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第四話 お嬢様、遊園地のお時間でございます その2

 とはいうものの気分が楽になったから、と言って状況が変わるわけでもありません。

 ここはもっと別の視点を考えなくては……。


「……市井のことを知るならやはりこれでしょうね」


 ラジオの電源を入れてみる。少しのノイズの音ともに声が聞こえ始めた。

 ちょうど時間は夜中の九時。ラジオも終わりが近い時間です。


「皆様、いかがお過ごしでしょうか。ブルーメールのお時間です」


 ブルーメール。青い手紙は箱に入った悩みを開ける鍵。を合言葉に始まったラジオ番組です。

 シェリーとアルバートとという男女二人のパーソナリティーで番組を進行しています。

 二人の織り成す軽快なやり取りは私も好きです。

 私も一度、手紙を出してみようと思いましたが……。流石にばあやに止められました。

 一日の終わりに流れる静かなピアノ伴奏が心を穏やかにしてくれます。


「まず最初のメールは商業区に店を構えるロイドさんから“シェリーさん、アルバートさん、こんにちは。”こんにちは」

「こんにちは」

「”最近、この町に人が増えてちょっと大変です。この間も子供たちが見せの前で走り回って商品に体当たり。子供は無くは商品に傷が付くわで大変でした。”」

「はは、それは大変でしたね」

「笑い事じゃないわよ、アルバート。本人にしてみれば商品に傷を作ってことは品物が売れなくなるってことなのよ」

「ええ? そうなのか?」

「そうよ。まあここ最近は町の規模が広がって土地の開発が活発だからしかたないんだけど」

「それは知らなかった。そういえばこの間、新しいパン屋を見つけたんだ。あれも開発の結果なのかな?」

「ええ、もちろん。でも別の問題が露見してるわ」

「別の問題?」

「子供たちが遊ぶ場所が無いってことよ。この間も商業区で誘拐未遂があったんだから」

「そうだな……。商業区で遊ばせるのも色んな意味で怖いな」

「犯罪に巻き込まれると危惧する人もいるし、それとは別に子供のせいで危ない目に合った人もいるわ」

「なるほど……ねぇ。それじゃあ次の手紙に行ってみようか。――」


 なるほど、子供たちの遊ぶ場所が無いのが課題ですか……。

 より詳しく知るためにDEに聞いてみましょう。


「DE。この町の子供たちは増えているのでしょうか?」

【はい、現在この町の人口は十年前と比べて二百%ほど増加しています】

「……えっと、それは十年前の増加に比べて、という意味なのでしょうか」

【はい、その通りです】

「つまり猛スピードで人口が増えているその背景は……」

【町の発展です。この町はすさまじい勢いで発展しております】

「……なるほど」

【具体的に言えば工房区では安価な量産品が日々出荷され、商業区では日々取引が行われております。人手不足というのもあり、人が集まってきています】


 そこまでとは知りませんでした。

 人が集まってきている……。それなら公園でも作りましょうか?


「DE、公園を作ろうと思いますがその効果は?」

【効果としては良好です。住宅区の一部に建設すれば住民のストレス解消になります】

「それは良かった」


 早速明日お父様に報告をして見ましょう。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「難しいな……」

「そうですか……」


 昨晩のうちに書き上げた企画書を提出してみた所、お父様は少々顔をしかめてます。

 場所も考えも全てDE他人任せでしたが……。いきなりの頓挫です。


「まず西区の一角に作るのは良い、場所も最適だ。しかしだな……」

「なにか問題でも?」

「工事用の資材を入れなくてはいけませんし、予算のチェックをしなくてはいけません。それに……」

「ここに作るとなると周辺住民への説明も必須だ。それをお前一人でやれ、というわけだが……出来るか?」

「それは……」


 言葉を濁す私。やったことのないことに戸惑いを隠せません。

 お父様からの睨み付けるかのような視線につい、身体が硬くなる。

 そんな私にフランクリン様が深いため息をつく。


「お嬢様、考えるだけならば誰でも出来ます。しかし不可能なことも世の中にはあるのですよ」

「はい……」

「一度、この企画書を考え直すといい」

「分かりました」 


 戻された企画書を手元に戻すと書斎を後にする。

 難しいな、と言われたときに……。心のどこかで裏切られた、と思ってしまいました。

 DEに対しても、お父様に対しても。

 DEは的確に空いている土地や効果を私に掲示してくれました。

 お父様も私が言った事をちゃんと聞いた上で、難しいと判断をなされました。

 簡単に通ると思った考えが否定されると、こうもショックを受けるとは……。


 いえ、違いますね。ただ住民説明をすればいいだけでした。

 やったことが無いからという理由で尻込みをしてしまいました。

 しかし――。


 堂々巡りの考えのまま、当てもなく屋敷の中をうろつく私がそこにいました。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……思わずここへ来てしまいました。公園の建設予定地としてる場所です。

 広い空き地なのですが整備をされておらず、土地は荒れて石がゴロゴロしてます。

 ここを公園として整備すれば憩いの場所として使われることでしょう。


「あっ、セルリア様だ!」

「セルリア様!」


 子供が私に気が付くと一斉に集ってきました。

 どうやらこの空き地で遊んでいるようですね。


「セルリア様、こんな所でどうしたんですか?」

「いえ、実は……ここに公園を立てようと思っているのですが……」

「ええー公園!?」


 みんなオドロキの反応をしてますね。当然でしょうけど。


「そんなのいらねぇよな」

「うん、この空き地で十分だよ」

「公園だと大人が来るし、あたしも要らない」


 意外と辛らつな言葉が返って来ました。

 大人が来るのが嫌、といわれるとは……。

 怪我をするよりそちらの方が問題のようです。


「でもまあ、遊ぶ所が増えるって言うのなら賛成だけどな」

「それは一体どういうことなのでしょうか?」

「ここらへんって遊ぶ所がないんだよ、大人は色々遊んでるくせにさ」


【商業区と港の境目にある歓楽街のことだと思われます】


 ……それは流石に子供には早い話ですね。


「それで暇だから商業区や工房区に行って遊ぶんだけどさ、今度は危険だ邪魔だの言われるんだ」

「なるほど」


 子供も子供で大変ですね。

 私の子供の頃はどうだったのでしょうか? 記憶を手繰り寄せてみる。

 ……お稽古事が目一杯入ってて、遊ぶと言う習慣はありませんでしたね。

 そうでなくとも暇と感じる時間はありませんでした。


「それに最近、パパとママ、遊んでくれないし……」

「どういうことですか?」

「コイツの親、商業区で仕事しててさ。何かチェックだとか書類だとかで、帰って来れないことが多いんだ」

「遊んでっていっても疲れてるからって言って遊んでくれないの」

「そうなのですか……」


 休日のジレンマ、と言うべき物でしょうか?

 親としては疲れを癒したい。子供は親と遊びたい。

 ……この両方をいっぺんに解決する手段……。

 子供は自由に遊び、親としては子供を見てるだけで十分なら親は疲れないでしょう。

 いえ……そうでなくても大人も疲れを癒せる物が理想ですね。

 だからと言ってお芝居や本などでは、じっとしていられない子もいる。

 運動? 運動が苦手な子もいますし……だとするなら遊具でしょうか? 

 それもかなり大掛かりなもならば……。あっ、もしかしたら……!?


「わかりました、ありがとうございます。皆様」


 子供たちに頭を下げる。私の考えがまとまった瞬間でした。


「どういたしまして」

「いいってことよ! お礼はお菓子の詰め合わせでいいぜ!」

「うわ、ずうずうしい!」

「ホントホント」

「なんだよ、お前ら!」


 駆け出していく子供たち。私もやるべきことが決まりました。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「大きな公園を作る?」

「はい、駅の南の辺りに誰も使ってない大きな土地があります。そこに娯楽区と呼ばれる新しい区を作りたいのです」


 後日、DEの力を駆使し、新しいものを作る場所を考えてみました。

 その結果がお父様の前にある分厚い紙の束です。

 ただのアイディア程度だったものが徐々に、そしてあまりに大規模はことになり、私も驚いてます。

 これから私がやろうとしているのは大きな公園……いえ、遊園地の建設なのですから。 


「お嬢様、流石に無茶でございますぞ」

「住民説明は無理だと思って今度は空いた土地に何か作ろう、などとずいぶんと短絡的な考えではないか、セルリア」


 フランクリン様よりもお父様の言葉の方がきつく感じます。しかし……。


「短絡的といわれればその通りかもしれません。しかし私の考えが正しければ作ることに十分の意義と効果を望めると存じ上げます」

「言ってみろ」

「一つ目は子供の増加による娯楽の不足です。工房区や商業区で遊ぶ子供が増えていることも課題です。これは大きな娯楽施設を作ることで解決をします」

「ふむ……」

「もう一つは広い土地に娯楽を中心としたものを作ることで観光客の増加する目論見があります」

「ほう……」

「最後に親子で遊べる場所を作ることで家庭問題への配慮、子供への支援となります。以上です」


 勢い任せに言葉を紡いで見ましたが……お父様の反応は……。


「……言いたいことは分かった。だが時間を三日ほどくれ」

「三日ですか?」

「ああ、各部署のものを呼び寄せなくてはならん。その間にお前はお前の考えをまとめておいてくれ。細かい話はそれ以降だ」

「かしこまりました」


 私が頭を下げ、書斎を出て行った。

 廊下を歩いていると緊張が解けたのか、服が少しくたびれたかのように崩れます。

 自分の意見をただ言ってみただけなのですが、何故このように疲れるのでしょうか?

 ともかく三日後の決戦に向けて色々準備をしなくてはいけません。

 DEに頼りきりでは恐らく負けてしまうでしょう。

 なのでより明確な形を作り上げなくては……。


 

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ついに来ましたか……」


 馬車が南の行政区にある一番高いビルの前に止まる。

 鉄筋コンクリートが眩しい真っ白な壁。

 天辺の辺りには我が家の家紋が大きく掲げられています。

 いくつもの窓ガラスが張られ、小奇麗な印象を与えます。

 ここがこの町の中枢。庁舎ビルです。私は意を決して中に入ります。

 大きな机の前で仕事をしている受付嬢に近付き、お父様の居場所を問います。


「エレベーターで五階までお上りください」

「ご丁寧にどうも」


 頭を下げるとそのままエレベーターに乗り込む。

 エレベーターの動く音を聞きながら、何度も頭の中でリハーサルを行う。

 エレベーターの扉が開くと目的地の会議所へ一直線。

 重苦しい扉を開けて中へと入りました。


「失礼します」

「来たか……」

「開始五分前、お時間としてはちょうどいいかと思いますぞ」


 そこにはお父様とフランクリン様のほかに三方が座っておりました。


「始めして、エーリカ・シャルウッドと申します。この町の財政と経理を担当しております」


 メガネをかけた“いかにも”秘書と言う風貌の女性ですね。

 でも凛々しい顔立ちなせいかキツイ印象を与えます。


「私はゴードン・トラヴィス。この町の軍事と治安を担当。よろしく頼む」


 筋骨隆々、会議所という場所でも重い鎧を脱ごうともしません。

 強面ですが鎧や服装に乱れがありません、とても生真面目なお方です。


「俺は建築課のジェイムズ・オーラン。この町の建築は全て建築課の俺たちの仕事よ」

 鉢巻を巻いたヒゲの男性ですね。ドワーフの方でしょうか?

 百面相に動く顔と陽気な雰囲気。とてもおおらかな方にお見受けしました。


「皆様、お初にお目にかかります。セルリアと申します」


 御三方に挨拶を返す私。そして時間となり、会議が始まりました。

 進行役のフランクリン様を隣に私の考えを述べていきます。

 企画書の中身をただ話すのではなく、解説と理由を混ぜ合わせながらこの建設計画を話していきます。

 ときどき声が出なくてちょっと脚が震えましたが……。まあ一通りのことが出来たと存じ上げております。

 しかし……御三方の反応はどうにも芳しくありません。


「以上が、私の建設計画です。各部署の皆様方、ご意見をお願いいたします」


 最初に口火を切ったのは財政部でした。


「財政部としては算出することは問題ありません」


 この一言に胸をなでおろします。


「しかし……いつまでこの建物を保持するおつもりなのでしょうか?」

「そうですね……最低でも十年は視野に入れてるつもりですが」

「十年は少々短いと思われます。せめて三十年を視野にお願いします」


 エーリカさんはなかなか手厳しいです。


「軍部としては反対しますな。理由としては攻撃目標になりやすいというのと、この大きな場所を警護するのはかなり苦労をしますでしょうし」

「攻撃目標ですか?」

「今でこそ戦争にはなってませんが、やはりそういったものを視野に入れなくてはなりません。あと人が多く押しかける様になればスリの類いも増えましょう」

「そうですね……」


 治安維持という面でもかなり考えなくてはいけませんね。

 ちゃんと考えてる辺りがなんとも頼もしく感じます。


「建築部としては賛成するぜ。どんなものを作りたいかはちょいとよくわからねぇが楽しそうなのは伝わってきたからよ。ただ……」

「ただ?」

「こいつを作るとなると材料費が嵩むのとテストに時間がかかりそうだ」

「なるほど……」


 DEがもたらしてくれた建設計画は課題は多いそうです。

 技術的な部分に関して言えばいくばくかのテストが必要のようです。


「結局の所。維持予算がかかることと軍事目標にされることを除けは大まか許されると言うことですか」

「そうなります」


 維持予算と攻撃目標の二つ……。これの解決の手段は……。

 この二つへの反論を考えている最中でした。 


「一つ、いいか?」

「なんでしょうか、お父様」


 今まで沈黙を保っていたお父様が口を開いた。

 正直、嫌な予感しかしません。


「セルリア、お前は何故これを作ろうと思った? 何故作りたい?」

「子供達のため、町の発展のためですけど……それがなにか?」

「……聞き方を変えよう、こういうものを作る理由にお前の私心や私欲が入ってないのか?」


 こういうときのお父様はかなり怖いです。

 下手なことを言えば……大声で威嚇されるでしょう。

 しかし……それにひるんではいられません。


「……正直に申し上げればないとは言い切れません……」


 下手に嘘をつけば看破されてしまうでしょう。

 ならばありのままを話すしかありません。


「ですがこれは私なりに考えた結果であり行動です。町のため、土地に住む者のをことを考えた結果であると、私の考えです」

「退く気はないのか?」

「進む理由はあれど退く理由はありません、お願いします」


 お父様に逆らうことはあんまりないのですがこのときばかりは言葉に力が入りました。

 不安で頭がしびれてきました。緊張の汗すらもう出てきません。

 頭の中でそれでもと、何度も繰り返すしかない。


 私の顔をじっくり眺めた後、お父様は再び口を開いた。


「……最終決議に入る、セルリアの試案に採択を」

「賛成」

「反対」

「賛成だぜ」

「二対一で賛成だ。セルリア、お前の考えを実行しよう」

「あ、ありがとうございます」


 頭を下げるしかありませんでした。

 自分の考えが認められると言うのはこんなにも喜ばしいことだったとは……。


「だが喜ぶのはまだ早いぞ」

「その通りです、ここからが本番なのですからね」

「うむ、反対の立場をとりましたが手をお貸ししますぞ」

「さて、これからが仕事だ! 頼むぞ、お嬢様!」

「はい!」


 こうして生まれて始めて作り上げた私の都市計画はスタートしたのだった。


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