる。


 赤いじゅうたんが敷き詰められた部屋の中は、さらにまぶしく感じる。

 色とりどりのテーブル、音がなる機械にボールが回るルーレット。

 まるで別の世界に来てしまったような感覚に捕らわれる。

 落ち着いて周囲を見渡すと彼女の姿が見つけた。


「マキナは……そこね」


 客商売なのか相手に笑顔を振りまいていた。

 早速彼女のテーブルへと向かう。

 すると一人の男がテーブルの上に屈服していた。

 マキナはからかうかのように男に向かって声をかける。


「はーい、残念無念また来週」

「くっそぉ! あそこで引けたら………ああああああ!」


 頭を抱えて悶絶をしている。

 どうやらギャンブルに負けたようだった。

 マキナは私に気が付くといつもと変わらない態度で接してきた。


「おや、珍しい。賭け事なんて興味が無いと思ってたのに」

「珍しいって……私だってたまにはこういう場所に行ったりするわ」

「はは、でもギャンブルはオススメしないなぁ。こういうのは地道に働くのが一番だよ」

「……はっきり言ってディーラーの意見とは思えないわね」

「まあね、これでも破滅をした人間はいっぱい知ってるからねぇ」

「でも少しだけなら良いはずよね?」

「うん、少しだけなら」

「じゃあ一回だけ勝負をお願い」

「いいけど……どれくらいかける?」

「これで」


 一枚のコインをテーブルの上に置くと彼女は顔をしかめた。

 大きく賭けないことが嫌なのか、それともただ足りないのか?

 いたずら半分で聞いてみる。


「足りないかしら?」

「うーん、まあいいか。それじゃ……」


 青い文様が入ったカードを流れるかのように綺麗に広げる。

 そして一度全部ひっくり返すと私に目配せをする。

 たぶんイカサマはないことへの確認だろう。

 私が小さくうなずくと再びカードを一つにまとめる。

 そしてまるで手品か何かのようにカードが右往左往し、そして配られた。

 私に五枚、マキナに五枚。


「これは?」

「ポーカー。ルールは分かる?」

「いいえ」

「それならシンプルに大小で決めよう。五枚のカードの中から一番強いのを出すんだ」

「……分かったわ」

 

 私は配られたカードを見てみる。10と7と2と4とK……。

 Kと書かれたカードは数字ではなく王様の絵柄が描かれていた。

 スミの方にマークが書いてあるがこれは関係ないわね。

 意味も分からず、私は10を出してみる。


「ほい、僕は準備完了したよ」

「なら私はこれで……」


 お互いのカードを見せ合う。

 彼女が出したカードはJ。私が出したカードは10。


「僕の勝ちだね」

「そうなの?」

「そうなの? って……ならカードを見せてよ」


 彼女に言われた通りカードを見せる。


「うあ、(キング)のカードがあるじゃないか。これを出したら僕の負けだったのに」

「どう強いのか分からないわ」

「うーん、今度じっくりとカードの何たるかを教えてあげた方が良さそうだね」


 ニヤリと笑う彼女に対し、私は少し苛立つ。

 負けたことが悔しいのか、マキナにふんぞり返られたのが悔しいのか……。


「ならもう一度――」


 そんなときだった、カジノの扉が勢いよく開く。


「動くな!」

「金を出せ!]


 突如、武装した三人組の強盗団が現れた。

 顔は覆面をしているが、かなり怖い様子は見受けられない。

 だが、武器を突きつけられたせいか一斉に辺りは静かになった。

 手にはくたびれたようなロングソードとボウガンをこちらに向けてくる。

 一人が手短な従業員に詰め寄り、襟首を掴んだ。


「早くしろ!! 早く金をこの袋の中に詰めるんだよ!」

「は、はいぃぃぃぃ!」


 従業員の男性が奥の金庫から大量の金塊を取り出そうとする。

 けれど何かモタついているのか、強盗は苛立った声をあげる。


「おせぇぞ! 何やってやがる!」

「す、すみません。何しろここの金庫は入れるのは簡単ですけど。出すのが大変で……」

「なら手元にあるのだけで良い! よこせ!」

 

 そういって奥の方へ入っていく。

 動こうとすればボウガンの矢がこちらへと向けられる。

 一向に好転しない事態を見るに見かねて、つい腰の剣に手が伸びた。

 ボウガンは厄介だが上手く踏み込めば、一撃で斬り捨てることが出来る。

 だがそれをマキナが制した。


「やめなよ、怪我するよ」

「けどあのままじゃ……」

「下手に刺激したらトムが危ないよ? こういうときはじっくり耐えることだよ。ギャンブルも一緒さ」


 そんなやり取りをしてるうちに、強盗が出てきた。

 かなり溜め込んでいたのか、重い大袋を肩に背負っている。

 満足をしたのか手を上げて二人に合図を出す。


「ふん! ズラかるぞ!」


 ボウガンをこちらに向けたまま去っていく強盗団。

 出入り口である扉が閉まるとカジノは安堵の声が漏れた。


「びっくりしたねぇ、流石の僕も寿命が縮まるかと思ったよ」

「……びっくりした、じゃないわよ! 取り逃がしちゃったじゃない!」

「エリン、別に良いじゃないか。それに捕まえたからって賞金が手に入るわけじゃないよ」

「それは……」

「それよりもさ、今度はどんなゲームをする?」


 通常営業モードの彼女に嫌気がさし、頭を抱える。


「……帰るわ」

「そう、じゃあまた来てね」


 彼女は手を振るとそのままカジノを出て行った。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 次の日、昨日の強盗団を捕縛するクエストが張り出された。

 手配書は覆面の三人の顔が描かれている。

 それを私は他の冒険者とともに眺めていた。


「やあ、エリン。調子はどうだい?」

「……ええ、問題は無いわ」


 声をかけて来たのはマイヤーだった。彼は私と同じ冒険者だ。

 大きな鎧、茶色の髪と無精ひげが特徴的。

 背中に背負ったハルバートがとても似合っている。

 柔らかな物腰から言って、正直、この街に不似合いな人だった。


「なにやら不機嫌なようだが……何かあったのか?」

「実は……」


 マイヤーに昨日のことを話す。

 強盗が来たのに何もしなかったこと。それを意に返さないマキナのこと。

 とにかく愚痴を吐き出す。一方のマイヤーは話に対して、ひたすら頷くだけだった。


「なるほど、それは気分が良くないな」

「でしょ?」

「だが気にしない方が良い。この街ではありとあらゆることが娯楽になるのだから」

「娯楽……ね」

「あのまま生け捕ったとしても謝礼金も出ないからな、ある意味いい判断と言える」


 マキナと同じような発言をするマイヤーに少し苛立った。


「役人は?」

「あいつらは役に立たん。その証拠に今回の件を冒険者に任せるとさ」

「なによ、それ!?」

「それよりも例の強盗団はまだ街の外に逃げていないらしい。手分けをして探そう」

「そうね。私はオルソンたちに話をしてくるわ」

「頼むぞ」

 

 私は仲間であるオルソンたちにクエストの内容を伝える。

 強盗団の特徴はシンプルだった。リーダー、剣士にボウガン使い。

 何より私は彼らの仕草をこの目で見ている。十分有利な条件だ。

 街の地理には疎かったがマイヤーとオルソンの二人のおかげで難なく追い詰めることが出来た。

 しかし……。


「一人が逃げたぞ!」

 

 うかつだった。

 三人ともまとまった行動していたおかげで捕縛自体は簡単だった。

 しかしそのうちの一人が隙をついて逃亡されてしまった。

 すぐさま追いかけるが意外にも足が早い。細い路地裏を全速力で走るが追い付けない。

 相手の方は障害物など気にも留めず、一直線。差だけがつけられていく。

 

「そこまでだ!」


 先回りした仲間が強盗の前に立つ。

 しかしすぐさま横にある細い路地を駆け抜けて良く。

 私も追うが強盗はある建物の中へと入っていった。


「ここは……」


 マキナのカジノだった。準備中の札が掲げられていたが鍵は開いている。

 すぐさま中へと入る。薄暗い中、カジノの奥へ進んでいく。すると――。


「動くな!」


 中を見ると案の定、マキナが人質になっていた。

 そばにはモップとバケツがあり、掃除をしている最中だったようだ。

 その隙を付かれ、そのまま羽交い絞めにされている。

 首筋に当てられたナイフが暗い中、眩しく光っていた。


「マキナ!」

「エリン、たすけてー」


 声の感じから言って恐怖を感じているようには見えない。

 むしろ、気が抜けたかのような軽い口調だった。


「動くなよ、こいつの命が惜しかったらな」


 必死の形相で威嚇をする強盗。

 腰につけた剣に手を伸ばそうとすると、さらに刃物が首へと近付く。

 しかしマキナのほうはあっけらからんとした顔で強盗と私を交互に見やっていた。


「あのさぁ、無駄な抵抗はやめた方がいいよ。このままだと他の人がやってくると思うし……」

「うるせぇ! 人質は黙ってろ!」

「だってさぁ……」


 どうしようもない、といった顔でため息をつくマキナ。

 状況的に言えばお互いに動けない。

 私が動けばマキナがやられる。しかしあちらが動けば私が。

 マキナが観念したかのような声をあげた。


「……仕方が無い、このカジノに伝わる秘密の通路を君に教えてあげよう」

「マキナ!?」

「へっ、マジかよ!?」


 突然の彼女の提案に、私も強盗も目を白黒させた。

 私たちの気持ちを無視してマキナは言葉を続ける。


「マジマジ、でもね。簡単には教えてあげられないなぁ」

「てめぇ、立場を分かってんのか!?」

「分かってるよ。でもね、このままじゃ一番損をするのは君なんじゃないかな? はっきり言ってエリンの剣はかなりの腕だよ。それに僕ごと殺すっていう選択肢だってあるはずさ」

「うっ……」


 マキナの発言に強盗は押し黙る。当たり前の話だけどそんな選択肢は一切無い。

 しかし追い詰められた強盗は思わず声を詰まらせた。


「でね、君の選択肢は三つしかないわけだ。このまま武器を下ろして出頭するか、僕を殺してエリンに斬られるか、僕の条件を呑んで隠し通路で逃げ出すか。どれにする?」

「うっ……」

「さあ、さあさあさあさあ! 早く決めなよ!」

「条件は何だ?」

「コイントスで僕に勝つこと。それが僕の条件だ」


 マキナが懐からコインを一枚取り出した。


「それじゃ……いくよ」


 コインが大きく弾かれた。まるで運命を乗せたかのように綺麗に回転をする。

 出会ったときと同じように彼女の手の甲にコインが乗る。


「さあ、どっちだい?」

「……へっ、俺を甘く見るなよ。裏だ!」


 隠していた手を開けるとコインの面は表だった。


「残念! 表でしたー」

「こ、この野郎! ぶっ殺してやる!」


 大きく剣を振り上げる前にマキナの口が動いた。


「壁際のスロット、右から三番目の近くにあるのが隠し通路さ」


 隠し通路の場所を聞いたとたん、マキナを突き飛ばしスロットの場所へ走る。

 壁を押して隠し通路を見つけるとすぐさま奥へと走っていった。

 私はすぐさま、マキナの元へ駆け寄る。


「マキナ、大丈夫?」

「うん、大丈夫―。でもあいつ凄い臭かったな。今日は帰ったら銭湯に行かないと」

「その前にどうして教えてしまったのよ? いえ、何故あんな提案を!?」

「どうしてって……もうあいつの運命は決まったからだよ」

「え?」

「あの通路の先は……ね。フフフ、やっぱ教えるのは後で!」


 いたずらっぽい笑みを浮かべるマキナ。

 私は違和感を覚えながらその言葉を聴くしかなった。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 後日、あの強盗は見つかった。遺体となって。

 どうやら生きたまま食われたらしく、顔はすさまじい形相だった。

 血生臭い遺体を見ながら、彼女の言葉を思い出していた。

 

「逃げた矢先に魔物に襲われて……か。後味が悪い結末だな」

「そうね」


 隣にいるマイヤーが話しかけてくる。

 あの後、二人の強盗は無事役人に引き渡した。

 賞金も少し減ったが私も分け前を頂いている。

 ……でもこんな結末になるなんて誰が思ったのだろうか?


「そうねって……エリン、あんまりショックを受けてないみたいだな」

「バカをいわないで。あの時自分で捕まえられなかったことが悔しくて仕方が無いのよ」

「そうか……まあ気にするな。いい稼ぎの仕事はまだまだあるはずさ」

「そうね」

「それよりも今日のクエストだ。がんばろう」

「ええ」


 私たちは今日の食い扶持を稼ごうとクエストへと向かった。



    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おかえりー」

「ただいま……」


 マキナは居間で本を読んでいた。

 クエスト自体は簡単に終わったが、やはり彼女の言葉が引っかかっていた。


「今日のご飯はなに?」

「……その前に教えて」

「何をさ?」

「あなた、あの強盗がああなるの分かってたの?」

「うん、そうだよ」

「そうだよ、って……」

「何? 生かして捕まえたかったの? それについてはごめんね」


 軽い口調で言う彼女。

 彼女の言葉通り、捕まえたかったんだろうか?

 違う――。


「……違うわ、ただ何かが釈然としないの。あのとき、あなたは罠がある道を教えたわけでもないし、出口の先が魔物の住処だったってわけでもない。でも、偶発的にしては出来すぎてる。そう、まるで……」


「「何かに操られているよう」」


 まるで先読みをしたかのように同じ言葉を口にする。

 当たったことにマキナはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 そしてまるでこちらを心を読むかのように一言。


「エリン、僕は神様じゃないよ。ただ……」

「ただ?」

「僕は人とは違う力を持っている、それだけだよ」

「そう……」


 彼女の言葉に私はただうなずくしかなかった。


「それよりもご飯! 早く作ってよ」

「はいはい」


 子供みたいな駄々をこねる彼女を見ながら台所へと入っていった。

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