表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/72

第六話 アカネと試験と…… その3

 トーナメント最終日の深夜。アカネは寮の部屋から飛び出していた。


「よっ、はっ、せいや!」

 

 突きや蹴りを何度も繰り返す。寮の隅にある広場では深夜であるせいか、誰もいない。

 しかしそのうち飽きてしまったのか、バク宙をしたり逆立ちで回転し始めた。


「何やってるのよ、こんな時間に」

「警備の人が驚いちゃうよ、アカネちゃん」


 呆れた顔のローラと苦笑しているイリアがやってきた。

 すぐさま逆立ちをやめて、二人の方へと向き直る。


「ごめん、なんか眠れなくて」

「まあ、無理もないわね。いよいよ明日で最後なんだから」


 明日は試験最終日。ダンジョンに潜る者もテスト用紙に向かう者もこれが最後となる。


「いいこと、外から来た奴に優勝かっさらわれるんじゃないわよ!」

「うん、任せて!」

「それにしても……あのグレンって奴。いったい何者なのかしら?」

「うん、すごく強いって聞いてるけど……アカネちゃん、大丈夫!」

「大丈夫! 絶対に勝ってお師匠に報告に行く!」


 そうはアカネは言うが二人は心配の色を隠せない。

 というのもアカネの対戦相手、グレンは一方的な試合展開で勝ち進んできた。

 相手に攻撃をさせることはなく、一撃で相手を倒すという試合展開で。

 しかし同じように参加した冒険者や生徒に大けがをさせたという話も出ている。

 危ないからやめた方がいい、なとど口が裂けても言えない二人。

 なのであえて明るい調子でローラは話す。


「わかったわ、その代わり勝ったらみんなでお祝いしましょう!」

「うん!」

「さて、あたしはそろそろ寝るわね。ダンジョン組は明日は早いから」

「私も。寝不足で試験を落としたりしたらみんなでいい休みを貰えないし」

「うん、それじゃ! お休み!」


 アカネは二人を見送ると再び突きと蹴りを繰り出した。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 トーナメント最終日。今日も前日と同じ、いやそれ以上に観客がいた。

 アカネは通路の奥で屈伸をしたり、体を左右に伸ばしたりしている。

 最後に頬を叩いて気合を入れなおすと武舞台の前に来る。

 いつも着ているオレンジのスーツは今日はとても輝いていた。

 それもそのはず、今日に限ってアカネはこのスーツをきれいに磨いていたからだ。


「決勝戦はアカネ選手対グレン選手!」


 審判が武舞台の上で叫ぶとアカネとグレンが武舞台へと昇る。

 観客席にいるエリザベートは固唾を飲んで見守っている。

 一方のブレイクは渋い顔をしたまま二人を見ていた。


「……アカネと似た技を使う奴だったな……いったい誰だ?」

「多分、アカネちゃんは気づいているんじゃないかしら?」

「そうか……」


 エリザベートの言葉にブレイクはただ相槌を打つしかなかった。

 最前列にいるマーガスがアカネに向かって声をかけた。


「頑張れよ! アイツに勝って優勝だ!」


 大声で応援をするマーガスに対し、アカネは手を振ってそれに応える。

 一方のグレンは腕を組んだまま試合の始まりを待っているようだった。

 ただし……その両の腕は軽く震えており、何かに苛立つかのように見える。


「初め!」


 審判の声が響く。しかしお互いに構えたまま動かない。


「動かない?」

「どういうことだ?」


 グレンもアカネは間合いを保ったまま動かない。

 じわじわと時間だけが過ぎ去る中、グレンの方はしびれを切らしたのかついに動いた。


「来ないのなら……こっちから行くぜ!」


 グレンが駆け出すと同じようにアカネも動く。

 風のような蹴りがアカネに向かってくる。だがアカネはそれを手のひらで弾いた。

 次は拳が飛んでくるがそれを受け止める。

 グレンは何度もアカネに対し、攻撃を仕掛け、アカネはそれを避け、受け止め続けた。

 そして激しい攻防の最中、アカネはわずかなスキを突いてローブを掴む。

 上へと力任せに引っ張り、脱がせる。


 ローブが宙に舞うと、中から一人の女の子が現れた。

 銀色の髪と吊り上がった目、狂暴な八重歯。背は小さかったがそれでも胸は大きい。

 そして何よりの特徴はアカネと同じスーツを着ていた。しかし色は赤だった。

 彼女の姿を見て、アカネは思わず問いかける。


「もしかして……ホムラちゃん!?」

「ホムラ? グレンじゃねぇのか?」


 ブレイクを始め、観客はグレン、ホムラをじっくり見る。

 ホムラと呼ばれた少女は怒りの表情をする。


「名前から何となくわかってたけど……」

「……アカネ」

「久しぶりだね、元気してた!?」

「……アカネ、俺がここに来た理由は……お前を潰すためだ!」


 ホムラの言葉にアカネは目を丸くする。


「おいおい、なんだか穏やかな感じじゃねぇな」

「潰すって……どういうことだよ?」


 試合会場は騒然となった。

 グレンという名前が偽名だったこともあるが、姿を現した人物が少女であったことが驚きを隠せない。

 そのまままくし立てるかのように一気に言葉が噴き出した。


聖技(セイント・アーツ)は元々門外不出の聖拳! 邪を討ち、魔を滅す! それゆえに村の中でひっそりと継承されるもんだった。それなのにお前は村を出てっちまいやがって! それに昨日の試合もそうだ! 人様に見せるもんじゃねぇのに、馬鹿みたいに技を使いあがって! お前、聖技(セイント・アーツ)をなんだと思ってる!? それだけじゃねぇ! お前が着ているのは村に七つしかない凱聖の鎧!勝手に持ち出していいもんじゃねぇんだぞ!」

「……ホムラちゃーん! ばらしてるばらしてる!」

「……へ?」


 アカネの指摘を受け、周囲を見渡すホムラ。


「なるほど、そうなんだ……」

「知らなかったー」

「アカネは何も教えてくれなかったんだよねぇ」


 コロシアムがざわめいている。

 その光景を見てどんどん青ざめていくホムラ。自分が何をしたか理解したのだった。

 彼女の言う通り、聖技(セイント・アーツ)は門外不出の聖拳。

 公衆の面前でこともあろうに聖技(セイント・アーツ)について堂々と説明してしまったのだ。


「あっあっあっ……」

「これでホムラちゃんも同じだね」

「……と、とにかく! てめぇをここで倒して! 村に連れて帰る! いいな?」

「やだ!」

「やだじゃねぇだろ! わがままを言うんじゃねぇ!」

「ホムラちゃんだって似たようなもんでしょ!」

「バカヤロー! 俺はクソババアに言われて仕方なくここへ来たんだ! てめぇと一緒にすんじゃねぇ!」

「でもバラしたことは変わんないと思うけどー」

「んだと!?」


 さらに怒りのボルテージが増したのか、さらに狂暴な顔つきになる。

 短気な性格なのか大声でアカネを威嚇する。


「上等だ! ここでどっちが上か教えてやる!」

「私、お師匠と一緒にすごい修業をしたもん! だからホムラちゃんには負けない!」

 

 再びお互いに構えを取る。

 先ほどと打って変わってアカネの方から攻撃を仕掛ける。

 だがホムラも負けじと拳を打ち、蹴りが飛び出た。

 まるで激流の川のごとく激しく攻防が入れ替わる。


「すっげぇ……」


 誰かが小さくつぶやく。

 ブレイクを始め、みんな二人の戦いを呆然と見ていた。


「でりゃあ!」


 アカネの渾身の一撃を両腕でガードするホムラ。

 今度はこちらの番と、速いパンチを幾重にも繰り出して来る。


「だだだだだだだ!」

「うわわわわわ!」


 剛速球にも似た素早い拳が飛んでくるが、アカネはそれをすべてかわしていく。

 ときどき間合いを詰めたり離れたりと、細かく動いてホムラに主導権を握らせない。


「くっそぉ! ちょこまかしやがって!」

「ホムラちゃんは相変わらずだね」

「うるせぇ! お前が村を出てって何年になると思ってやがる!」

「……結構経ったよね」

「結構どころじゃねぇだろ! 三年だ! 三年も経ってるんだよ!」

「うん、そうだね」

「そうだね、じゃねぇ!」


 イライラが頂点に達したのか、ホムラが腕を前に出す。

 アカネも同じように腕を前に出す。


「フレイム・バスター!」

「フラッシュ・バスター!」


 お互いの手のひらから炎と閃光が放たれた。

 光と炎がぶつかり、熱波と衝撃が会場を包み、激しい雷が周囲に飛び散る。


「くそ! アイツと一緒にいてレベルが上がったってわけかよ!」


 相殺されたことにいら立つホムラだったが次の瞬間、アカネが飛び込んできた。

 信じられない、といった表情をした次の瞬間、ホムラの体は大きく吹き飛ばされた。


「んなぁ……マジかよ」


 もう一撃加えようとするが今度は逆にアカネが吹きばされる。

 アカネの攻撃にホムラが合わせたのだった。しかしそれを無理矢理踏み留まる。


「まだまだ! このくらいあの時と比べたら!」


 思わず不敵に笑うアカネ。それがたまらないのか益々怒りの顔になるホムラ。

 二人の戦いに観客も盛り上がっていく。


「がんばれー! アカネ!」

「勝ってお前の師匠に報告するんだろ! 踏ん張りどころだろうが!」

「私に勝ったんだから優勝しなさい!」


 会場全体がアカネコールをする。その光景にホムラは我慢が出来ない。


「だったら騙らせてやる!」


 まるで炎が立ち上るかのように腕を組んで精神を集中し始める。

 まずい、そう思いすぐさま近づいてそれを潰そうとする。


「そう来ると思ったぜ!」


 すぐさま腕を組むのをやめ、ホムラの拳が前に出た、とっさにガードをするアカネ。

 だがそれは早計だった。ホムラは打撃ではなくアカネを腕を掴んで下へと引っ張る。

 その間に足を払うと宙に浮かせる。そして思い切り体ごと蹴り上げて吹き飛ばすと両手をアカネの腹部に突き付ける。


「アーク・ブラストだ!」


 アカネの体に大きな爆発が起こった。赤の炎と白の煙が辺りに飛び散る。

 アーク・ブラスト。ホムラが操る炎の技だった。

 至近距離で放たれた大爆発。受ければただでは済まない。

 白煙とともにアカネの体が大きく吹き飛ばされ、そのまま武舞台の上を転がっていく。


「おいおい! 大丈夫なのかよ!?」

「見て!」


 アカネはすぐさま立ち上がる。腹部に黒コゲがつく程度だった。

 土壇場で飛びのいて事なきを得たのだった。


「あっぶなぁ……」

「くそ、ふさけやがって!」


 再びぶつかり合う二人。大技がを防がれてホムラは肩で息をし始めた。

 アカネの方もかなり体力を削られたらしく、足元が少々おぼつかない。

 それでもお互いに拳を作ることをやめず、相手に一撃を加えていく。

 しかし……ついに均衡が破られた。


「でやぁ!」

「ぐぅ!」


 アカネの一撃でガードが崩れた。腕が大きく後ろに弾かれる。

 これしかない! そう思い一気に踏み込む。手からは雷が迸る。

 師匠の技を自分なりにアレンジした新しい必殺技。


「ドラゴン・ファングだ!」

 

 打ち上げ式のボティブローを食らい、ホムラの体が大きく吹き飛ばされる。

 衝撃なのか空気との摩擦なのか、激しい電流がホムラに流れ込む。

 

「うそだろ……俺が……負けるなんて……!」


 そのまま場外に飛び出し、地面を転がっていく。

 何とか立ち上がろうと体を起こそうとする。だが、それは叶わずその場に倒れた。

 決着はついた。レフェリーが宣言をする。


「勝者アカネ選手!」

「いやったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 大きくジャンプをして喜ぶアカネ。

 会場から歓声が一気に立ち上る。


「やったぜ、アカネ!」

「おめでとう! アカネちゃん!」

「へっ、よくやるぜ!」

「いい試合だったな……」


 マーガスが、エリザベートが、ブレイクが、アインがそれぞれ賞賛の言葉を浴びせる。

 しかし……それに待ったをかけるものがいた。


「ふざけんな! これで終わりだなんて冗談じゃねぇ!」


 ホムラだった。ボロボロの体を無理矢理立ち上がらせて、武舞台の縁に手を置く。

 そこから再び上がろうと腕に力を入れる


「俺は! 俺は……クソ……!」


 だがついに力尽き、そのまま担架車に乗せられるホムラ。

 散々暴れまわった成果なのか、その顔は悔しさで滲んでいた。


「大丈夫なのか? アイツ」

「ホムラちゃんは大丈夫!」


 何かを言いたいことがあるのはアカネにも分かった。

 そうではなかったらホムラはこのオプティムまでは来なかっただろう。



   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そしてホムラが医務室に運ばれた後、表彰式が行われた。


「優勝トロフィー授与!」


 ジョーニアスから大きな金色のトロフィーを貰うアカネ。


「おめでとう、アカネ」

「ありがとうございます!」


 表彰台の上でトロフィーを受け取るアカネ。

 そして大きく掲げるとコロシアム全体が大きく揺れた。

 アカネの笑顔は太陽のように輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ