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第四話 お嬢様、遊園地のお時間でございます その3

「ついに……完成したのですね」

「ああ、あとは最終テストを残すのみだ」


 工房区の更に北に位置する採石場に私はいます。

 承認を得て一週間。ジェイムズ様を初めとする建築課の面々が勢ぞろいしております。

 目の前にあるのは鉄骨をくみ上げて作り上げた遊具の数々。

 試作品とはいえ、たった一週間でこれを組み上げる建築課の方々には頭が下がるばかりです。


「それにしてもお嬢様、こいつをどこで買ったんだ?」


 ジェイムズ様が私に一冊の本を返される。

 コイツ、というのは私が渡した一冊の本でした。

 書いてある中身は遊園地の遊具の作り方。

 ジェットコースターから観覧車まで一通りのことが書かれています。

 これを元に皆様方が色々作ってくれました。


「……実は……旅の商人から……面白そうな本でしたのでつい……衝動買いを」

「ほほう、なるほど。面白い本だからきっと舶来物に違いないな」


 嘘です。ジェイムズ様は頷いて感心してますが実際は違います。

 これは私がDEの力を使って生み出した理論書です。

 同じものを前にこっそり読んで見ましたが全く分かりませんでした。

 最初はどういったものか、までは理解できたのですが……。

 後のほうになると専門用語のオンパレードでそっと本棚の奥にしまいました。


「それでだ……。残すは人を乗せた最終テストなんだが……」

「誰も乗りたがらないんですよね」

「ああ……まあ、当然と言えば当然だがな」


 ジェイムズ様も私も目の前にある遊具。

 ジェットコースターを前にみんなが立ち尽くしております。


 曲がりくねったレールの上をコースターと呼ばれる乗り物が駆け抜ける。

 言葉としてはシンプルですが、この世界では見たことも聞いたこともない存在。

 何が起こるか分からない恐怖にみんな足踏みをしております。


 もちろん、最初は言いだしたのはほかならぬ私。

 なのでテスト乗車は私がするつもりでした。

 しかし御身を大切にしなさいとばあやをはじめ多くの方に止められました。


 前日には一応同じ重さのマネキンを使ってコースターを稼動させましたが……。

 急停止で身体が吹き飛んだり、衝撃で身体が大きく揺さぶられたりとなかなか恐ろしい光景が広がってました。

 微調整を何度も繰り返し、ようやくテスト機が完成したと報告をを受けたのは本日の朝。

 調整班の皆様、ご苦労様でした。


「ならここは私の出番だな」

「ゴードン様!」


 やってきたのは筋骨隆々の鎧戦士、軍務を預かるゴードン様でした。

 反対派でしたが作るとならば手助けをすると仰った辺り、とても仕事熱心で義理堅いです。

 ゴードン様が遊具に視線を移す。


「ほう、あれか」

「おう、一通り作ってみたんだが流石に未知すぎて誰も乗りたがらねぇ。一通りの安全は確保したつもりだがな……」


 興味があるのかちょっとだけ目を輝かせてますね。

 珍しい物に興味を持つのは皆一緒なのかもしれません。


「そうか……おい!」

「はっ!」


 ゴードン様の後から三人の騎士がいらっしゃいました。

 身長も顔付きもみな違いますが、整列する姿はやはり訓練された軍人ですね。


「命知らずを三名ほど連れてきた。好きに使ってくれ」

「始めまして、マイケルといいます。以後お見知りおきを」

「同じくビル! 趣味は身体を鍛えること! 見てくれ、この筋肉を!」

「同じくアンソニー、魔物と戦わないでお金を稼げるって聞いて付いてきちゃった」


 マイケル様はメガネをかけた金髪の男性。上昇志向が高いのか、なんともいやらしい雰囲気を感じます。

 ビル様はゴードン様と同じように筋肉質の男性です。モヒカンなのはこの方の趣味なのでしょうか?

 アンソニー様は人懐っこそうな顔をした小柄な方です。バンダナを頭に巻いてますが……。あれはオシャレなのでしょうか?


 服装はゴードン様と同じように鎧を着てますが、性格は三者三様という言葉が似合います。


「ありがてぇ。じゃあ早速だが三人とも乗ってみろ!」

「はっ!」


 ジェイムズ様の呼び掛けに敬礼をすると、すぐさま三人はジェットコースターに乗りこみます。

 椅子に座るとバーが降りて体が固定されまました。準備完了です。


「それじゃ……スタートだ!」


 親方が手を挙げるとベルが響く。

 コースターはゆっくりと前進し、地響きを思わせる重い音とともに徐々にせり上がっていく。

 それを私はただ呆然とそれを見送るだけでした。


「やはり私が……」

「お嬢様、こうなってしまってはどうすることも出来ませんぜ」

「大丈夫だ、彼らは勇敢な勇士、この程度のことに怯むことはない!」


 お二人がそれぞれ言葉を発すると同時にコースターが頂点に達し、落下した。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 コースターが突風の如く駆け抜ける。

 それと同時に天を裂くかのような雄たけびが周囲に響き渡るのでした。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「大丈夫ですか?」

「いい訓練になった! ありがとう!」

「面白かった! 二回目があるなら乗るけど?」

「テストは成功だ。ありがとうよ!」


 コースターは見事一周することに成功しました。

 お乗りになられたビル様とアンソニー様はピンピンしてます。

 これならもう少し凝った物を作っても問題はありませんね。


 ……あら? マイケル様は……。


「…………うう」


 鼻を鳴らして手で顔を隠してます。

 一体何があったのでしょうか?


「あの……」


 私が声をかけようとすると、ゴードン様とジェイムズ様が私の前に立ち塞がりました。


「お嬢様、何も聞かないであげてください」

「男の意地って奴だ、聞かないのも優しさって奴だ」


 ……よく見るとズボンが……。

 その光景を見て私は全てを察しました。


「わかりました、それが一番良い事なのですね」

「はい、さあ次だ!」

「おお!」

「おお……」


 弱弱しいマイケル様の声とともに次の遊具へと向かうのでした……。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 大きな船型の遊具。通称――。


「バイキングシップですね」

「バイキングシップとは縁起でもない言葉ですな」


 私の言葉にゴードン様が少々複雑な表情をしておられます。

 何とか読み取ろうとしますが……。苦手、というのはなんとなく分かりました。


「そうなのですか?」

「ええ、知っての通り港では海賊に襲われる人もいるので……」

「そうですか」

「まあ名前はともかく、これはどういう遊具なのですか?」

「これはただ左右に揺れるだけのシンプルな遊具です」

「なるほど……これは簡単そうだな、マイケル!」

「ああ、そうだな……」


 着替えを終えたマイケル様。ズボンではく提灯のような物を穿いてます。

 何らかの対策をした、と言うことでしょうか?

 まあ先ほどより晴れやかな顔をされてるのでそう思っておきましょう。


「よーし、早速乗ってみろ!」

「はっ!」


 再び三人が遊具に乗り込みます。

 ジェットコースターと同じようにバーが降りるとバイキングシップが動き出しました。

 この乗り物は外から見るとゆっくりと動くため、それほど驚異には感じませんね。

 左、右、左、右、と何度も左右に振られています。


「ひゃああああああああああああああ!」


 またも声が……マイケル様は大丈夫なのでしょうか?

 数分後、大きい揺れが徐々に小さくなり、そして止まりました。

 降りてくる三人ですが……。


「うー、ごめん。俺これは苦手だ。ちょっと酔っちゃった」

「ふん、軟弱者め」

「まあ腹筋に圧力がかかるからな。お前はもうちょっと腹筋を鍛えた方が良い」

「そうだね」


 先ほどとは違い、笑顔を見せております。

 流石に先ほどのようなことはなかったのでしょう。

 どうやらこれも無事成功のようですね。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 次はコーヒーカップに載っていただきましょう。

 真ん中にハンドルが付いて回る程度なので、ジェイムズ様を初めとする方からは少々疑問の声が聞こえましたが……。

 乗ってみれば分かる。と思うので早速――。 


「セリー様!」


 珍しい三人がやってきました。アリサとマーガレットとジェニーです。

 一体何故ここにいるのでしょうか?


「楽しそうなことしてますね!」

「ええ」

「新しい事をなさっていると聞いてつい来てしまいました」

「そうですか」


 意外と目ざといようです、三人とも。

 ジェイムズ様のほうに視線を送ってみると頷いてくれました。

 ジェットコースターのような問題がないようですね。


「乗ってみます?」

「いいんですか!?」


 私の言葉にアリサが目を輝かせる。

 こういうのは女の子でも乗って頂かないとダメでしょうしね。

 ……一番乗りたかったのはは私ですけど……。


「ええ、ぜひ!」

「そっちの人も乗る!?」


 アリサの言葉に三人も頷く。

 というか横からやってきた人に奪われるのも良い気分はしないでしょうしね。


「もちろん! それが任務ですから」

「俺女の子と合い席するの、これが始めて!」

「ふん、女子に恥をかかせるなよ」


「さあ乗った! 乗った!」


 グルグルとコーピーカップが回るだけです。

 でもこういうときでも個性も当然出ますね。


「きゃあああああああああ!」

「楽しいー!」


 アンソニー様とアリサは完全にコーヒーカップを楽しんでおります。

 回転のさせすぎで二人の姿が全く見えません。完全にカップのような何かになってます。

 あんなにぐるぐる回して大丈夫なんでしょうか?


「は、初めまして……ジェニーと申します」

「こちらこそ、ビルと申します……」


 なにやらお互いに良い雰囲気なのはジェニーとビル様のカップ。

 回すこともしなければお互いに席に着いたまま俯いた状態です。

 ……狭いと言うこともあるせいか、完全にお見合い状態ですね。


 さてマーガレットとマイケル様は……。


「ふん……何故コイツと……」

「ふぅ……まさか一緒になるなんて思ってなかったわ」


 お互いにそっぽを向いたままうんざりとした顔です。

 正直に言えばとても楽しそうには見えませんね。

 一体あの二人に何があったんでしょうか?



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「メリーゴーランドですか。これは命がけではないので私乗れますね」

「ええ、ですが試作機なので三機しかないのです」

 

 ……一応形式的に乗るな、と警告されてるようにも感じます。

 それでも


「セリー様、ここは私が!」

「ちょっと、何を……」

「分かりました、では皆様にお願いします」

「はーい!」


 木馬がスタートしました。 何だかめまぐるしく変わりますね。


「きゃぁ! 速―い」


 どことなく高速回転する姿に違和感を感じます。

 メリーゴーランドってここまで早いものでしたのでしょうか?

 

「あの……少々早くありませんか?」

「そうかい? うちの奴らは皆速い方が好きなんだがな」

「ええ、でもこれはもっと小さい子も乗るので……」

「そうか、それならもうちょっと遅くするか。おい、もう少しゆっくりにしてくれ」

「はい!」

 

 親方の要望に応えるかのようにゆっくりになりました。

 速度が落ちて目に優しくなりました。これなら窮屈なベルトも必要ありません。


「この程度ならば子供も乗れましょう」

「まあそうでしょうな」


 例え上下に揺れる程度でも子供に楽しい物だと思います。

 公園の大きなバネの乗り物だってもう乗らなくなりましたが、あれも何かが面白かったはずです。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 最後は観覧車ですね。遊園地になくてなならない物です。

 かなり大きく作ったため工房区だけではなく、他の区からでも見えました。

 港や駅から来る人たちには一体あれはなんだ、と何度も首を傾げられましたが。


「これは揺れたりしないのでお嬢様でも乗れますよ。数もたくさんあるので是非」

「そうですか、では」


 ようやく乗れると言うことにちょっと気分が高揚してきました。

 早速、小さなゴンドラの中に入ってみます。

 踏み込むときに少し揺れるのは一種のご愛嬌。

 そのまま席に座るとゆっくり上昇していきます。

 ゆったりとした時間が流れる。窓の外から見える町の景色が普段とは違った印象を与える。

 こうやって観覧車に乗ると気分が落ち着いてきますね。

 街を一望しながら紅茶でもすすりたいのですが、それは流石に品がないでしょう。

 ……いつか水筒でも持って行きましょうか?

 

 しかし頂上から降りる算段となる辺りで軽い振動が起こった。


「……とまった!?」


 観覧車が止まりました。思わず窓に張り付いて状況を確かめます。

 中央の車輪が回ってないことを確認すると、下の方を見てみます。

 地上ではジェイムズ様たちが大あらわで動いてます。

 一体何が起こったのでしょうか? 更に状況を確かめようと扉を開けようと手を伸ばす。


【危険! ドアから離れて!】

「え?」


 DEの警告もむなしく、突然ドアが開いた。目の前が光で真っ白になる。

 そのまま身体が風を感じる。緑色をした大地が目いっぱいに飛び込んでくる。


「ま、まずい!」

「セルリアお嬢様!?」


 落ちる寸前、とっさの判断で観覧車の床に手を伸ばし、事なきを得た。

 しかしこのままでは宙吊りの状態です。

 観覧車の中に戻ろうとしても風が強く、支えるしかない状態。


「……くっ……」

【警告! このまま落下するとあなたの生命が失われます!】

「分かりきったことを言わないでください」


 何とかゴンドラに戻ろうとしますが強風と自身の貧弱さが相まってゴンドラに戻れません。

 徐々に手が震える。自分の身体すら支えられないとは……。

 この手を離したら死ぬというのに何故か頭の中が冷静でした。

 そういえば死んだ直後もショックらしいショックを受けてないことを思い出す。


「お嬢様!」

「早く助けなくては!」

「おい、どうなってる!?」

「今復旧を急いでます!」


 皆あまりのことにアタフタしてます。

 手の感覚が徐々に失っていく。手汗で滑り始めそうです。

 風に吹かれるたびにこのまま手を離してしまえ、とまるで何かが囁いてくる。

 お父様、申し訳ありません。このような軽薄なことを考えたあまりに……。

 お兄様、どうやら私はここまでの――。

 

「バカヤロウ! 簡単に諦めるんじゃねぇ!」


 え?


「手を伸ばせ! セル! こんな所で死ぬようなタマじゃねぇだろ!」


 お兄様……。夢か幻か、目の前のお兄様は私に手を差し伸べる。

 私は思わず伸ばしたお兄様の手を掴む。力強い感触が手から伝わる。

 そのまま引き上げられるかのように、私はゴンドラの中へと戻った。

 

 それと同時に観覧車が動き始める。気が付けばあっという間のことでした。

 そのまま気が抜けたかのようにゴンドラから地上へ降り立つ私。

 すぐさまアリサたちが駆け寄ってきます。

 どうやら他の方は無事降りられたようですね。


「セ、セリー様。だ、大丈夫ですか?」

「ええ、流石に多少すりむきましたが。五体満足ですよ」

「おお、お嬢様! お怪我はありませんか?」

「大丈夫です、私の不注意で多くの方を怖がらせてしまいましたね」

「いいえ、そのようなことは!?」

「それよりも今回のことは十分ありえるケースだと思います。ジェイムズ様、改良をお願いします」

「ははっ!」


 頭を下げるジェイムズ様ですが私のほうは気疲れが一気に噴出してきました。

 今こうやってたっていることが正直信じられません。

 ……幻だったとしても……またお会いしましたね、お兄様。 



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そして一ヶ月が経過しました。

 ジェイムズ様を始め、私の建設計画。遊園地が見事完成しました。

 ……普通は一年くらいかかるもの、と踏んでましたが、この町の建設技術はすさまじいものがありますね。


「みなさま、遊園地へようこそいらっしゃいました。このたびは日々の疲れを忘れ存分にお遊びください」

 

 頭を下げると壇上から降りる。それと同時に人々が遊園地へと入っていく。

 私は脇にある控え室に入ると深いため息をついた。

 ひと段落を終えると同時に何だか無性に手紙を書きたくなりました。


 しかし一息すらつかせないと言わんばかりに控え室の扉が開かれました。


「お嬢様! 人が多すぎてモギリが足りませぬぞ! このままでは……」

「では私たちも券を切るお手伝いを!」

「はい!」


 すぐさま席を立ち、遊園地の入り口に立つ。

 何人ものお客様を相手にしながら、私はいつかお兄様とこの地で遊びたいと心を馳せていた。


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