第二話 お嬢様、作法のお時間でございます その3
パーティー当日。本日はお日柄もよく……。いえ、もう夜でしたね。
今日はとても星が綺麗です。しかし少々曇っているのか月が隠れてますね。
私は馬車から出るとパーティーの会場入り口へ。
相変わらず堅苦しい雰囲気の建物ですね、ここは。
足を止めて、じっくりと目の前の建物を眺めてみる。
会場となったのは迎賓館と呼ばれる高級な建物です。
門は青銅で出来ており、レリーフが彫られております。
奥にある建物は宮殿のような建物が広い敷地に我がもの顔で居座っています。
そしてその合間にある庭園。綺麗な木々が規則正しく並んでいます。
今は夜ですが、昼には平民や観光目的の旅人がここで景色を楽しんだりします。
子供の頃は、ここで季節祭と呼ばれるお花見会をやりました。
あの時、お兄様がオランウータンの如く、樹から樹へ飛び移ったのを覚えてます。
……もちろん、後でお父様にとても叱られましたが……。
「セルリア様!」
「ジェニー、それに皆様方も」
迎賓館の入り口にあるサロンに入ると、ジェニーが駆け寄ってきました。
それに連なるかのように他の方も徐々に集ってきます。
どうやら私を含めた生徒全員、無事にいるようですね。
「セルリア様のお召し物は……?」
「自前です、本来なら皆様と同じ物を着るべきだったのでしょうけど……」
ばあやが用意してくれたのは、白を基調としたドレスでした。
サファイアのイヤリングに、真珠のネックレス。これでもまだ初心者用らしいです。
……それにしてもこの手のドレスって露出が激しすぎません!?
肩を出すだけならまだしも、要所要所がきわどい気がします!
少し動いただけでも足が出たり、胸なんてほぼ丸出し寸前です。
正直、かなり恥ずかしいです。ばあや。
「いいえ、そんなことはありません! 素敵です!」
「ありがとうございます」
気合を入れすぎてしまったのは仕方がありません。
こうなったら私も覚悟を決めます。ええ、開き直ります。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、マダムが上品に笑います。
「ホホホ、どうやら全員揃っていらっしゃいますね」
「はい!」
「さあさ、社交会を。パーティーを始めましょう!」
「はい!」
みんなそれぞれ会場へと入ると壁際へ並んでいきます。もちろん私も。
会場では無数の紳士淑女の皆様がいらっしゃいました。
よく見ると私以上に際どい方もいらっしゃいますね。
まずはマダムのスピーチから。
「皆様、本日は私のパーティーにご出席いただきありがとうござあます。今宵は貴族も平民も身分を忘れて、パーティーをお楽しみ下さあませ」
マダムが礼をするとみな拍手でそれを迎えました。
パーティー開始の合図です。
「セ、セルリア様!? 私たちどうしたら?」
「大丈夫、まずは会場を暖めましょう」
「暖めるとは?」
「まずはお互いにご挨拶をしましょう。このパーティーにご招待された方々は、私たちのことをご存じない方も多いでしょうし」
「は、はい!」
そう、まずは一通り挨拶をすることで接点を持ちます。
せっかくですので身近にいる方からご挨拶をしておきましょう。
言葉としては少々トゲのある言い方かもしれませんが、この恰幅の良い紳士から。
「初めまして、皆様方」
スカートのすそをそっと広げ、挨拶をします。
「おお、その蒼い髪は……なるほど、あなたがセルリア嬢か」
「あら、私をご存知なのですか?」
「ええ、もちろん。……なるほど、オルダート様は良い淑女に教育なされた」
「いいえ、その様なことは」
オルタードというのは私のお父様の名前です。……今知りました。
おそらくお父様のお知り合いの方なのでしょうけど……私は名前を知りません。
あとでばあやに聞いておくことにしましょう。
「ふふ、まあ、今回はマダムのパーティーだ。気楽に話しをして、見聞を広げなさい」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ、私はこれで」
「はい、失礼いたします」
お互いに礼を返すとそのまま他の方と談笑をし始めました。
その様子を見ていたジェニーたちが近付いてきます。
「セ、セルリア様。あの方は一体!?」
「えっと……」
「ウッドマン商会のドナルド=ウッドマン様さ。マダムのお茶会はあの人で成り立ってるからねぇ。お互いに懇意にしてるって訳さ」
「なるほど……って!? あなたは!?」
横から来た男性の登場に私もジェニーも思わず驚いてしまいます。
視線の先にいたのは、紫色の長い髪とちょっと人懐っこそうな顔付き。
軽快かつちょっとキザっぽい言い回し。ナンパ師の風格が見え隠れしてます。
燕尾服を少し着崩す辺り、かなり場馴れをしています。
間違いありません、ばあやがいたら徹底的に警戒をする人物。
ですが私はこの方の情報をあらかじめ入れてありました。この方は――。
「たしかエインワーズ家の……」
「初めまして、お嬢さんたち。俺……もとい、私はエイワーズ家の三男。ジュリオと申します。気軽にジュリオと呼んで下さい」
「ジュリオさま!」
「素敵……」
ジェニーを初め、みんなジュリオ様の登場にはしゃいでおります。
まあこのような若く美形の紳士がいたらそうなるのも当たり前ですね。
しかし……。元男としてはあのような方のどこが良いのか、と。
チャラチャラした男に対し、少し嫌悪します。
でも顔は良いんですよねぇ……、ジュリオ様。
と、いつまでも呆けていてはいけませんね。
私は勤めを果たさなくては……。ふと周囲を見渡してみる。
目に入ったのは遠くでふて腐れた顔をした方がいらっしゃいました。
「流石はマダムといった所か、よくもまあこんなパーティーに人を集めたものだ……」
うーん、マダムに好印象を抱いてないようですね。
ここは一つ先制攻撃をして見ましょうか。
「初めまして、ご気分はいかがですか?」
「うん? 何でお前は?」
「このパーティーに招待された者です」
「そんなことを聞いているのではない、名前を聞かせろと言ったのだ」
「ああ、私としたことがとんだご無礼を。改めまして……セルリアと申します」
「そうか……」
私が名乗るとその方は再びそっぽを向いてしまいました。
……一体何者なのでしょうか、この方は。
思わず観察を開始してしまいました。
黒いです。とにかく黒いです。肌も黒ければ髪も黒いです。
それに対比させたのかスーツの黄色と白が良いアクセントになってます。
ひげは生やしてませんがどことなくワイルドな雰囲気。
貴族というより傭兵や戦士のように見えます。
正直、パーティーに呼ばれるような方には見えません。
……このままでは埒が明きません、思い切って聞いてみましょう。
「あの、差し支えがなければお名前を」
「俺か? 俺は……」
「おーい! 探したぞ!」
「すまん、用事が出来た。ゲイル、こっちだ」
「あっ!」
突然現れた殿方、ゲイルと呼ばれた男性に手を振るとそのまま行ってしまいました。
……失礼な方です。本当に。
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会場では色々話の花が咲いております。
私もまた家名のためにひたすらいろんな方に話しかけます。
帝国の宰相の息子。財団の若き当主。隠居された貴族の老夫婦。
もちろん従者や平民にもご挨拶をします。
例えどんな方であって、もパーティーに呼ばれた方は皆大切なお客人。
それがパーティーの礼儀であり、道徳であり、秩序である。と教えられました。
挨拶がある程度終わり、一息を着きます。
本当に人が多いです。マダムの人脈に恐れ入ります。
家名を守る、という大義名分を果たすには私もまだまだ力不足のようです。
疲れ果てて座ってでゆっくりしようとした矢先、マダムが現れました。
「ホホホ、パーティーは始まったばかりでござあますよ。この程度でへこたれてはいけません」
「も、もちろん存じ上げてます」
意地というか、見栄を張ります。
本当はヘトヘトです。辛いです。でもそうは言ってられません。
「では、練習の成果を見せていただきましょうかねぇ」
この一言に私の身体が急にこわばりました。
きました! この雰囲気! ああ、何故このようなことに!
マダムの目が鋭い! ああ言いながらも威圧的オーラを感じます!
これは絶対に失敗できない!
「さあさ、パーティーの醍醐味、ダンスのお時間でござあます」
「はい!」




