二話 初めての異世界 その3
「そうですか、ありがとうございます」
頭を下げるあたし。これで十連敗。ここまで来ると完全に心が砕かれつつある。
あと一回やったら休憩しよう。そう思いながら裏通りの寂れた街道を歩いていく。
俯かないように、と自分を鼓舞してきたがそれもいよいよ限界。視線も下へと下がる。
日の当たらない場所なのか道すがらにはコケが生えており、壊れた樽や木箱が乱雑に置かれていた。
気をつけて歩かないと転びそうねぇ。……と思った矢先に硬いものが足に当たった。
「いってぇ!」
「このガキ! どこに目をつけてやがる!」
突然、肩を捕まれて目を白黒するあたし。
目の前にいるのはモヒカンとバンダナが特徴的なコワモテ男。
どうやらこのどちらかの足をうっかり蹴っ飛ばしてしまったようだ。
「ごめんなさいね、ちょっと考え事をしてたものだから……」
「うるせぇ! 考え事だのお抱え事だか知らねぇが、こういうのにはそれ相応の詫びの仕方ってモンがあるだろ!!」
「そうだ! その通りだ!」
これはよくある不良がするカツアゲって奴なんだろう。彼らには残念だけど――。
「お詫びって言っても……あたし、無一文なんだけど……」
「いつ誰が金が欲しいって言った! 俺たちが欲しいのは……お前のパンツだ!」
「はぁ!?」
思わずあんぐりと口をあけてしまう。
人通りの少ない裏通りとはいえ、金銭ではなくパンツを要求されたのはあたしが初めてだろう。
呆然としているあたしに対し、男たちは口早に捲し立てる。
「ふふふ、お嬢ちゃんのパンツならきっと良い感じに売れるだろうぜ!」
「ああ、生で食べても美味そうだぜ!」
「煮てよし! 焼いてよし! 蒸してよし! だが俺たちはツウだから出汁を取って堪能するんだよ!」
とんでもない発言をする二人に対し、あたしは頭の回転が一行に速くならない。
異世界に来て初日。いかにもな連中に因縁を付けられて、パンツを奪われました。
なんてことになったら恥ずかしくて枕を被るしかない!
どうする? DEを使うか!? いや、こんな馬鹿げたことに使うのは何かが違う!
「待ちな!」
突然背後から声が聞こえた。男たちもあたしも声の主の方へ視線を送る。
そこには一人の男が立っていた。色黒でなんか見るからに軽薄そうな男だった。
いやそれでもあたしには唯一の助けにも見える。
一方の二人は現れた男を見て思わず驚きの声を上げた。
「お前は……! リック!」
「そう、俺の名前はリック! またの名前をフラフープのリックだ!」
「なにぃ! まさか……後出しジャンケンのリックなのか!」
「いや、違うぞ! 女風呂覗きのリック! なんて恐ろしい奴だ……!」
「トランプマジックのリックの異名もあるぞ! どうせ呼ぶならこっちにしな!」
「………………結局、何者なのよ!? コイツ!」
「ツッコミ! この状況で入れてくるなんてこのお嬢ちゃんも只者じゃねぇ!」
「ああ、ツッコミを入れてくるなんてな! やぱりパンツを貰っておいて損はなさそうだぜ!」
「アホか! この状況で突っ込みを入れる以外何があるって言うのよ!?」
「確かに!」
「一理あるな……」
したり顔でうなずく三人の男たち。一体なんだっていうのよ……。
そして再びリックと男たちは再び対峙をする。
あたしは横の方に追いやられてしまい、この光景を呆然と見守るしかなかった。
「さあ、お前たち! お嬢ちゃんを放しな……。さもなくば痛い目を見ることになるぜ!」
「断る! せっかく見つけた上物! 簡単に渡すわけにはいかねぇ!」
「ああ! そうだ! 俺たちはロリコンだからな! かわいくて小さな女の子には目が無いんだ!」
「それ自慢すること!?」
「違う! これは自慢じゃない、俺の本音だ!」
もはや理解を超えた三人のやり取りにあたしの頭ついにオーバーヒートを引き起こした。
「とにかく! お嬢ちゃんを放してもらうぜ!」
「上等だ! 俺たち二人を相手に生きて帰れると思うなよ!」
「新聞の記事に小さく飾ってやるぜ! リック敗北ってな!」
「ふん、お前らに負ける俺じゃねぇぜ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして喧嘩が始まった。ハエが止まるようなパンチを繰り出すモヒカン。
それをうなぎの如く腰をくねらせてかわすリック。
その横からバンダナがタックルを仕掛けてくるがリックはカルメン風味のターンをして避けた。
あっ、勢いをつけすぎて近くの壁にぶつかってる……。痛そうね……。
それを見逃さずモヒカンが蹴りを繰り出すが周りを見てなかったせいで足は壁に引っかかり見事に不発。
足を押さえて飛び上がっている。もうちょっと冷静になりなさいよ……。
「これで止めだ! でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「まけるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
モヒカンとリックはお互いに駄々っ子パンチを繰り出し、勝敗は決した。
男たちはそのまま大きく吹き飛び、尻餅をつく。
「ぐはぁ!」
「ま、負けた!」
「ふ、ふん! ざまあみろ!」
二人の男はお約束的な捨て台詞とともに尻尾を巻いて逃げていった。
一方のリックと呼ばれた男はよろめきながら不敵な笑みを浮かべている。
おかしな男だったかもしれないけどあたしを助けてくれたのだからお礼を言うのは筋だろう。
……っ! 口元に血が……。すぐさま彼に近付く。
「ちょっと大丈夫!?」
「ふっ、お嬢ちゃんが無事ならそれで良いのさ」
「……とりあえず、お礼は言っておくわね。ありがとう」
「フッ、君を守れて俺は満足さ」
「もう、こんなときにまで冗談をいうんだから……ほら、これで顔を拭きなさいよ。汚れてるわよ」
「サンキュー、君の心が染み入るぜ……」
ハンカチを持っていなかったのでやむなくセーラー服のスカーフを取り外してリックに手渡す。
一応綺麗だと思うけど……大丈夫よね?
リックはあたしのスカーフを受け取るとそれで顔を拭く。
しかし……そのうち顔だけじゃなくて首や腋を拭き始めたのだった!
「誰がそこまでやれって言った!」
「ぐはぁ!」
あたしの蹴りがリックの顔面に直撃するとそのままひっくり返って気絶をした。
それがリックとの出会いだった。
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結局の所、どこにも行く場所がなかったため、リックの後を付いていくことになった。
そんな最中にこの町で仕事と寝る場所を探していることもついでに話した。
しばらくして着いた場所は木で出来たちょっと大きめの建物。
しかし大きさの割に入る人や近付く人の姿はまばらだった。
あたしとリックは扉を開けて建物の中に入っていく。
「おーい、親父! 浮浪児連れてきたぞ」
「誰が浮浪児だ!」
「おお、リックか」
建物の主と思わしき大柄な男がこちらに顔を向けた。
あのチンピラとは違った意味でコワモテな顔つきだった。それに威圧感がすさまじい。
これはアレかしら? 危ないお店とか紹介されるのかしら?
そんな不安そうな顔のあたしとリックの顔をコワモテ男は交互に見やる。
「……うん? まさか……お前……」
「ああ、こいつは……」
「バカ野郎! いくらお前が女好きだからってこんな年端も行かない少女に手を出しやがって!」
「へ?」
そういえばあいつらに掴まれたまま服を直すのをすっかり忘れていた。
完全にヨレヨレの状態で端からから見れば乱暴にされたようにも見える。
さらに先ほどの不安そうな顔をしてしまったせいで余計な想像を掻き立ててしまったみたい。
「ち、ちがうぞ! 俺はちゃんとした男だ! 最低でも十六歳未満の少女には手を出さん!」
「嘘をつくな! どうせお前のことだ、口八丁でこの子をこんな場所に連れてきやがって!」
「信じてくれ! 俺はこの子を救っただけだ!」
「あのー……」
「お嬢ちゃん、コイツに何かされなかったかい? 妙にベタベタ触られるとか、面白いものを見せてやるとか……。」
「いえ、特には……」
「ほらな?」
「バカ野郎! お前に口裏を合わせているだけかもしれんぞ! ただでさえお前はろくでもない奴なんだからな!」
「いや、そんなことは無いぞ! この前だって――」
と二人は良い争いをし始める。どうやらリックって男はよっぽど信頼されていないらしい。
まああたしのために頑張ってくれたのは十分理解している。
でも言葉の端々から軽薄と言うか、不真面目さと言うか……そういった物が見え隠れしているのは見過ごせなかった。
流石に二人の漫才をいつまでも見ているわけには行かない、そう思い大声をあげた。
「あの! 悪いけどあたしの話を聞いてくれないかしら?」
「おう、良いとも。役人への証言として扱うから安心してくれ」
「いや、そうじゃなくてね……。お仕事を探してるんだけどどこか良い仕事場ないかしら?」
「ああ、それなら……ここで働いてみるかい?」
「え?」
「武器を磨くだけの簡単な仕事だがやってくれる奴が少なくてな……人手不足なんだ。だからお嬢ちゃんみたいな小さい子でも出来るから、ぜひとも働いて欲しいんだ」
「よ、よろこんで!」
「うんうん、仕事が見つかってよかったな」
「ところで名前を聞いていいか? 流石にお嬢ちゃんじゃ呼び辛いだろうしな」
「え?」
突然の質問にしどろもどろになるあたし。
「どうした? まさか名前まで忘れてしまったんじゃ……」
「バカを言わないで! えっと……あたしの名前は……」
困った。理想の自分になることにかまけて名前を考えることをすっかり忘れていた。
前世の名前なんか使ったらおかしなことになる。そういえば仕事探しのときは名前も聞かれなかったわね……。
……そうだ、この身体にはモデルが居たんだ。その彼女の名前を頂こう。
「リリア……」
「え?」
「あたしの名前はリリアよ。それに年齢は十六」
そう、モデルになった子は『劇鉄のバラッド』のリリア=アルファード。
銃使いとして一流なんだけど普段の生活ではドジッ子という困り者。
おまけに短気でしょっちゅう騒動を起すというキャラクターだった。
しかし姿や形は似てもバラッドの彼女とあたしはは全くの別物である。
というかあたし独自の解釈と言うか要素が入ってる。
その一番の例がピンクのセーラー服。彼女はこれを一回も着たことが無い。
しかし……十六と言う発言に対し、リックと主が驚きの声を上げた。
「ええええええええええええええええええええええええええ!?」
「ほ、本当か?」
「本当よ」
「し、信じられん……」
驚く主に対してリックはあたしの体を疑いの眼差しでじっくり眺め始めた。
そして何かの結論に達したのかしたり顔で頷き始めた。
「ははあ、きっとロクなものを食べてこなかったに違いないな……かわいそうに」
「そんなわけ無いでしょうが! というか何でそうなるのよ!?」
「じゃあエルフとのハーフだな。それにしても貧相だな……もっと肉を食え。肉は美味いぞ」
「あんたに心配されることは無いわよ!」
とリックのお尻を思い切り蹴っ飛ばした。
命の恩人だけどこういうことを言われるとやっぱり腹立つ。
その様子を見ていた主はついに大笑いをし始めた。
「はははははははは! 意外と元気だな。これなら明日からでも仕事に取り掛かれるか?」
「もちろん、と言いたいけど……」
「なんだ、まだあるのか?」
「恩着せがましい用で悪いんだけど宿を探してるの……どこか良いところ無い?」
「それならここの宿舎が開いてるぞ。空き部屋が多くてな、使ってくれ。」
「ほ、本当!?」
「ああ、少なくともそこで暫くの雨風を凌げば良い」
「あ、ありがとうございます! えっと……」
「俺の名前はヘンダーソン。ブレッド・ヘンダーソンだ。これから頼むぞ、リリア」
「はい! よろしくお願いします!」
おじさんこと、ヘンダーソンさんにあたしが頭を下げる。
こうしてあたしの異世界一日目は順風満帆……とは言えないものに終わったのだった。
今にして思えば冒険者になるなんてつもりは全く無かったのけど、こうして見るとなるべくしてなったのかもしれないわね。
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ギルドの入り口の扉を開けると中はごった返していた。
まあ昼も中ごろだし、冒険者もクエストを受けるために集ってくる時間帯よね。
あたしは人の波を書き分けながら受付へとたどり着くとミリィがいつも通り声をかけてきた。
「あっ、リリアさん!」
「報酬、貰いに着たわよ」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
目の前に置かれた袋を手に取ると自分のかばんの中に乱暴に放り込んだ。
わずかながらとは言えやっぱり報酬が手に入るのはやっぱり嬉しい。
「ヘンダーソンさんはどうでしたか?」
「どうって言われてもねぇ……元気だったとしか言いようが無いわよ」
「そうですか」
「訓練生は多いに越したこと無いけど、やっぱり冒険者になる層は多く無さそうだわ」
「そうですね……そういえば冒険者の学校があるってリリアさん、ご存知ですか?」
「冒険者の学校? どんなところなのよ」
「とってもステキな学校だって聞いてます。なんでも研修用ダンジョンがあったり、ここじゃ取り扱わない武器を使ったりするらしいです。」
「へぇ、凄いじゃないの。 どこにあるのよ?」
「イスカ大陸の東部ですね、はぁ、私も行って見たいです……」
「海外じゃないのよ……それならこっちは冒険者に補助金とかつけて欲しいわ」
と軽いやり取りをしながらギルドを後にしたのだった。
それにしても……冒険者の学校か。一体どんな学校かしら?
あたしは思わず海の向こうの学校につい思いを馳せてしまった。
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その日の夜、不思議な感覚をうけた。
幽体離脱ともいうべきか? 身体が軽くて空を飛んでいるような感覚だった。
だがあたしは知っている。この感覚はデモンエンペラーシステムだ。
目を開くと目の前に青い球体の前にキーボード……というかコンソールみたいなものがおいてある。
「なによ、これ」
【キャラクターメイキングシステムの起動が完了しました】
「キャラクターメイキング? もしかして……人間を作れるって事?」
【その通りです。その人物をアバターとし、その世界に定着させることが可能です】
「アバターねぇ……限度とかあるの?」
【限度はありません。ただし内容が高度になる場合、お時間を少々頂くことになります】
「内容が高度……」
いっている意味が分からないのでとりあえず色々いじって見ることにした。
髪色や顔つきから始まり、肌の色や種族と言った欄もあり色々作れることに驚いた。
こうなると凝った物を作りたくなってくる。そうだ、"あの作品"に出てた"あの子"にしよう。
思い立ったらすぐさま作り出して見る。しかし……なかなか上手くはいかない。
時間制限が無いとはいえ、気が付けば二時間くらい時間を経っていた。
そしてようやく初めてのアバターが完成した。出現場所はイスカの冒険者学校。
「できたわ、名前はアカネで」
【了解しました。早速起動しますか?】
「もちろん!」
【アバター02、”アカネ”を起動します】
眩い光が放たれると同時にあたしの意識はこの体を離れ“その子”に意識が定着していった。




